可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

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怖くない笑顔

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「ミャミャ(ここどこ)」
 お湯に浸して絞ったタオルで丁寧に肉球を拭われたところまでは覚えてるんだけど、そこで寝落ちか気絶をしたらしい。次に目を覚ますと、底に毛布が敷かれた浅い籠の中だった。体についていた泥汚れもなくなっていてふわふわ毛並みも少し復活している。右足には包帯が巻かれていた。少し薬の匂いもする。
 自分の状況を確認し終え、見上げればロイドさまと目が合った。
「気がついたか。暫くこの中で眠っていろ。籠に回復魔法を掛けてある」
 ああ、それでこんなほわんと温かいんだ。家でお昼寝用に使っている寝籠の四倍くらいの広さなのでちょっと落ち着かないけど。
「傷は塞いだが、流れた血液が戻る訳じゃない。当分は安静にしておくように」
 言われなくても動けません。


「ロイド、猫にそんなこと言っても、分かる訳ないだろ」
 ベッドに座って髪を拭いていたルークさまが歩いて来てしゃがみ込み、私の背中を撫でる。風呂から上がって間もないらしい。ということは、私が寝てたのは一時間弱ってところかな。
 ルークさま、私、ばっちり分かってます。ロイドさまもそう思ってます。
「よく頑張ったな、川を流れていくのを見た時はびっくりしたぞ」
 私も川を流れる予定はなかったので驚き具合では多分負けない。
 ルークさまは上半身裸で肩にタオルという格好である。
「ミャミャッミャーッ(レディーの前でなんて格好っ)」
「お、元気だな」
 鳴き声に力強さが、と喜ぶルークさま。いや、服着てよ。
「元気には程遠いぞ。多分これから酷く熱が出る」
 体が驚いているからな、とロイドさまが続ける。
「あと、早く服を着ろ。一応レディーの前だぞ」
 そうよそうよ、レディーの前なのよ!
「レディーなんだ? どれどれ」
「ミャ――――――――ッ!(ぎゃあああああ)」
 しっぽを持ち上げてお尻を覗き込んできたルークさまの手を、左足で蹴り上げる。
 ちょっと、今、何を確認しようとしたの!?
 ぜぇはぁ……。また気が遠くなってきたじゃん、興奮させちゃだめじゃん。ただでさえ血が足りないっていうのに。
「なかなか見事な回し蹴りだな」
 ぷっと吹き出したロイドさまが、蹴り上げられて呆然としているルークさまを見て、また笑った。普通の笑い方も出来るんですねロイドさま。安心しました。


「笑い事じゃないぞ、何でだろう、俺、嫌われてる? しっぽ掴んだから? なあ猫ちゃん、もう掴まないから機嫌直してくれよ」
「ミャミャンミャー(今回だけ許してあげます)」
 まあ、命の恩人だしね。
 あれ、そういえばロイドさまは何で私がレディーだってことを知ってるの?
 いやいや、私の精神衛生のためにそこは考えないようにしよう、うん。
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