可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

文字の大きさ
上 下
17 / 54

そして二年が過ぎ

しおりを挟む
「フレイズ、大丈夫よ、ここは私のお友達の家よ」
 レティーシャさまが、炎に構わずフレイズ嬢を抱き上げる。フレイズ嬢がレティーシャさまにぎゅっと抱きついて、炎は収まった。
 レティーシャさま、ドレスが焦げているように見えますが、大丈夫ですか!?
「知らない場所だったから驚いたみたい」
 そう言いながら、レティーシャさまはフレイズ嬢の手首に水色のリボンを巻き直した。目が覚めたら知らない場所で知らない人がいれば、驚くのは分かる。
 でも何で炎が出るの? 二歳で魔法使いなの?
「フレイズは魔力が多いから、ちょっとしたことで洩れちゃうのよ」
 後で知ったことだが、魔力の多い人は、感情が昂ると魔力が洩れだすことがあるらしい。火属性だと感情の揺れに呼応してろうそくの炎が燃え盛ったりするらしい。フレイズ嬢の場合も魔法を使って炎を出した訳ではなく、洩れた魔力が炎という形に具現化しただけで……少し驚いただけで炎が出ちゃうって、どゆこと? どんだけ魔力多いの?
「それを抑えるために、この水色のリボンをいつも巻いてるんだけど」
 あの水色のリボンは、抑制のための魔術具だったらしい。
 それを私が解いてしまったと……あああ、ごめんなさい!!




「リボン解けそうだったから、結び直してあげようと思ったの」
 説明しながら、私はもう涙目である。知らなかったとはいえ、全面的に私が悪い。
「気にしなくていいのよ。こっちこそごめんなさいね。二人とも怪我はないわね?」
 レティーシャさまが、私とシオン兄さまに確認する。
「大丈夫、です」
 呆然としていたシオン兄さまが、声を掛けられて再起動した。
 兄さまも大変である。妹が猫になったかと思ったら、次は目の前で令嬢が燃え上がったり。
「私も大丈夫です」
 レティーシャさまが抱き上げてフレイズ嬢から離してくれてなかったら危なかったかもだけど。
「ハルシャ、焦げたものは弁償するから請求して頂戴」
「いいえレティーシャさま、大したことはありませんから」
 フレイズ嬢が眠っていたソファが少し焦げた程度である。
「レティーシャさまこそお怪我は? フレイズさまも」
 ドレスの焦げているレティーシャさまが、母さまは心配でならないようだ。
「私も火属性だから他の人より耐性があるわ、心配しないで。フレイズは自分の魔力には害されないし」
 よく分からないけど、怪我がないなら良かった。




 結局お茶会は、予定より早くお開きとなり、レティーシャさまたちは帰って行った。
「あれだけの騒ぎで猫にならなかったんだから、本当に大丈夫なのね」
 母さまにしみじみと言われて、お茶会が、クマのぬいぐるみとリボンの効果の最終確認だったことを思い出す。
 うん、あれ以上のインパクトはそうないだろう。






 その後、ジスカール家から新しいソファが届いたり、明るい色のリボンが届いたり。
 クマのぬいぐるみを抱いたりリボンをつけるのは、ここぞという時だけで、普段は呪いを阻害することなく何かの拍子に猫になりつつ日々を過ごす。気分転換に、わざと猫になって外に出るという技も会得した。
 猫で日向ぼっこ、最高である。


 母さまの希望と、ジスカール卿の要望により、最初は二ヶ月ごとに、魔導研究所の御子息の研究室に、様子を見てもらいに通った。特に何の異常もないまま一年が過ぎたので、三ヶ月ごとになった。私の体が心配で、と診察を希望していた母さまが、『今後は三ヶ月ごとでいいでしょう』と言われたときにとてもがっかりしていた。
 母さま、何となく分かってたけど、私が心配っていうより、レティーシャさまに会いたかっただけだよね!?


 そしていつの間にか私は、五歳を迎えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

処理中です...