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89「何だよこの、俺が全部悪いみたいな流れ」
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「まあ、そういう経緯があるから、お前が俺に懐くのは分かるし、俺もお前のことは好きだが」
ただの刷り込みなので、お互い、そこに恋が生まれる余地があるとは思えない。
「僕も、もちろん家族みたいな意味でも好きですが」
それだけではないし、それ以上の恋心がある。
「そうじゃない意味でも好きなんです」
だからエイダールがカスペルと結婚するのだと思い込んだ時、分かりやすく落ち込んで熱まで出した。
「そんなことを突然言われても困るんだが」
「突然じゃないです、何度も言ったじゃないですか」
ユランは唇を尖らせた。
「え、いつ」
エイダールは、全く心当たりがない。
「いつって……何度も何度も好きって告白したし、デートにも誘ったし!」
「告白? デート?」
エイダールの首がだんだんと傾いていく。
「あー、俺が一つ証言を……『告白』の現場に居合わせたことがある」
ヴェイセルが手を挙げた。
「その時は、ユランの大好きという告白に対し、ありがとう嬉しいよと返して、頭を撫でていた」
まるっきり子ども扱いだった。
「そういうのなら結構あったかもな。ユランは割とぽろっとそういうのを言葉にするし」
素直ないい子なんだ、と自慢げなエイダールにヴェイセルは呆れる。
「結構あったそれを、告白と思ってなかったんだな……」
鉄壁の保護者目線で恋心を踏みにじっていたらしい。
「思ってなかったな、そうか、あれ、告白だったのか」
本気で気付いていなかった。
「よし、じゃあ告白の方は認めるとして、デートってのは?」
こっちはないだろうという顔でエイダールは尋ねたが。
「私、ユランさんがギルシェ先生を湖に誘ってるのを見たことあります!」
今度はシビラが手を挙げる。
「湖?」
「郊外にある観光地ですよ、王都から近いのに自然が多くて、特に紅葉の季節は、湖にそれが映ってすごく綺麗で」
割と有名な場所である。
「ああ、そこなら確かに一緒に行ってほしいって言われて二人で行ったな」
「ほら、デートしてるじゃないですか!」
エイダールの肯定を聞いて、シビラは畳みかけたが。
「誰か女の子と行く下調べかと思ってたんだが」
エイダールはデートだとは思っていなかった。
「下調べ? 何でそう思ったんですか、普通に考えてデートでしょう? あそこ、恋人たちの聖地として有名だって聞きましたよ?」
そんな場所に誘われたのに、なぜ下調べだと思ったのかと、ユランは問い詰める。
「だからこそ、俺と行く理由を考えると下調べだろうなって……」
散策路の地図を貰って景色のいいところを確認し、湖に浮かべたボートを借りて、手際よく漕げるように練習もさせた。
「昼食を取るのに良さそうな場所を見つけたから、ちょうど昼時にそこを通り掛かれるように出発時間まで計算してやったのに」
間違った方向だが、エイダールなりに協力したつもりだった。
「そういえば、数日後に乗合馬車の時間まで網羅した日程表をくれましたよね……」
それを実行する機会はなかったが。
「私も見たことがありました、ユランくんがギルシェ先生を観劇に誘っていたのを」
スウェンが、あれはデートの誘いだったのかも、と話し始める。
「二人はよく一緒に出掛けていましたが、いつもは買い出しや食べ歩きって感じだったのに、その日は観劇に誘っていたので、不思議に思いました」
どういう風の吹き回しだろうと思った。
「それで、二人で観劇に?」
シビラが興味津々といった風に口を挟む。
「ええ。『舞台を一緒に見に行ってくれませんか』というユランくんに、ギルシェ先生は『女の子に断られたのか』って言っていて謎でしたけど、二人でそのまま出掛けて行きましたよ」
「何でそこで女の子の話が出てくるんですか……?」
どこからその女は沸いたのだとシビラは思い、エイダールを見る。
「その少し前に指定席の取り方とか聞かれたし、てっきり切符を取ったはいいものの女の子には誘いを断られたから、俺に話が来たのかと」
思い込みって怖い。
「最初から先生を誘う気でしたが!?」
僕は浮気なんかしません、とユランは不満顔である。
「あの時、女の子は準備に時間が掛かるんだから突然誘っても断られるぞとか、今度からは気を付けろとか言ってたのって、もしかして助言のつもりで?」
「そうだな」
観劇ともなれば、女の子は念入りに支度を整えたいものなので、観劇当日に誘うなど言語道断である。次の機会には誘いを受けてもらえるようにしてやりたいと思って、口うるさく言った。
「観劇に付き合ったのも、切符を無駄にするのもなんだしって思ったのもあるけど、劇場の規則やマナーを知るにはいい機会かと思って」
すべてはユランが次の機会に女の子との観劇をうまくこなせるようになるためにという親心だ。実のところ、エイダールは人に教えられるほどマナーに精通していないが、ユランよりはましである。
「どう思ってたかはともかく、観劇は一緒に行ったんだよな?」
ヴェイセルに聞かれて、エイダールは頷く。同行したのは間違いない。
「つまり、デートが成立。これで、告白とデートが揃ったことに」
エイダールは、テーブルについている全員から、ユランの恋心を認めろという圧を感じた。
「え、ちょっと分かってなかっただけなのに、何かすげー責められてる気がするんだけど!?」
「ちょっとじゃないからじゃないでしょうか」
冷静なシビラの突っ込みに、スウェンとヴェイセルはうんうんと頷く。ユランはじとっとした目でエイダールを見ている。
