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144「役に立つ上に恋人の振りも出来る」
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「今日はいろいろ世話になったな。感謝する」
新聞記者が先に研究室を辞し、アルムグレーンも腰を上げる。
「そういや、二人はまとまったってことでいいんだよな?」
アルムグレーンは、エイダールとユランがうまくいくかどうかという賭けの胴元なので、結果を確定する必要がある。
「まとまる?」
「返事は保留のままですけど」
エイダールの反応も、ユランの反応も、アルムグレーンの予想とは違っていた。「え? 同棲してて特別な間柄で一時も離れたくないみたいな関係なんだろ? それ、どう考えても付き合ってるよな?」
二人とも否定しなかったよな? と訝しむ。
「同じ家で暮らしてるのも、ユランがくっついてきたがるのも事実だから、否定することはないけど、付き合ってもいないんだが……カスペル、お前の所為だぞ、妙に含みのある言い方しやがって。幼馴染みが特別な間柄に該当するのかどうか知らないが、普通に聞いてたら恋愛関係にあるみたいに聞こえるだろう。どういうつもりだ」
エイダールはカスペルを睨む。
「恋愛関係と受け取られるような言い方をしたのは、わざとだ。一種の保険だな。いいじゃないか、嘘は一つも言っていないし、エイダールとユランくんの二人が恋愛関係にあるとも言っていない」
特別な間柄とか仲が良いとは言ったが、決定的な言質を取られるような発言はしていないと、カスペルは胸を張る。
「保険?」
「じきに俺の婚約が正式に発表される。そうしたらどうなると思う? エイダールは、俺の家が後ろ盾になっているというか、言い方は悪いが俺に囲われていると思われている状態な訳だ。あの新聞記者も誤解していただろう?」
実際には友人関係だが、世間的には学生時代に出た噂をそのまま適当に濁し、誤解させたままにしている。お互いがお互いの虫除けをしている状態だ。
「俺も結婚となると、今後は誤解させたままにしておきたくないからな」
誤解をそのままにしておくのは、嫁いできてくれるエルトリアにも失礼である。
「そうすると、囲いから外れたと……捨てられたと思われたエイダールへの、婚姻や養子縁組の申し出は今とは比較にならない数になる。しかも質の低下したものが」
今までは、サルバトーリ公爵家の後ろ盾も期待して、エイダールと縁を結ぼうというものが大半だった。しかし、後ろ盾を失ったと思われると、価値が下がったように考えて買い叩こうという家門が参戦してくる。
「今でも辟易してんのに、まだ増えるのかよ。大体、捨てられたってなんだよ、失礼だな」
エイダールの口元が、嫌そうに歪む。
「友人関係としては全く変わらないのにな」
カスペルは溜息をつく。
「残念ながら、一定数そう考える人間がいるんだよ。今まで通り貴族相手の対応は引き受けるから、そんな失礼な勘違いはじきに消えるだろうが、暫くは『長く囲われていたのに捨てられたのか可哀そうに私が拾ってあげよう』っていう上から目線の申し出が増えるだろうな」
「嫌過ぎる……」
エイダールはぶるりと体を震わせる。今までの婚姻申し込みも大概失礼だったが、違う種類の不愉快さを感じる。
「恋人がいるとなれば、多少は緩和されるんじゃないだろうかと。という訳でユランくん、君の肩にエイダールの今後の平穏な暮らしがかかっている、頑張ってくれ」
カスペルは、ユランの両肩をぽんぽんと叩いた。
「はい! 頑張ります!」
「待てユラン、何を即答してんだよ」
元気よく頷いたユランに、エイダールが鼻白む。
「もっと良く考えろよ」
「え、だって、僕が先生の役に立てるって話ですよね?」
ユランは、考える必要を感じなかった。エイダールの役に立つなら即断即決である。
「そうそう、エイダールの役に立つ上に恋人の振りも出来る」
カスペルはユランの意気を上げる。
