可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

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怖い笑顔

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「で? 君は何者だ」
「ミャ?(はい?)」
 ロイドさまは、ルークさまをお風呂に送り出した後、私に向き直った。
「魔物とまではいかないが、普通の猫でもない。害意はなさそうだが?」
 口許は笑んでいるのに、目が怖い。もしも私に害意があれば秒で仕留める、という顔だ。どうしてばれてるんだろう、見た目は猫そのものの筈なのに。
「ミャミャミャ、ミャーミャミャ!(見ての通りのただの猫です、害意はないです!)」
 本当は人間だけど、一応、猫の時は猫と主張することにしてるので!
 そういえば、ジスカール卿に猫の時は魔力の流れがどうとか言われたことがあったっけ。魔術師から見ると分かるものなのかも。
「人の言葉は理解しているようだな」
 ロイドさまが、謎の悪役幹部感を滲ませながら呟く。その怖い笑顔やめて。
「ミャ(はい)」
 中身人間なんで理解してますよ。猫の時は声帯の関係か、ミャしか言えないけど。
 とにかく害意はないので!
 届けこの思い! と、じいっと見上げていると、ロイドさまはふうっと息を吐いた。
「まあいい、回復するまでは面倒を見よう、ただし、ルークやハンスに危害を加えるようなことがあれば、即刻排除する」
 部屋から追い出すって意味かな?
 ああ、違うよね、多分この世から消すって意味だよね……。
「ミャ!(了解です!)」
 私は体を起こして、しっぽをぴんと立てて決意のほどを見せる。
「フミャ……(あれ、目が回る……)」
 弱った体で急に動いたのが良くなかったのか、頭がくらりとして倒れ込んだ。




「大荷物だな」
 少しして戻ってきたハンスさまを見て、ロイドさまが目を瞬かせる。
 右手に薬箱と浅い籠と毛布とタオル、左手に木桶である。
「先に汚れを落とした方がいいかと思って」
 床に置いた木桶からは湯気がのぼっている。お湯を汲んできてくれたようだ。
 水気を拭われたときに、泥汚れもある程度は取れてるけど、今の私は綺麗とは言い難い。具体的に言えば、肉球の間がざらざらしている。
 ありがとうハンスさま! 細かいところまで心配りのできる人なんですね、見た目はクマなのに。
「あと、寝床にと思って」
 ハンスさまは浅い籠と毛布を見せる。
「それ、風呂の脱衣籠……寮の備品……」
 ロイドさまが、それはちょっと、という顔になる。
「一つくらいいかなと思って」
 そういう意識で公共の物を持ってきちゃいけません。窃盗ですよ!
「まあいいか、たくさんあるし、寮の外に持ち出す訳でもないし、数日借りるだけだしな」
 ロイドさまは目を瞑ることにしたようだ。
 いいのかな、私が原因でハンスさまが犯罪者に。
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