「何だよこの、俺が全部悪いみたいな流れ……」
鈍さも極めれば罪になる例であった。
ただの刷り込みなので、お互い、そこに恋が生まれる余地があるとは思えない。
「僕も、もちろん家族みたいな意味でも好きですが」
それだけではないし、それ以上の恋心がある。
「そうじゃない意味でも好きなんです」
だからエイダールがカスペルと結婚するのだと思い込んだ時、分かりやすく落ち込んで熱まで出した。
「そんなことを突然言われても困るんだが」
「突然じゃないです、何度も言ったじゃないですか」
ユランは唇を尖らせた。
「え、いつ」
エイダールは、全く心当たりがない。
「いつって……何度も何度も好きって告白したし、デートにも誘ったし!」
「告白? デート?」
エイダールの首がだんだんと傾いていく。
「あー、俺が一つ証言を……『告白』の現場に居合わせたことがある」
ヴェイセルが手を挙げた。
「その時は、ユランの大好きという告白に対し、ありがとう嬉しいよと返して、頭を撫でていた」
まるっきり子ども扱いだった。
「そういうのなら結構あったかもな。ユランは割とぽろっとそういうのを言葉にするし」
素直ないい子なんだ、と自慢げなエイダールにヴェイセルは呆れる。
「結構あったそれを、告白と思ってなかったんだな……」
鉄壁の保護者目線で恋心を踏みにじっていたらしい。
「思ってなかったな、そうか、あれ、告白だったのか」
本気で気付いていなかった。
「よし、じゃあ告白の方は認めるとして、デートってのは?」
こっちはないだろうという顔でエイダールは尋ねたが。
「私、ユランさんがギルシェ先生を湖に誘ってるのを見たことあります!」
今度はシビラが手を挙げる。
「湖?」
「郊外にある観光地ですよ、王都から近いのに自然が多くて、特に紅葉の季節は、湖にそれが映ってすごく綺麗で」
割と有名な場所である。
「ああ、そこなら確かに一緒に行ってほしいって言われて二人で行ったな」
「ほら、デートしてるじゃないですか!」
エイダールの肯定を聞いて、シビラは畳みかけたが。
「誰か女の子と行く下調べかと思ってたんだが」
エイダールはデートだとは思っていなかった。
「下調べ? 何でそう思ったんですか、普通に考えてデートでしょう? あそこ、恋人たちの聖地として有名だって聞きましたよ?」
そんな場所に誘われたのに、なぜ下調べだと思ったのかと、ユランは問い詰める。
「だからこそ、俺と行く理由を考えると下調べだろうなって……」
散策路の地図を貰って景色のいいところを確認し、湖に浮かべたボートを借りて、手際よく漕げるように練習もさせた。
「昼食を取るのに良さそうな場所を見つけたから、ちょうど昼時にそこを通り掛かれるように出発時間まで計算してやったのに」
間違った方向だが、エイダールなりに協力したつもりだった。
「そういえば、数日後に乗合馬車の時間まで網羅した日程表をくれましたよね……」
それを実行する機会はなかったが。
「私も見たことがありました、ユランくんがギルシェ先生を観劇に誘っていたのを」
スウェンが、あれはデートの誘いだったのかも、と話し始める。
「二人はよく一緒に出掛けていましたが、いつもは買い出しや食べ歩きって感じだったのに、その日は観劇に誘っていたので、不思議に思いました」
どういう風の吹き回しだろうと思った。
「それで、二人で観劇に?」
シビラが興味津々といった風に口を挟む。
「ええ。『舞台を一緒に見に行ってくれませんか』というユランくんに、ギルシェ先生は『女の子に断られたのか』って言っていて謎でしたけど、二人でそのまま出掛けて行きましたよ」
「何でそこで女の子の話が出てくるんですか……?」
どこからその女は沸いたのだとシビラは思い、エイダールを見る。
「その少し前に指定席の取り方とか聞かれたし、てっきり切符を取ったはいいものの女の子には誘いを断られたから、俺に話が来たのかと」
思い込みって怖い。
「最初から先生を誘う気でしたが!?」
僕は浮気なんかしません、とユランは不満顔である。
「あの時、女の子は準備に時間が掛かるんだから突然誘っても断られるぞとか、今度からは気を付けろとか言ってたのって、もしかして助言のつもりで?」
「そうだな」
観劇ともなれば、女の子は念入りに支度を整えたいものなので、観劇当日に誘うなど言語道断である。次の機会には誘いを受けてもらえるようにしてやりたいと思って、口うるさく言った。
「観劇に付き合ったのも、切符を無駄にするのもなんだしって思ったのもあるけど、劇場の規則やマナーを知るにはいい機会かと思って」
すべてはユランが次の機会に女の子との観劇をうまくこなせるようになるためにという親心だ。実のところ、エイダールは人に教えられるほどマナーに精通していないが、ユランよりはましである。
「どう思ってたかはともかく、観劇は一緒に行ったんだよな?」
ヴェイセルに聞かれて、エイダールは頷く。同行したのは間違いない。
「つまり、デートが成立。これで、告白とデートが揃ったことに」
エイダールは、テーブルについている全員から、ユランの恋心を認めろという圧を感じた。
「え、ちょっと分かってなかっただけなのに、何かすげー責められてる気がするんだけど!?」
「ちょっとじゃないからじゃないでしょうか」
冷静なシビラの突っ込みに、スウェンとヴェイセルはうんうんと頷く。ユランはじとっとした目でエイダールを見ている。
「何だよこの、俺が全部悪いみたいな流れ……」
鈍さも極めれば罪になる例であった。
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