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157「面倒な呼び出し終わりっと」

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「って、お前かよ」
 ブレナンと一緒に冒険者ギルドに入ったエイダールが、案内された応接室で座って待っていると、暫くしてギルドマスターが、騎士団の魔術師のローブを着た魔術師を二人連れて現れた。一人はよく見知った顔である。
「それはこちらの台詞です……現場の痕跡から、君がこの件に絡んでいるのは分かっていましたが」
 騎士団から調査のために派遣されてきたイーレンは、ふうっと溜息をついた。
「この者は誰ですか? ストレイムス卿に随分と失礼な物言いを」
 イーレンと共に来た若い魔術師が、腹立たしげにエイダールを見る。
「エイダール・ギルシェ教授です。彼とは古い友人なので態度に関しては目こぼししてください」
 イーレンは、会うなりのお前呼ばわりが失礼なこと自体は否定しなかった。
「教授? ここで会うのは、異常発生した魔獣を討伐した冒険者ではなかったのですか? 冒険者にしても随分とひょろっとしていますが」
 動きやすそうな服装ではあるが、冒険者というには貧弱な体格のエイダールを、若い魔術師は不審そうに眺めた。冒険者にも見えないが、教授という言葉から連想される真面目さや堅さも見当たらない。
「彼は基本は研究者ですが、冒険者もやっています。魔術師としての腕は一流です」
 人を見た目で判断しないように、とイーレンは若い魔術師に言い聞かせる。


「最近は全然依頼を受けてないけどな」
 エイダールは冒険者を生業にはしていないが、登録はしている。研究素材集めで、冒険者にしか入場が許可されないダンジョンなどがあるためである。大体どこにでも行ける冒険者ランクまで上げたところで、自主休業状態に入っている。
「あんた冒険者もやってたのかよ……時々は依頼受けないと冒険者ランクが下がらないか?」
 横に座っていたブレナンがエイダールをつつく。
「まあまあ上げてあるから問題ない」
 冒険者ランクは、ランクごとに決められた一定の期間内に一度はランクに応じた依頼を受けて達成しないと下がっていく。冒険者ランクが低い程その期間は短く、高ければ長い。
「依頼を受けていないんですか? では何故君は現場に?」
 魔獣討伐依頼を受けて現場に行ったら異常発生していた、という状況だとイーレンは思っていた。
「依頼を受けたのは、このブレナンのパーティーだよ」
 エイダールはブレナンを手で指し示す。
「俺はその討伐の見学について行っただけだ」
「見学ですか? 八割ほどは君が討伐したような痕跡が残っていましたが?」
 イーレンの目が、何を言っているんだという風に細められる。
「見学ってことで手出しはしないってことになってたが、そんなこと言ってられない数だったんだよ」
 聞いていた十倍以上の数の魔獣を前にして、見学だからと何もしないでいたら命が危ない。
「百五十体でしたか、一つのパーティーでどうにかできる数ではありませんね」
 イーレンは、鞄から取り出した資料をぱらぱらとめくる。


「それで、結局何の見学に? 魔獣の異常発生を予知でもしていたんですか」
「そんな予知なんかできるか。魔獣を見に行った訳じゃなくて、ちょっと確認したいことがあったんだよ。詳しい内容に関しては黙秘する。魔獣の異常発生とは何の関係もないからな」
 公式な聞き取りの中で魔弓がどうこうという話はしたくない。
「……危ない橋は渡っていないでしょうね?」
 付き合いの長さは察しの良さに繋がる。イーレンの問いにエイダールは僅かに目を泳がせた。
「ぎりぎり危なくないと思う、うん、多分」
「随分と歯切れが悪いですね……とりあえずそれは置いておいて、本題に入りましょう」
 イーレンは姿勢を正した。
「私は第一騎士団所属の魔術師、イーレン・ストレイムスです。ブレナン殿? でしたか、まずは魔獣の位置についてですが、こちらの地図を……」
 応接室の机の上に、現場の高低差などまで描かれた詳細な地図が広げられた。




「川沿いよりも、こっちの小高い丘のほうが数が多かった気がするな」
 ブレナンが鳥型の魔獣の群れと戦った日のことを思い出しながら、この辺、と地図を指で指し示す。
「この魔獣は水辺のほうが好きな筈ですから、やはり動きが異常ですね」
 イーレンは、ふむ、と頷く。
「丘で見つけた妙な魔道具みたいなものの所為なのか?」
 ギルドマスターが尋ねる。
「恐らくそうだと思われます。他にも魔獣の発生数の多かった場所で、似たものが二つ発見されましたし」
 謎の魔道具で魔獣を誘導していたのは間違いない。
「誰が何のためにそんなことを? どこのどいつが喧嘩売ってきてんだよ」
 故意に引き起こされたものだと聞かされて、ギルドマスターが低く唸った。




「では、この件は、機密事項である別件と繋がっている可能性が高いため、この場で聞いたことは他には洩らさないでください」
 聞き取りを終えたイーレンは、そう締め括った。
「手も出すなってことか? そっちで対処してくれるのか?」
 ギルドマスターは不満げである。
「はい、既に相手は手を引いていますので、新たに何か起こるということはないと思いますし、基本的には静観で。何かあれば協力要請を出しますので、その際はよろしくお願いします」
 イーレンは立ち上がって一礼する。
「よし、面倒な呼び出し終わりっと」
 エイダールは大きく伸びをした。
「ケニスと合流だな。少し早いが、何か食いもの買って向こうで昼飯にするか」
「そうだな」
 壁に掛かっていた時計を見たブレナンの提案にエイダールは頷く。
「そうだイーレン、ちょっと俺に昼飯おごらないか?」
「え……?」
 突然たかられて、机の上に広げていた資料を集めて鞄に戻していたイーレンの動きが止まった。
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