可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

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愛の試練は続く

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「奥さま、何かございましたか? ……っ!」
 母さまの声が聞こえたのか、玄関から出てきたイチノが、母さまに抱き締められている私を見て、大きく息を呑む。
「旦那さまたちに知らせて参ります!」
 イチノは、メイド服の裾を翻し、外に走って行った。意外に俊足で驚く。
 そっか、父さま、外に探しに行ってくれてるんだ。




「あの、アスター伯爵夫人」
 少し遅れてやってきたトリウさまが、感動の再会を邪魔してもいいものかという顔で遠慮がちに母さまに声を掛けた。
「トリウ嬢? あなたがデイジーを見つけてくれたの?」
「見つけたのは私ではないのですが……」
 トリウさまが説明をしようとしたところに。
「デイジーが戻ったというのは本当か!?」
 父さまが物凄い勢いで走り込んでくる。
「ミャミャーン(父さまー!)」
「デイジー!!」
 ひしっと抱き締められ、愛の試練第二弾である。






「はい、それで、川を流れているところを保護したそうです」
 シオン兄さまからの愛の試練も終えて、客間で父さまと母さまがトリウさまからお話を伺っているところである。私は母さまの膝の上だ。
「川……? デイジー、川に落ちたの!?」
 母さまの顔が青ざめる。
「ミャン(うん)」
「王城近くまで流れて行ってたなんて……あああ、本当に良く無事で」
 ひしっ。
「フギャッ」
 愛の試練は続く。


「その助けてくれた学生の名前は? ぜひ御礼をしなければ」
 うんうん、娘の命の恩人だもんね、しっかり御礼して欲しい。
「ああ、申し訳ありません、三人いらっしゃいましたが、私、気が急いてしまってお名前を伺っておりませんわ……お一人は有名な方なので家名は分かりますけれど」
 トリウさま、ルークさまたちから経緯だけ聞いてすぐ戻って来たもんねえ。
 って、有名な方って?
「その方だけでも構わないので教えてもらえるだろうか」
「はい、フォレストベルグ辺境伯さまの御嫡男です。才能に恵まれ、既に剣も魔法も使いこなす百年に一人の逸材だと噂になっている方で」
「ミャッ!?(えっ!?)」
 それ、攻略者候補かもしれないから一度顔を見たいなって思ってた人だよ?
 魔法を使うってことはロイドさまで確定だよね。
 メインヒーローは王子殿下のどちらかだろうから、第二王子殿下と仮定して、学園の在籍期間が被るヒロインとの最大の年齢差は、十三歳くらい?
 ヒロイン入学時に、ロイドさまはぎりぎり二十代ということになる。乙女ゲーム的にはありである。




「母さま」
 トリウさまがお帰りになり、私は首に巻いていたハンカチと足に巻いていた包帯を外され、母さまのキスで人間に戻った。
「デイジー、ああ、本当にデイジーだわ」
 人間バージョンでの愛の試練もクリアし、足の怪我を確認される。
「かさぶたはあるけれど、もう治っているみたいね」
 足の怪我は、二筋のかさぶたという形で残っていたが、痛みはない。結構深い傷だったけど、二日で完治とか凄いなロイドさまの治癒魔法。さすが百年に一度の逸材。
「このままお風呂に入っちゃいましょうね、ずっと入れなかったんでしょう?」
 お風呂には入れなかったけど、体は拭いてもらってたので、そこまで汚れてはいないけど、念入りに丸洗いされた。
「お腹空いてるでしょう、食事にしましょうね。デイジーの好きなものを用意してもらっていますからね」
 毎食ちゃんと食べさせてもらってたから、それほど空いてないけど。
「プリン!」
 プリンが出れば食べないという選択肢はない。
 ああ、こんな濃い甘味は久し振りだ。猫の間は素材の味、もしくは薄味なものしか……いや、体のことを考えて出してくれてたんだから文句を言う気はないんだけど。
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