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120「花火を見るための物じゃない」
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「カイ、先生から定型文の練習用紙預かって来たよ」
夕方、警備隊の詰所に出勤したユランは、カイにくるっと巻いた大きな紋様符を差し出した。
「もう出来たのか、ありがとう。先生にも礼を言っといてくれ」
カイは、さっそく広げてみた。
「でかいな。……ん、これは虹が出るのか、凝ってんな」
紋様符と重ねて巻かれていた説明書きに目を通す。
「ハルシエルさんの字に寄せれば寄せるほど、濃くて大きい虹が出るんだよ。中毒性があるから気を付けて」
動作確認で何枚も書いちゃった、とユランが告げる。
「分かる。俺も花火を何度も打ち上げた」
カイがそうなんだよなと頷く。数字の練習は捗ったらしい。
「あ、そうだ、これも先生から」
ユランは小さな袋を、広げた練習用紙の横に置いた。
「気が済むまで練習できるように、魔力石の予備も持って行けって」
適当に掴んで袋に詰めてきたユランである。
「お、助かる。昨夜練習用紙と一緒に貰った魔力石、大分色が薄くなっちゃってさ」
魔力石は、その色の濃さで残量を推測できる。
「一日で色が薄くなるって、どれだけ練習したんだよ」
「しないよりいいだろ」
カイは、頑張ったことを褒めろ、という姿勢である。
「そうだね、頑張った頑張った……頭も撫でようか?」
エイダールに撫でられると嬉しいユランは提案してみたが。
「撫でなくていい」
即座に却下された。
「二色の虹か」
何これ面白過ぎるだろ、とヴェイセルが笑い出す。食事休憩中に、カイが昨夜のことを話し、紋様符を披露して、定型文を実際に練習して見せたところである。
「虹って七色だった気がするんだけどな」
「七色出ますよ、ちゃんと書ければ」
昨夜の動作確認で七色出したユランは、先生が作った紋様符には問題はないと断言する。
「そうか、カイの再現率が低いだけなんだな……」
頑張れ、とヴェイセルはカイを励ます。
「ヴェイセル先輩なら七色の虹が出るとでも? 書いてみてくださいよ」
そんなに言うなら出してみろとカイが憤る。
「出るに決まってんだろ、俺は普通に読める字が書けるからな!?」
「結構な癖字じゃないですか」
ヴェイセルの字は読み間違いを起こすような汚さではないが、癖がある。
「よーし、見てろよ」
ヴェイセルはペンを持った。
「四色ですね」
ヴェイセルが書き上げた紙を紋様符の上に載せると、四色の虹が出た。赤、橙、黄、緑と、ユランが丁寧に数える。
「おっかしいなあ、虹は七色だったんじゃないんですかー? 出るに決まってるんじゃなかったんですかー?」
「くっ」
カイに畳みかけられ、ヴェイセルが聞こえなーいと自分の耳を塞ぐ。
「何やってんだお前ら……なんだこれ、虹もどき?」
別の夜勤班の隊員が、何事かと近付いて来て、机の上の四色の虹に気付く。
「ユランの先生に、文字の練習用に作ってもらったやつ」
「その虹は判定結果です」
カイが簡単に答え、ユランが続けて説明を加える。
「ここに幾つか文章が書いてあるでしょう?」
ユランは、紋様符の中央部分を示す。
「ああ、見覚えのある文章だな、報告書とかで」
「事務官の人に、よく使う定型文で手本を書いてもらったんですよ。で、別の紙にこれに似せた文字を書いて載せると」
ヴェイセルの書いたものは既に載っている状態なので、ユランはカイの書いたものを再度載せる。
「お、こっちは二色か」
別の班の隊員は、興味深そうに見比べる。
「再現度を判定して、虹が出ます……ちゃんと書けてれば七色の虹が」
カイもヴェイセルもちゃんと書けていないので披露できないのだが。
「へえ、俺もやってみていい?」
「カイ、いいかな?」
紋様符の持ち主はカイになるので、ユランは尋ねる。
「どうぞ」
俺に七色の虹を見せてくれと、カイは頷いた。
「四色、四色、六色か」
結局、別班の三人全員が試してみたが、誰一人七色に届かない。
「虹を架けるのって難しいんだな……」
文字の練習だった筈なのに、違う結論に達しかける。
「虹は七色だから、七段階評価だと思えばいいんだよな。七段階評価で四色なら、ちょうど真ん中、普通ってことだよな」
平均しても四色だし、とヴェイセルは言ってみたが。
「え、虹が七色になればまあ合格点だろうって、先生は言ってましたけど」
高みを目指すなら、七色も通過点である。四色などまだまだだ。
「七色の虹になった後も、出来に応じて色が濃く大きくなりますよ。さらに完璧だと派手に花火が上がるって」
花火はユランも見ていないが。
「花火が上がるのか、それも見てみたいな」
「誰一人七色にも届いてないのに?」
「俺とお前らを一緒にするなよ、俺は六色だぞ」
「七色じゃないって点では一緒だよ!」
「これ、手本を書いたっていう事務官ならいけるんじゃないのか?」
「ああそうだな、呼んでくるか? 書いたの誰だよ」
別班の三人がもめた末、ユランの方を見る。
「呼ぶって言っても、この時間だと事務方の人はもう帰ってますよ」
ユランが時計を指差す。基本的に事務方は日勤のみである。既に日勤の勤務時間は終わっている。
「ああそっか、よし、じゃあ明日そいつが出勤したら捕まえないとな」
翌朝のハルシエルの運命が本人の与り知らぬところで決まる。
「あの皆さん、これは文字の練習のための物であって、花火を見るための物じゃないんですけど」