「凄い御褒美案件ですね!!」
ユランの瞳がきらきらと光る。
「だから待てって。俺の婚姻話の盾になるってことは、逆もあるんだぞ?」
利点より難点のほうが多いだろうと、エイダールは止めに入る。
「逆ですか?」
「俺と恋愛関係だと思われたら、お前の方のそういう話も潰れる」
それでユランの婚期が遅れても、エイダールは責任を取れない。自分のためにユランの人生を犠牲にする訳にはいかない。
「面倒がなくていいんじゃないですか?」
何が問題なのだろうとユランは首を傾げる。
「そうだな、今もこいつの『先生好き好き』って言うのは周知されてるから、粉かけてくるやつもいないしな」
アルムグレーンが、無駄な心配だとエイダールを見る。恋愛関係になっていようといまいと、ユランに他の恋愛話が浮上してくる余地はない。
「警備隊内だと周知されてるかもしれないが、他所だと普通にもてるんじゃないのか?」
エイダールも、西区警備隊内の自分に対する生温かい空気は一度感じているので、職場でのユランの恋愛は無理にしても、他の場所ならそれなりなのではないかと思う。若いし、すらりと背は高いし、顔もまあまあ、職業も収入的には安定している。優良物件と言っていい。
「いや、もてないだろう。警邏に出た他の隊員から『ユランとユランの先生がいちゃつきながら市場で夕食の買い物をしてました』なんて報告が来てるからな。市場でも周知されていると考えるべきだ」
普通はそんな報告は入らないが、賭けの関係で『あれは絶対に付き合っています。早急に確定を』と迫られたのだ。
「いちゃつきながら買い物したことなんてないぞ!?」
食料の買い出しでどういちゃつけと言うのだろうとエイダールは思うが。
「よく分からんが『ユランが目茶苦茶甘やかされていた』だったかな。ねだられるままに好物を買ってやったりしたんだろう?」
そう聞いてるぞ? 違うのか? とアルムグレーンに問われたエイダールは、否定しきれない。
「え、そりゃ、どっちを買うかなって迷ったときは、ユランに選ばせるけど」
そんなやり取りが、傍目にはいちゃついているようにしか見えないのだった。
新聞記者が先に研究室を辞し、アルムグレーンも腰を上げる。
「そういや、二人はまとまったってことでいいんだよな?」
アルムグレーンは、エイダールとユランがうまくいくかどうかという賭けの胴元なので、結果を確定する必要がある。
「まとまる?」
「返事は保留のままですけど」
エイダールの反応も、ユランの反応も、アルムグレーンの予想とは違っていた。「え? 同棲してて特別な間柄で一時も離れたくないみたいな関係なんだろ? それ、どう考えても付き合ってるよな?」
二人とも否定しなかったよな? と訝しむ。
「同じ家で暮らしてるのも、ユランがくっついてきたがるのも事実だから、否定することはないけど、付き合ってもいないんだが……カスペル、お前の所為だぞ、妙に含みのある言い方しやがって。幼馴染みが特別な間柄に該当するのかどうか知らないが、普通に聞いてたら恋愛関係にあるみたいに聞こえるだろう。どういうつもりだ」
エイダールはカスペルを睨む。
「恋愛関係と受け取られるような言い方をしたのは、わざとだ。一種の保険だな。いいじゃないか、嘘は一つも言っていないし、エイダールとユランくんの二人が恋愛関係にあるとも言っていない」
特別な間柄とか仲が良いとは言ったが、決定的な言質を取られるような発言はしていないと、カスペルは胸を張る。
「保険?」
「じきに俺の婚約が正式に発表される。そうしたらどうなると思う? エイダールは、俺の家が後ろ盾になっているというか、言い方は悪いが俺に囲われていると思われている状態な訳だ。あの新聞記者も誤解していただろう?」
実際には友人関係だが、世間的には学生時代に出た噂をそのまま適当に濁し、誤解させたままにしている。お互いがお互いの虫除けをしている状態だ。
「俺も結婚となると、今後は誤解させたままにしておきたくないからな」
誤解をそのままにしておくのは、嫁いできてくれるエルトリアにも失礼である。
