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笑顔で耐える
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お風呂でほかほか、お腹もいっぱい、人心地がついたところで。
「どうして川を流れるようなことになったんだ?」
父さまの膝の上に載せられて取り調べが始まった。
ここからお説教の流れである。うう、辛い。
「お散歩で橋まで行ったら足が滑って落ちちゃったの……」
落ちようと思って落ちた訳ではない。
「散歩は隣近所までと約束しておいた筈だが」
いわゆる向こう三軒両隣くらいの範囲までである。我が家の近辺は貴族の住宅街なので一軒一軒の敷地が広いから、半径二百メートルくらいになるかな。もちろん川は範囲外である。
「えっと、お天気が良かったから……」
数日雨が続いた後の晴れだったので、ちょっと遠出した。川面を流れる風の心地良さを堪能したかったというか。
「ごめんなさい」
父さまに大きく息をつかれて、私は言い訳をやめた。
いやだってこれ、謝り倒すしかないよね?
父さまは目の下に隈が出来てるし、母さまは赤く目を腫らしてるし。どれだけ心配をかけたことか。使用人のみんなにも迷惑をかけてしまった。
「心配かけてごめんなさい……うわあああん」
母さまの目がまた潤んできたのを見て、私も貰い泣きである。
「いいのよデイジー、いくらしっかりしてるからって五歳のあなたから目を離した私たちが悪いのよ」
母さまが頭を撫でてくれる。
確かに私は五歳なんだけど、精神的には二十代なのでそう言われると居たたまれない。人間としても猫としても、自分の身体能力をきちんと把握して気を付けていれば、避けられた事態なのである。全面的に悪いのは私だ。
その夜は、父さまと母さまと一緒に眠ることになった。
いつもは自分の部屋で一人で眠ってるんだけど、自室に向かおうとしたらふらついたので、『一人にするのは危ない』ということになったからである。
怪我は治ってるし、どこか痛い訳でも弱ってる訳でもないんだけど。
言えない、まるまる二日間の猫生活の影響で、久々の二足歩行に感覚がついて行けなくてふらついただなんてっ!
早く人間の生活に慣れなくちゃ……。
おかしい、私、人間なのに。
「デイジーは真ん中ね」
母さまに抱っこで運ばれ、ベッドの上にぽんと載せられる。
「はい」
まあ、二人の間で寝るのも久々だし、それはそれでいいよね。
「あれ? 私のぬいぐるみ?」
何故か、父さまと母さまが使っているベッドの上に、私の猫のぬいぐるみが置かれていた。
「デイジーがいない間、無事を祈って抱いて寝ていたのよ……」
予定外の使われ方だけど、ちゃんと身代わりの任務を果たしていたらしい。母さまの目がまた潤んできて、私は慌てて抱きつく。
「今日は私を抱っこして寝てね」
右斜め四十五度、必殺の小首傾げで母さまを篭絡する。そんな切ない思い出は忘れてほしい。
「ええ、そうするわ」
またもやぎゅうっと愛の試練が来るが、頑張れ私。笑顔を絶やすな!!
「どうして川を流れるようなことになったんだ?」
父さまの膝の上に載せられて取り調べが始まった。
ここからお説教の流れである。うう、辛い。
「お散歩で橋まで行ったら足が滑って落ちちゃったの……」
落ちようと思って落ちた訳ではない。
「散歩は隣近所までと約束しておいた筈だが」
いわゆる向こう三軒両隣くらいの範囲までである。我が家の近辺は貴族の住宅街なので一軒一軒の敷地が広いから、半径二百メートルくらいになるかな。もちろん川は範囲外である。
「えっと、お天気が良かったから……」
数日雨が続いた後の晴れだったので、ちょっと遠出した。川面を流れる風の心地良さを堪能したかったというか。
「ごめんなさい」
父さまに大きく息をつかれて、私は言い訳をやめた。
いやだってこれ、謝り倒すしかないよね?
父さまは目の下に隈が出来てるし、母さまは赤く目を腫らしてるし。どれだけ心配をかけたことか。使用人のみんなにも迷惑をかけてしまった。
「心配かけてごめんなさい……うわあああん」
母さまの目がまた潤んできたのを見て、私も貰い泣きである。
「いいのよデイジー、いくらしっかりしてるからって五歳のあなたから目を離した私たちが悪いのよ」
母さまが頭を撫でてくれる。
確かに私は五歳なんだけど、精神的には二十代なのでそう言われると居たたまれない。人間としても猫としても、自分の身体能力をきちんと把握して気を付けていれば、避けられた事態なのである。全面的に悪いのは私だ。
その夜は、父さまと母さまと一緒に眠ることになった。
いつもは自分の部屋で一人で眠ってるんだけど、自室に向かおうとしたらふらついたので、『一人にするのは危ない』ということになったからである。
怪我は治ってるし、どこか痛い訳でも弱ってる訳でもないんだけど。
言えない、まるまる二日間の猫生活の影響で、久々の二足歩行に感覚がついて行けなくてふらついただなんてっ!
早く人間の生活に慣れなくちゃ……。
おかしい、私、人間なのに。
「デイジーは真ん中ね」
母さまに抱っこで運ばれ、ベッドの上にぽんと載せられる。
「はい」
まあ、二人の間で寝るのも久々だし、それはそれでいいよね。
「あれ? 私のぬいぐるみ?」
何故か、父さまと母さまが使っているベッドの上に、私の猫のぬいぐるみが置かれていた。
「デイジーがいない間、無事を祈って抱いて寝ていたのよ……」
予定外の使われ方だけど、ちゃんと身代わりの任務を果たしていたらしい。母さまの目がまた潤んできて、私は慌てて抱きつく。
「今日は私を抱っこして寝てね」
右斜め四十五度、必殺の小首傾げで母さまを篭絡する。そんな切ない思い出は忘れてほしい。
「ええ、そうするわ」
またもやぎゅうっと愛の試練が来るが、頑張れ私。笑顔を絶やすな!!
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