可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

文字の大きさ
上 下
23 / 54

憧れの人

しおりを挟む
「私の憧れはレティーシャさまですわ」
 憧れという言葉に反応して、母さまが信者っぷりを見せてくる。
「あらありがとう。私はそうねえ、やっぱりリーゼさまかしら。エルトリアさまも捨てがたいわね」
 レティーシャさまもレティーシャさまで、百合百合モードである。
 エルトリアさまは知らないが、リーゼさまの噂なら聞いたことがある。
 辺境伯家ゆかりの方で『白銀の雷帝』という二つ名持ちの魔術師である。それまで女性魔術師の戦闘能力は低いとされていたのを、その実力で覆した人らしい。
 二つ名通り、雷魔法を得意とする銀髪の美女らしいのだが、美女には逸話がつきものである。男尊女卑思想が強いどこぞの令息が、その活躍を妬んで学生時代のリーゼさまに不埒な真似をしようとして鼻っ柱をへし折られたという話が、御婦人方の間では英雄譚のように語られている。実力もないのに上から目線でゴリ押してくるような男には、みんな鬱憤が溜まっているのだろう。
 この話、慣用句的な意味でも、物理的な意味でも鼻がへし折られたらしい。
 何それ恐い。


「リーゼさまは相変わらず御活躍ですよねえ」
 母さまも、リーゼさまに好意的である……父さまに何か不満があるのだろうか。
 というか、リーゼさまの御活躍とは一体。今日もどこかで男の鼻っ柱をへし折っているのだろうか。
「そうなのよ、つい先日もお願いしていた魔獣を仕留めてきてくださって」
 直々に届けてくださったのよ、というレティーシャさまの目は、母さまがレティーシャさまを見る目と同じく、熱が籠っている。
「魔獣、ですか?」
 男ではなく魔獣をぶっ飛ばしているようだ。辺境なら魔獣のいる森があるけど、魔獣狩りがお仕事なのだろうか。
「ええ、他の冒険者が捕獲してきたものだとぐちゃぐちゃになっていることも多いのに、リーゼさまが仕留めた魔獣はとても状態が良くて」
 レティーシャさまは、魔獣の研究をしているので、研究素材として仕入れているのだろう。
「ちょっと見てみる? 保存魔法が掛かってるからほやほやよ」
 レティーシャさまが、いそいそと立ち上がる。
 死にたてほやほや、ということだろうか。
「え、待って」
 そんなものを見たくない私は、ひいいっとなる。
 レティーシャさま的には『いいもの見せてあげる』という親切心なのだろう。
 でも、新鮮な魔獣の死体を見ても、五歳女児は喜ばないからね!?


「レティーシャさま、デイジーはまだ五歳ですから、それはちょっと」
 母さまが、やんわりと止めに入る。
 そうですよレティーシャさま、そう言うのは15Rですよ。それにしてもレティーシャ教の信者である母さまがレティーシャさまに物申すなんて、私、愛されてる?
「そう? フレイズは平気だけど? 最終処理で燃やすのも手伝ってくれるし」
 四歳のフレイズ嬢に何させてんのレティーシャさま。火力は充分かもしれないけど。魔獣研究者の母を持っていれば、平気になるのかもしれないけど。
 私は普通の令嬢なので無理です!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

処理中です...