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百年に一度の逸材
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「まあお嬢さま、どこに行ってらしたんですか」
隠密行動という名の散歩に出掛けていた私は、庭先から部屋に戻りかけたところでイチノに見つかる。
「ミャミャ(ただいま)」
こっそり出掛けたのだが、気付かれていたようだ。まあ、脱げた服も片付けてなかったし、昨日は雨だったので、まだやわらかい地面に足跡という痕跡がばっちりだし。
隠密行動の際には、身代わりのぬいぐるみを寝籠に入れようと思ってたんだけど、猫になってからだと、ぬいぐるみを移動させられなかった。
だって、猫状態だと等身大なんだもん……。
事前に準備しておくべきだった。次回は頑張りたい。
「ミャッミャー(ここから入るねー)」
私は、自分の部屋の窓をぱしぱしと叩いた。庭に面しているその窓の下部は改造されていて、私専用の出入り口が設置されている。猫状態の私が通れるサイズの小さな跳ね上げ扉である。部屋の扉の下部にも同じものが設置されているので、一人の時に猫になってしまっても、閉じ込められることはない。
「お庭側から入られるんですね、すぐに参りますね」
庭の散歩は良くしているので、イチノもすぐに分かったようだ。
「どこかでお昼寝しちゃったんですか?」
手足とお腹のあたりについていた泥汚れを綺麗に拭われてから、イチノに鼻先にちゅッとキスをされ、人間に戻る。
「あのね、ちょうちょ追いかけてたらお隣のお庭だったの。温かかったから寝ちゃったの」
何かを追いかけて、というのは幼児あるあるである。お隣に行っていたのは事実だし。お昼寝はしてないけど。庭先で令嬢たちがお喋りしていたので、花壇の花に紛れて聞き耳を立てていた。
お隣の令嬢はトリウさまと言って、王立学園の二年生。来ているお友達の令嬢たちも同級生らしく、この春に入学してきた新入生のことで盛り上がっていた。
なんでも、百年に一度と言われる逸材が、入学してきたらしい。
何の逸材か分からないけど、顔もいいらしく、きゃあきゃあ盛り上がっていた。ただ、最後に『領地があそこでさえなければ』と残念がっていたので、何か問題があるらしい。
探偵猫令嬢デイジーとしては、何の問題があるのか気になるところである。
「母さま、兄さま、百年に一度の逸材って御存じですか?」
気になることは聞いてみようの精神で、食事の席で聞き込みを開始する。父さまはまだ帰宅していない。
「百年に一度の逸材? どこでそんなことを聞いてきたの?」
母さまに聞き返される。
「お隣のトリウさまがお庭でお友達と話されてたの。新入生に、百年に一度の逸材がいらっしゃるんですって」
百年に一度、百年に一度、と口の中で繰り返しながら、母さまが悩む。
「確か、辺境伯さまの御子息がそんな風に言われていたような気がするけれど」
どちらの辺境伯さまだったかしら、と名前が思い出せないらしい。
「西の辺境伯さまではありませんか!?」
何故かシオン兄さまが目を輝かせた。
隠密行動という名の散歩に出掛けていた私は、庭先から部屋に戻りかけたところでイチノに見つかる。
「ミャミャ(ただいま)」
こっそり出掛けたのだが、気付かれていたようだ。まあ、脱げた服も片付けてなかったし、昨日は雨だったので、まだやわらかい地面に足跡という痕跡がばっちりだし。
隠密行動の際には、身代わりのぬいぐるみを寝籠に入れようと思ってたんだけど、猫になってからだと、ぬいぐるみを移動させられなかった。
だって、猫状態だと等身大なんだもん……。
事前に準備しておくべきだった。次回は頑張りたい。
「ミャッミャー(ここから入るねー)」
私は、自分の部屋の窓をぱしぱしと叩いた。庭に面しているその窓の下部は改造されていて、私専用の出入り口が設置されている。猫状態の私が通れるサイズの小さな跳ね上げ扉である。部屋の扉の下部にも同じものが設置されているので、一人の時に猫になってしまっても、閉じ込められることはない。
「お庭側から入られるんですね、すぐに参りますね」
庭の散歩は良くしているので、イチノもすぐに分かったようだ。
「どこかでお昼寝しちゃったんですか?」
手足とお腹のあたりについていた泥汚れを綺麗に拭われてから、イチノに鼻先にちゅッとキスをされ、人間に戻る。
「あのね、ちょうちょ追いかけてたらお隣のお庭だったの。温かかったから寝ちゃったの」
何かを追いかけて、というのは幼児あるあるである。お隣に行っていたのは事実だし。お昼寝はしてないけど。庭先で令嬢たちがお喋りしていたので、花壇の花に紛れて聞き耳を立てていた。
お隣の令嬢はトリウさまと言って、王立学園の二年生。来ているお友達の令嬢たちも同級生らしく、この春に入学してきた新入生のことで盛り上がっていた。
なんでも、百年に一度と言われる逸材が、入学してきたらしい。
何の逸材か分からないけど、顔もいいらしく、きゃあきゃあ盛り上がっていた。ただ、最後に『領地があそこでさえなければ』と残念がっていたので、何か問題があるらしい。
探偵猫令嬢デイジーとしては、何の問題があるのか気になるところである。
「母さま、兄さま、百年に一度の逸材って御存じですか?」
気になることは聞いてみようの精神で、食事の席で聞き込みを開始する。父さまはまだ帰宅していない。
「百年に一度の逸材? どこでそんなことを聞いてきたの?」
母さまに聞き返される。
「お隣のトリウさまがお庭でお友達と話されてたの。新入生に、百年に一度の逸材がいらっしゃるんですって」
百年に一度、百年に一度、と口の中で繰り返しながら、母さまが悩む。
「確か、辺境伯さまの御子息がそんな風に言われていたような気がするけれど」
どちらの辺境伯さまだったかしら、と名前が思い出せないらしい。
「西の辺境伯さまではありませんか!?」
何故かシオン兄さまが目を輝かせた。
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