可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

文字の大きさ
上 下
52 / 54

笑顔で耐える

しおりを挟む
 お風呂でほかほか、お腹もいっぱい、人心地がついたところで。
「どうして川を流れるようなことになったんだ?」
 父さまの膝の上に載せられて取り調べが始まった。
 ここからお説教の流れである。うう、辛い。
「お散歩で橋まで行ったら足が滑って落ちちゃったの……」
 落ちようと思って落ちた訳ではない。
「散歩は隣近所までと約束しておいた筈だが」
 いわゆる向こう三軒両隣くらいの範囲までである。我が家の近辺は貴族の住宅街なので一軒一軒の敷地が広いから、半径二百メートルくらいになるかな。もちろん川は範囲外である。
「えっと、お天気が良かったから……」
 数日雨が続いた後の晴れだったので、ちょっと遠出した。川面を流れる風の心地良さを堪能したかったというか。
「ごめんなさい」
 父さまに大きく息をつかれて、私は言い訳をやめた。
 いやだってこれ、謝り倒すしかないよね?
 父さまは目の下に隈が出来てるし、母さまは赤く目を腫らしてるし。どれだけ心配をかけたことか。使用人のみんなにも迷惑をかけてしまった。
「心配かけてごめんなさい……うわあああん」
 母さまの目がまた潤んできたのを見て、私も貰い泣きである。
「いいのよデイジー、いくらしっかりしてるからって五歳のあなたから目を離した私たちが悪いのよ」
 母さまが頭を撫でてくれる。
 確かに私は五歳なんだけど、精神的には二十代なのでそう言われると居たたまれない。人間としても猫としても、自分の身体能力をきちんと把握して気を付けていれば、避けられた事態なのである。全面的に悪いのは私だ。




 その夜は、父さまと母さまと一緒に眠ることになった。
 いつもは自分の部屋で一人で眠ってるんだけど、自室に向かおうとしたらふらついたので、『一人にするのは危ない』ということになったからである。
 怪我は治ってるし、どこか痛い訳でも弱ってる訳でもないんだけど。
 言えない、まるまる二日間の猫生活の影響で、久々の二足歩行に感覚がついて行けなくてふらついただなんてっ!
 早く人間の生活に慣れなくちゃ……。
 おかしい、私、人間なのに。


「デイジーは真ん中ね」
 母さまに抱っこで運ばれ、ベッドの上にぽんと載せられる。
「はい」
 まあ、二人の間で寝るのも久々だし、それはそれでいいよね。
「あれ? 私のぬいぐるみ?」
 何故か、父さまと母さまが使っているベッドの上に、私の猫のぬいぐるみが置かれていた。
「デイジーがいない間、無事を祈って抱いて寝ていたのよ……」
 予定外の使われ方だけど、ちゃんと身代わりの任務を果たしていたらしい。母さまの目がまた潤んできて、私は慌てて抱きつく。
「今日は私を抱っこして寝てね」
 右斜め四十五度、必殺の小首傾げで母さまを篭絡する。そんな切ない思い出は忘れてほしい。
「ええ、そうするわ」
 またもやぎゅうっと愛の試練が来るが、頑張れ私。笑顔を絶やすな!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

処理中です...