弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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131「俺たちに、虹を見せてくれ」

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「あ、ハルシエルさん! おはようございます」
 出勤してきたハルシエルを見つけて、ユランは大きく手を振った。
「おはようございます、どうかしましたか?」
 手招きされたハルシエルが近付いてくる。
「ユラン、もしかしてこいつか」
 近くにいた、他の夜勤組の隊員も近付いてくる。
「そうです」
 ユランは頷いた。
「え、何の話ですか」
 他の夜勤組の隊員にいきなり距離を詰められて、ハルシエルは一歩下がる。
「俺たちに、虹を見せてくれ」
「はい? 虹?」
 謎の要求に、ハルシエルはさらに後退り、門柱に背中をぶつける。
「頼む」
 それ以上、後ろに下がれなくなったハルシエルの手を掴み、ぎゅうぎゅうと握り締める夜勤組の隊員。
「何をしている! 手を離しなさい!」
 ハルシエルとともに出勤してきた、事務官でハルシエルの父親でもあるサフォークが、ハルシエルの手を握っていた隊員を一喝した。




「つまり、この紙の上に手本通り書いたものを載せると虹が出ると?」
 サフォークに事情説明を求められ、門番はヴェイセルに任せて談話室まで移動し、ユランが中心になって説明する。
「はい。これは先輩が書いたものですけど」
 ユランは、紋様符の上に、ヴェイセルが書いたものを載せた。
「紋様符というのはこんなこともできるのですね」
 宙に浮き出た虹に、サフォークは感嘆の声を洩らす。
「ですが、四色しかないようですが?」
 何度載せ直しても結果は変わらないので、ヴェイセルの虹は四色のままである。
「手本に近付くごとに色が増えていくんです。夜勤組だと最高で六色だったので、ハルシエルさんに書いてもらえないかなって」
「それで『虹を見せてくれ』と言ったという訳ですか」
 サフォークは、先程の台詞の意味を理解した。
「ああ。ここまで来たら七色の虹を見たいだろう? それに、完璧だと派手に花火が上がるって……ユラン、言ってたよな? それも見てみたいし」
 門でハルシエルに迫っていた隊員が詳細を加える。
「俺の班はもう上がりなんで、すぐやってくれると有難いんだが」
 ユランたちの班は引き続き日勤に突入だが、彼らの班は仕事上がりである。
「いいでしょう、ハルシエル、彼らの朝の申し送りまでに済ませてしまいなさい」
「はい」
 サフォークの指示にハルシエルは頷く。すぐに紙を取って来て机につくと、ペンを走らせた。




「うっわあ」
 ハルシエルが書き上げた紙を載せた途端、巨大な虹が現れて、ユランは声を上げる。窓から外を見ると、警備隊の詰所の敷地からはみ出るほどだ。
「こんなとんでもない規模なのかよ……な、何!?」
 ドーンという音に、カイが飛び上がる。
「打ち上げ花火だ! 本物って言われても信じそう……」
 さすが先生、とユランは空を見上げる。朝の空の下なのできらきら感は減るが、どこからどう見ても花火だ。投影魔法なので火薬の燃焼に伴う煙は出ないが、その分くっきりと色鮮やかである。
「凄いけどなあ、派手な花火とは聞いてたけど、派手過ぎないか? これ、周辺から苦情が来るやつじゃ」
 別班の隊員も空を見上げて、呆然と呟く。




「……おいおいおい」
 ドーンという派手な音が響いて、路地を抜けて出勤途中だったエイダールは空を見上げた。見覚えのあり過ぎる打ち上げ花火が、警備隊の方角から上がっている。その下には虹も見える。
「仕込んだけど出す予定はなかったのにな……」
 カイが使っている限り、打ち上げ花火は御目見得する筈のない代物である。出す予定がなかったので、周辺への配慮などはしていない。本物っぽくを目指しただけである。要するに、とてもうるさい。




「何事だ! 何だこの花火は!」
 周辺から苦情が来る前に、西区警備隊隊長のアルムグレーンが談話室に駆け込んできた。申し送りのために隊長室から出てきたところで花火が上がり始め、大元と思われる虹の端を目指してきたようだ。
「あ、えっと、何でもないです」
 特に事件は起こっていないので、ユランはそう答えたが。
「何でもない訳があるか」
 アルムグレーンが納得する訳がなかった。
「まずはこの打ち上げ花火を止めましょう。どうすれば?」
 サフォークが耳を押さえながら尋ねる。
「載せた紙を紋様符から外せば……ある程度打ち上がったら自然に止まるとは思いますけど」
 繰り返す設定ではないと思うが、エイダールがどのくらいの時間分の花火を仕込んでいるのかは分からないので、外したほうが確実である。
「外しますね」
 紋様符の一番近くにいたハルシエルが、自分が書いた紙を急いで回収する。


「その紙は紋様符なのか? ということは、ユラン、お前の先生が原因か? 危険物ではないようだが」
 虹が掻き消え、花火も打ち上がらなくなって静けさを取り戻した談話室に、アルムグレーンの声が響く。
「投影魔法みたいなものだから危なくないです。それと、先生は原因じゃありません、先生が悪いみたいに言わないでください」
 ユランは抗議した。原因は、カイの字が汚いことである。
「じゃあ無関係なのか」
「無関係じゃないですけど」
 ユランは目を逸らす。傍迷惑な音量の打ち上げ花火を、紋様符に仕込んだのはエイダールである。迫力満点だが、何を思ってこれを仕込んだのか、ユランには分からない。実際のところ深い意味はなく、単に興がのっただけなのだが。
「経緯を、一から説明してもらおうか」
 アルムグレーンは談話室の椅子にどっかりと腰を下ろした。
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