「そうすると、囲いから外れたと……捨てられたと思われたエイダールへの、婚姻や養子縁組の申し出は今とは比較にならない数になる。しかも質の低下したものが」
今までは、サルバトーリ公爵家の後ろ盾も期待して、エイダールと縁を結ぼうというものが大半だった。しかし、後ろ盾を失ったと思われると、価値が下がったように考えて買い叩こうという家門が参戦してくる。
「今でも辟易してんのに、まだ増えるのかよ。大体、捨てられたってなんだよ、失礼だな」
エイダールの口元が、嫌そうに歪む。
「友人関係としては全く変わらないのにな」
カスペルは溜息をつく。
「残念ながら、一定数そう考える人間がいるんだよ。今まで通り貴族相手の対応は引き受けるから、そんな失礼な勘違いはじきに消えるだろうが、暫くは『長く囲われていたのに捨てられたのか可哀そうに私が拾ってあげよう』っていう上から目線の申し出が増えるだろうな」
「嫌過ぎる……」
エイダールはぶるりと体を震わせる。今までの婚姻申し込みも大概失礼だったが、違う種類の不愉快さを感じる。
「恋人がいるとなれば、多少は緩和されるんじゃないだろうかと。という訳でユランくん、君の肩にエイダールの今後の平穏な暮らしがかかっている、頑張ってくれ」
カスペルは、ユランの両肩をぽんぽんと叩いた。
「はい! 頑張ります!」
「待てユラン、何を即答してんだよ」
元気よく頷いたユランに、エイダールが鼻白む。
「もっと良く考えろよ」
「え、だって、僕が先生の役に立てるって話ですよね?」
ユランは、考える必要を感じなかった。エイダールの役に立つなら即断即決である。
「そうそう、エイダールの役に立つ上に恋人の振りも出来る」
カスペルはユランの意気を上げる。
「凄い御褒美案件ですね!!」
ユランの瞳がきらきらと光る。
「だから待てって。俺の婚姻話の盾になるってことは、逆もあるんだぞ?」
利点より難点のほうが多いだろうと、エイダールは止めに入る。
「逆ですか?」
「俺と恋愛関係だと思われたら、お前の方のそういう話も潰れる」
それでユランの婚期が遅れても、エイダールは責任を取れない。自分のためにユランの人生を犠牲にする訳にはいかない。
「面倒がなくていいんじゃないですか?」
何が問題なのだろうとユランは首を傾げる。
「そうだな、今もこいつの『先生好き好き』って言うのは周知されてるから、粉かけてくるやつもいないしな」
アルムグレーンが、無駄な心配だとエイダールを見る。恋愛関係になっていようといまいと、ユランに他の恋愛話が浮上してくる余地はない。
「警備隊内だと周知されてるかもしれないが、他所だと普通にもてるんじゃないのか?」
エイダールも、西区警備隊内の自分に対する生温かい空気は一度感じているので、職場でのユランの恋愛は無理にしても、他の場所ならそれなりなのではないかと思う。若いし、すらりと背は高いし、顔もまあまあ、職業も収入的には安定している。優良物件と言っていい。
「いや、もてないだろう。警邏に出た他の隊員から『ユランとユランの先生がいちゃつきながら市場で夕食の買い物をしてました』なんて報告が来てるからな。市場でも周知されていると考えるべきだ」
普通はそんな報告は入らないが、賭けの関係で『あれは絶対に付き合っています。早急に確定を』と迫られたのだ。
「いちゃつきながら買い物したことなんてないぞ!?」
食料の買い出しでどういちゃつけと言うのだろうとエイダールは思うが。
「よく分からんが『ユランが目茶苦茶甘やかされていた』だったかな。ねだられるままに好物を買ってやったりしたんだろう?」
そう聞いてるぞ? 違うのか? とアルムグレーンに問われたエイダールは、否定しきれない。
「え、そりゃ、どっちを買うかなって迷ったときは、ユランに選ばせるけど」
そんなやり取りが、傍目にはいちゃついているようにしか見えないのだった。
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