ユランは小さく手を上げて認識を正そうと発言したが、誰にも取り合ってもらえなかった。
夕方、警備隊の詰所に出勤したユランは、カイにくるっと巻いた大きな紋様符を差し出した。
「もう出来たのか、ありがとう。先生にも礼を言っといてくれ」
カイは、さっそく広げてみた。
「でかいな。……ん、これは虹が出るのか、凝ってんな」
紋様符と重ねて巻かれていた説明書きに目を通す。
「ハルシエルさんの字に寄せれば寄せるほど、濃くて大きい虹が出るんだよ。中毒性があるから気を付けて」
動作確認で何枚も書いちゃった、とユランが告げる。
「分かる。俺も花火を何度も打ち上げた」
カイがそうなんだよなと頷く。数字の練習は捗ったらしい。
「あ、そうだ、これも先生から」
ユランは小さな袋を、広げた練習用紙の横に置いた。
「気が済むまで練習できるように、魔力石の予備も持って行けって」
適当に掴んで袋に詰めてきたユランである。
「お、助かる。昨夜練習用紙と一緒に貰った魔力石、大分色が薄くなっちゃってさ」
魔力石は、その色の濃さで残量を推測できる。
「一日で色が薄くなるって、どれだけ練習したんだよ」
「しないよりいいだろ」
カイは、頑張ったことを褒めろ、という姿勢である。
「そうだね、頑張った頑張った……頭も撫でようか?」
エイダールに撫でられると嬉しいユランは提案してみたが。
「撫でなくていい」
即座に却下された。
「二色の虹か」
何これ面白過ぎるだろ、とヴェイセルが笑い出す。食事休憩中に、カイが昨夜のことを話し、紋様符を披露して、定型文を実際に練習して見せたところである。
「虹って七色だった気がするんだけどな」
「七色出ますよ、ちゃんと書ければ」
昨夜の動作確認で七色出したユランは、先生が作った紋様符には問題はないと断言する。
「そうか、カイの再現率が低いだけなんだな……」
頑張れ、とヴェイセルはカイを励ます。
「ヴェイセル先輩なら七色の虹が出るとでも? 書いてみてくださいよ」
そんなに言うなら出してみろとカイが憤る。
「出るに決まってんだろ、俺は普通に読める字が書けるからな!?」
「結構な癖字じゃないですか」
ヴェイセルの字は読み間違いを起こすような汚さではないが、癖がある。
「よーし、見てろよ」
ヴェイセルはペンを持った。
「四色ですね」
ヴェイセルが書き上げた紙を紋様符の上に載せると、四色の虹が出た。赤、橙、黄、緑と、ユランが丁寧に数える。
「おっかしいなあ、虹は七色だったんじゃないんですかー? 出るに決まってるんじゃなかったんですかー?」
「くっ」
カイに畳みかけられ、ヴェイセルが聞こえなーいと自分の耳を塞ぐ。
「何やってんだお前ら……なんだこれ、虹もどき?」
別の夜勤班の隊員が、何事かと近付いて来て、机の上の四色の虹に気付く。
「ユランの先生に、文字の練習用に作ってもらったやつ」
「その虹は判定結果です」
カイが簡単に答え、ユランが続けて説明を加える。
「ここに幾つか文章が書いてあるでしょう?」
ユランは、紋様符の中央部分を示す。
「ああ、見覚えのある文章だな、報告書とかで」
「事務官の人に、よく使う定型文で手本を書いてもらったんですよ。で、別の紙にこれに似せた文字を書いて載せると」
ヴェイセルの書いたものは既に載っている状態なので、ユランはカイの書いたものを再度載せる。
「お、こっちは二色か」
別の班の隊員は、興味深そうに見比べる。
「再現度を判定して、虹が出ます……ちゃんと書けてれば七色の虹が」
カイもヴェイセルもちゃんと書けていないので披露できないのだが。
「へえ、俺もやってみていい?」
「カイ、いいかな?」
紋様符の持ち主はカイになるので、ユランは尋ねる。
「どうぞ」
俺に七色の虹を見せてくれと、カイは頷いた。
「四色、四色、六色か」
結局、別班の三人全員が試してみたが、誰一人七色に届かない。
「虹を架けるのって難しいんだな……」
文字の練習だった筈なのに、違う結論に達しかける。
「虹は七色だから、七段階評価だと思えばいいんだよな。七段階評価で四色なら、ちょうど真ん中、普通ってことだよな」
平均しても四色だし、とヴェイセルは言ってみたが。
「え、虹が七色になればまあ合格点だろうって、先生は言ってましたけど」
高みを目指すなら、七色も通過点である。四色などまだまだだ。
「七色の虹になった後も、出来に応じて色が濃く大きくなりますよ。さらに完璧だと派手に花火が上がるって」
花火はユランも見ていないが。
「花火が上がるのか、それも見てみたいな」
「誰一人七色にも届いてないのに?」
「俺とお前らを一緒にするなよ、俺は六色だぞ」
「七色じゃないって点では一緒だよ!」
「これ、手本を書いたっていう事務官ならいけるんじゃないのか?」
「ああそうだな、呼んでくるか? 書いたの誰だよ」
別班の三人がもめた末、ユランの方を見る。
「呼ぶって言っても、この時間だと事務方の人はもう帰ってますよ」
ユランが時計を指差す。基本的に事務方は日勤のみである。既に日勤の勤務時間は終わっている。
「ああそっか、よし、じゃあ明日そいつが出勤したら捕まえないとな」
翌朝のハルシエルの運命が本人の与り知らぬところで決まる。
「あの皆さん、これは文字の練習のための物であって、花火を見るための物じゃないんですけど」
ユランは小さく手を上げて認識を正そうと発言したが、誰にも取り合ってもらえなかった。
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