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私がヒロイン?
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「おい、もうちょっと頑張れ!」
頭上から声が聞こえ、差した影が大きくなったかと思うと、派手な水音がした。
誰かが飛び込んできてくれた?
お腹をぐいっと掴まれて水中から引き上げられる。
「よし、もう大丈夫だぞ」
もしかして助かった? 助けられた?
モブの私にもヒーローがいた!!
「息してるか? してるよな?」
私の呼吸が確認できなかったのか、逆さにして振られる。
「ギャッ ゲホッ」
ちょっと乱暴過ぎる気もするが、いくらかの水を吐き出した私は、少し楽に息が出来るようになる。ありがたがらねばならないのだろうか、酷い扱いなのに。
いやいや、何を贅沢言ってるの私。橋の上から川に飛び込んで助けてくれたんだよ? もう感謝しかないよ? ありがとうありがとう。
肩に乗せられてゲホゲホと咳き込んでいるうちに、川岸に辿り着く。私を助けてくれた人は、私を地面に降ろすと、踵を返した。
「ミャ?(あれ?)」
足音が遠ざかる。橋の上に繋がる階段を駆け上がっていくのが見える。
もしかして置いていかれた? やっぱりヒロインじゃないとこんなもんか。
川から拾い上げてもらっただけありがたいと想わないと……でも、体力エンプティで冷え切って怪我もしてる仔猫を放置したらすぐ儚くなっちゃうよ、もう少し頑張ってほしかった。まずい、目を開けてるのもきつい。
眠いのか気絶しかかっているのかよく分からないが、ふうっと気が遠くなる。
「死ぬなよ、何とかするからな」
私を助けてくれた人の声がする。戻ってきてくれたんだ。薄っすらと目を開けると、先程は持っていなかった鞄を斜め掛けにしている。そっか、多分、飛び込む前に橋の上に荷物を残して来てて、それを取りに行ってたんだ。
布で包まれて抱き上げられ、腕の中に収められた。もう顔を上げる体力もないので、くてっと身を任せる。
「とにかく寮に戻ろう……」
私を助けたヒーローは、勢いよく走り出した。目茶苦茶揺れる、気持ち悪い、喉の奥から何かがせり上がってくる。げほっ、げほっ、げほっ。
私を包んでいる布は彼の上着のようだが……ごめんなさい、盛大に汚しました。
「ルーク? どうしたんだ、びしょ濡れじゃないか」
どうやら寮とやらについたらしく、少し揺れが緩くなったところで、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。目を開けるのも億劫なので姿は確認できない。
私のヒーローは、ルークさまというお名前らしい。
「ロイド! ハンス! 猫が川を流れてた! どうしよう!!」
駆け寄ってきたのは知り合いらしく、名前呼びで窮状を訴えるルークさま。何とかするとか言っていたが、人任せなのかな、この発言。どうやら私のヒーローは計画性がないタイプ。
「ちっちゃいな、まだ仔猫か。助かるのかこれ」
ロイドさまかハンスさまか分からないが、怖いことを言う。
「冷え切ってる上に怪我してる。医者に行けばいいのか? 猫ってどこに連れて行けばいいんだ」
王都に限らず、獣医と言えば牛や馬が専門という人が多く、犬猫を診てくれる獣医は少ない。何で私がそんなことを知っているかというと、心配性な父さまが、猫の私が病気や怪我をした場合に備えて調べたからである。
「俺が診るよ。部屋へ。とにかく温めないと」
ロイドさまかハンスさまか、怖いことを言ってないほうの人がそう言った。
俺が診るってどゆこと。助けてくれた人のお友達らしき人が都合よく獣医師なんてことがあるの? ヒロインならともかくさ。
もしかして私がヒロイン!?
……いや、そんな筈は。
頭上から声が聞こえ、差した影が大きくなったかと思うと、派手な水音がした。
誰かが飛び込んできてくれた?
お腹をぐいっと掴まれて水中から引き上げられる。
「よし、もう大丈夫だぞ」
もしかして助かった? 助けられた?
モブの私にもヒーローがいた!!
「息してるか? してるよな?」
私の呼吸が確認できなかったのか、逆さにして振られる。
「ギャッ ゲホッ」
ちょっと乱暴過ぎる気もするが、いくらかの水を吐き出した私は、少し楽に息が出来るようになる。ありがたがらねばならないのだろうか、酷い扱いなのに。
いやいや、何を贅沢言ってるの私。橋の上から川に飛び込んで助けてくれたんだよ? もう感謝しかないよ? ありがとうありがとう。
肩に乗せられてゲホゲホと咳き込んでいるうちに、川岸に辿り着く。私を助けてくれた人は、私を地面に降ろすと、踵を返した。
「ミャ?(あれ?)」
足音が遠ざかる。橋の上に繋がる階段を駆け上がっていくのが見える。
もしかして置いていかれた? やっぱりヒロインじゃないとこんなもんか。
川から拾い上げてもらっただけありがたいと想わないと……でも、体力エンプティで冷え切って怪我もしてる仔猫を放置したらすぐ儚くなっちゃうよ、もう少し頑張ってほしかった。まずい、目を開けてるのもきつい。
眠いのか気絶しかかっているのかよく分からないが、ふうっと気が遠くなる。
「死ぬなよ、何とかするからな」
私を助けてくれた人の声がする。戻ってきてくれたんだ。薄っすらと目を開けると、先程は持っていなかった鞄を斜め掛けにしている。そっか、多分、飛び込む前に橋の上に荷物を残して来てて、それを取りに行ってたんだ。
布で包まれて抱き上げられ、腕の中に収められた。もう顔を上げる体力もないので、くてっと身を任せる。
「とにかく寮に戻ろう……」
私を助けたヒーローは、勢いよく走り出した。目茶苦茶揺れる、気持ち悪い、喉の奥から何かがせり上がってくる。げほっ、げほっ、げほっ。
私を包んでいる布は彼の上着のようだが……ごめんなさい、盛大に汚しました。
「ルーク? どうしたんだ、びしょ濡れじゃないか」
どうやら寮とやらについたらしく、少し揺れが緩くなったところで、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。目を開けるのも億劫なので姿は確認できない。
私のヒーローは、ルークさまというお名前らしい。
「ロイド! ハンス! 猫が川を流れてた! どうしよう!!」
駆け寄ってきたのは知り合いらしく、名前呼びで窮状を訴えるルークさま。何とかするとか言っていたが、人任せなのかな、この発言。どうやら私のヒーローは計画性がないタイプ。
「ちっちゃいな、まだ仔猫か。助かるのかこれ」
ロイドさまかハンスさまか分からないが、怖いことを言う。
「冷え切ってる上に怪我してる。医者に行けばいいのか? 猫ってどこに連れて行けばいいんだ」
王都に限らず、獣医と言えば牛や馬が専門という人が多く、犬猫を診てくれる獣医は少ない。何で私がそんなことを知っているかというと、心配性な父さまが、猫の私が病気や怪我をした場合に備えて調べたからである。
「俺が診るよ。部屋へ。とにかく温めないと」
ロイドさまかハンスさまか、怖いことを言ってないほうの人がそう言った。
俺が診るってどゆこと。助けてくれた人のお友達らしき人が都合よく獣医師なんてことがあるの? ヒロインならともかくさ。
もしかして私がヒロイン!?
……いや、そんな筈は。
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