弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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94「戦ってもいいなら戦うが」

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「くっそっ」
 舌打ちしながら、ブレナンはエイダールとユランを見た。
「自分の身は自分で守れるから」
「先生は僕が守りますから!」
 俺のことは気にしなくていい、と続けようとしたエイダールの言葉に、ユランが被せてくる。
「……まあ、戦ってもいいなら戦うが」
 依頼には関与しないという約束なので、邪魔も協力もしていないが、事態が事態である。
「あんた、戦えるのか? ……うわあっ」
 余所見をした瞬間に鳥型の魔獣に体当たりされて、ブレナンが足元に出来ていた血だまりに倒れ込む。その前に倒した魔獣から流れ出た血が溜まったものである。
「ブレナンっ」
 魔術師が咄嗟に鳥型の魔獣とブレナンの間に土壁を生成して追撃を防ぐが、魔獣の血に含まれる毒でブレナンは動けなくなる。
「ユラン、拾ってこい」
 エイダールは短く命じ、ケニスともう一人のメンバーに声を掛ける。
「そっちの二人もこっちへ! このすぐ下に洞窟があった筈だ、走るぞ」
「はい!」
 何故かブレナンを担いだユランが一番動きが良かった。




「『氷壁アイスウォール』」
 洞窟に走り込んだエイダールは、まず入口を氷の壁で塞いだ。追ってきた鳥型の魔獣がくちばしで破壊しようとするが、逆にくちばしが折れて血を流している。
「傷一つついてないって、おかしいだろう……」
 氷壁のあまりの堅牢さに、魔術師が呆然としている。
「違う違う、傷はつくけどすぐに修復してんだよ」
 傷付く端から修復が掛かって凍り直しているので、常に傷のない状態を保てるのだ。
「先生、ブレナンさんが」
 浅い呼吸のブレナンを地面に横たえたユランが、早くなんとかしてくださいという顔でエイダールを呼ぶ。
「分かってる。『解毒キュア』」
 多かれ少なかれ、全員が血を浴びていたので、全員に解毒魔法を掛ける。血だまりに突っ込んだブレナンには二度掛けした。
「怪我も結構してるな。『治癒ヒール』、ついでに『持続回復リジェネ』」
 光魔法の持続回復は、水属性のエイダールが使うと多少回復量が落ちるが、全く効果がない訳ではない。


「壁だけじゃなく治癒魔法まで使えるのかよ……。ひ弱な学者かと思ったら、上級魔術師じゃねえか、聞いてねえぞ」
 顔色はだいぶ良くなったが、まだ動けないブレナンが唸る。
「魔術師じゃないとも言ってないぞ? 聞かれてもないし」
 エイダールは、別に隠していた訳ではない。
「聞かなかった俺が悪いのかよ……まあそれはそれとして、助かった、礼を言う」
 あのまま死ぬかと思った。
「どういたしまして。それより、これってギルドからの討伐依頼だよな? 四人パーティでこなす数じゃないぞ、どういうことだ」
「分からん、依頼書には『鳥型の魔獣、十五体程度を確認』とあったんだが」
「え、間違いなく百体超えてますよ、残ってる数だけでも」
 氷壁越しに鳥型の魔獣を見ていたユランが、振り返る。
「五十か六十は倒したよな。ということは、桁間違いがどっかで起こってるな」
「俺の鞄に依頼書が入ってる、確認してくれ」
 ブレナンの言葉に魔術師が頷いて、動けないブレナンの代わりに彼の鞄を開ける。


「十五体って書いてあるな」
 ギルドの調査隊が一度来て、数を確認したとも書いてある。
「だろう? 十五や二十なら、俺たちなら余裕で倒せる頭数だ」
 実際はその三倍は倒した……が、まだ百体近く残っている、明らかに話が違う。
「というか、十五体なら、調査に来たついでに倒して帰ってもおかしくない数なんだが、それをしてないってことは」
 ギルドの調査依頼というのは、『倒せそうなら倒してきてね、無理はしなくていいから』というものが多い。
「あの数を十五と見間違うような奴が調査に来ないだろうし、百五十と見たなら当然手におえないから戻って報告だよな」
 調査書から依頼書に情報を書き写す際に、数が減ったとしか思えない。
「まあ、冒険者ギルドに戻ったら盛大に詰め寄って報酬を十倍貰うんだな」
 慰謝料も欲しいところである。
「戻れるのか、あの群れを突っ切って」
 ブレナンの表情が硬い。洞窟までは数十メートルだったので振り切れたが、帰り道での一方的な鬼ごっこは不利すぎる。
「問題ない。とりあえず、魔弓を改造して一撃で仕留められる程度の威力にする……ちょっと貸せ」
「そんなことができるのか」
 手を伸ばされて魔弓をエイダールに渡しながら、ケニスが尋ねる。
「もともと現場で調整できるように仮組み用の魔導回路が入ってるから変更は簡単だ。魔力消費が激しくなるから、魔力石一個で撃てるのは三十発くらいになるが」
「……鳥型の魔獣は百体以上いるんだが」
「魔力石は二十個くらい持ってきてるぞ」
 無くなれば充填することも可能だ。
「と言っても、洩れたのだけでいいから、魔力石一個で充分だ」
「洩れた? 何から?」
「俺の魔法から……よし、出来た」
 魔導回路を組み直して、エイダールは魔弓をケニスに戻す。


「よし、さくっと片付けよう。俺が粗方まとめるから、洩れたのを弓で撃ち落としてくれ。そっちのあんたはケニスを魔獣から守ってくれ」
 もう一人のメンバーを指名する。
「僕は先生を守りますね!」
 ユランは張り切った。
「俺は別に守ってもらわなくても……ああ、分かった、任せるからしょげるな」
 分かりやすく瞳をうるうるさせるユランに、エイダールは折れた。
「私に、何か出来ることは」
 魔術師に問われて、エイダールは考え込む。
「その辺の地面を柔らかくして、寝心地良くしてやったら?」
 土系の魔術師なら得意分野であろうことを提案する。
「分かりました、私は戦闘には不要なんですね。そうですかそうですか」
「………………行くぞ」
 拗ねた魔術師を置いて、氷壁を解除して外に出る。




「多めに範囲を取って……『氷の穹窿アイスドーム』」
 鳥型の魔獣の群れをひとまとめに囲うように、氷の半球が生成される。
「七体か八体洩れた、任せたぞ」
「了解」
 ケニスが、弓を引き絞り、慎重に狙いを定め、矢を放った。
「うわ、怖っ」
 氷の塊になった鳥型の魔獣が降ってきて、鈍い音と同時に地面が揺れる。
「別の意味で危なくないですかこれ」
 ユランが目を丸くしている。結構な高さから、百キロ超えの氷の塊(魔獣入り)が降ってくるのである。先程までの戦闘でも鳥型の魔獣は落ちてきていたが、翼を射抜かれて自重を支えきれなくなって落ちてくるのとはまるで速度が違う。
「当たらないようにな」
「はい」
「こっちはちょっとずつ縮小して……さらに縮小」
 鳥型の魔獣推定百体を囲んだ氷の半球を、徐々に小さくしていく。
「みっちりになりましたね」
 半球の中で、鳥型の魔獣が身動きも取れなくなっている。その間にケニスは、洩れた魔獣をすべて撃ち落としている。
「そうだな、これくらいでいいだろう。『凍結フリーズ』」
 鳥型の魔獣の氷漬けの出来上がりである。
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