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56「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」
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「というか、何で先に解約したんだ。解約してから次の部屋を探すんじゃなく、次のを探してから解約するべきだろ」
エイダールにしては正論である。
「解約は、なんというか、勢いで?」
弟枠から恋人枠への昇格を目指す自分を追い込むための見切り発車だった。その数日後に求婚騒ぎがあって、気持ちを伝えることもなく砕け散ったが。
「何か問題を起こしたとかじゃないだろうな」
契約を打ち切られるような何かを。
「何も起こしてませんよ。そもそもあんまり帰ってないし」
いる時間が少なすぎて、問題を起こしようがない。
「そういや、最近の家への入り浸りっぷりは酷いよな……俺もいるのが当たり前みたいになってたが」
じわじわと意識まで浸食されていた。慣れって怖い。
「出来るだけ先生に迷惑掛からないように、早めに探すので、今月中に見つからなかったら荷物を一時的にこの家に置かせてください」
「今月中のお前の休みは何日ある?」
物件探しに使える時間があるのだろうか。
「二日あります。あ、当番代わってもらった分のがどっかに入るんだっけ?」
誘拐事件騒ぎで幾つか借りがあるので、本当に二日あるのか怪しい。
「二日あるとして、それで部屋を探して引っ越しまでは無理だろう」
「可能性は零じゃないと思います」
零ではないが、ほぼ不可能である。
「職場の近くってことは、この辺りで探してるんだよな?」
「そうなるの、かな」
具体的な行動を何もしていないユランは、曖昧に返す。
「この辺りは学生向けの物件は多いが、立地がいいところはとっくに埋まってるな。ああ、一つ、悪くない条件の物件に心当たりがあるが、どうだ?」
アカデミーに近いので、物件自体は多いのだが、埋まるのも早い。西区警備隊詰所は、アカデミーと大通りを挟んで向かいにあるので、近い部屋を借りようとすると学生と争うことになる。
「どんなところですか?」
「職場まで徒歩五分」
「好立地ですね」
エイダールの家からと変わらない距離ということだ。
「一軒家で大家と共同生活。家具付きで寝室ともう一部屋を専有できる。厨房・風呂・トイレなんかの設備は共有」
一軒家の中の部屋を間借りする形になるらしい。
「二部屋も貰えるんですか? 家賃が心配だな……」
立地がいい上に部屋数も多い。高そうである。
「家賃は、今借りてる部屋と同じ」
「えっ」
今借りている部屋の賃料は、警備隊の福利厚生から出る家賃補助でほぼ賄えるくらいに安い。警備隊に入った頃、この辺りに住みたくて賃料の相場を調べたことがあるが、平均より高めの設定だった。今までと同じ賃料で借りられる筈がない。
「もしかして、大家さんに問題が?」
先程の条件で、貸し部屋に空きがあるということは、相応の原因がある筈である。大家が気難しいとか、怒りっぽいとか。
「いい人でも、大家さんと一緒っていうのもちょっと」
ユランは人懐っこい方なので、割と誰とでも打ち解けるほうだが、同じ家という空間の中で他人と暮らすのは気が重い。気難しい人とであれば尚更で、小さい部屋でも一人暮らしの方がましである。
「そうか、もう一緒に住んでるようなもんだからいいかと思ったんだが」
「……え?」
何を言われているのか分からず、ユランはエイダールを凝視する。
「この辺に住むのにわざわざ他に部屋を借りなくても、この家に引っ越して来ればいいだろうって話。つまり大家は俺だ」
なし崩しに一緒に暮らしたいと思って部屋を解約した訳だが、エイダールの方から転がり込むように言われるとは思わず、ユランは固まる。
「ベッドは既にあるし、部屋は余ってるからもう一部屋くらいお前に振り分けても別に問題ないしな」
「僕、本当にここに住んでいいんですか」
ユランが夢かもしれないと確認すると。
「これだけ入り浸っといて何を今更」
エイダールにふっと笑われる。確かに、自分で借りている部屋に帰るよりもこちらに来ることの方が多いが。むしろこちらに家賃を払うべきだった。
「それとも俺と暮らすのは嫌か?」
こんなに可愛がってるのに嫌われてたのか、とわざとらしく落ち込んで見せるエイダール。
「嫌な訳ないじゃないですか! ぜひお願いします! ここでお世話になります!」
ユランは叫ぶように同居を選択した。
「よし、じゃあ早めに引っ越して来い。俺は暫く留守にするが、適当に好きな部屋を選んでおいてくれ。あ、俺の書斎と寝室以外でな」
「えー」
寝室にベッドを並べる夢を見ていたユランは不満を洩らす。
「各自、私的な空間は確保しないとだろ」
エイダールは、何をしようとしていたんだという目でユランを見るが、妄想しただけでは罪に問えない。
「はい、どこか空いてる部屋を選んでおきます」
今ベッドを入れて貰っている部屋の近辺は、空き部屋だらけなので、その辺りが妥当だろう。
「そうだな、泊まり込みから戻ってきたら、選んだ部屋に手を入れよう。一応貸し出す訳だからちゃんとしないとな」
「掃除だけすればすぐ使えると思いますけど……」
傷みがあればその都度補修しているのだ、問題のある部屋はない。
「きっちりそれっぽいことしたいじゃないか。大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然だからな。面倒見させろよ」
ユランは弟枠から子供枠へ移行したらしい。昇格か降格かは判断がつかなかった。
エイダールにしては正論である。
「解約は、なんというか、勢いで?」
弟枠から恋人枠への昇格を目指す自分を追い込むための見切り発車だった。その数日後に求婚騒ぎがあって、気持ちを伝えることもなく砕け散ったが。
「何か問題を起こしたとかじゃないだろうな」
契約を打ち切られるような何かを。
「何も起こしてませんよ。そもそもあんまり帰ってないし」
いる時間が少なすぎて、問題を起こしようがない。
「そういや、最近の家への入り浸りっぷりは酷いよな……俺もいるのが当たり前みたいになってたが」
じわじわと意識まで浸食されていた。慣れって怖い。
「出来るだけ先生に迷惑掛からないように、早めに探すので、今月中に見つからなかったら荷物を一時的にこの家に置かせてください」
「今月中のお前の休みは何日ある?」
物件探しに使える時間があるのだろうか。
「二日あります。あ、当番代わってもらった分のがどっかに入るんだっけ?」
誘拐事件騒ぎで幾つか借りがあるので、本当に二日あるのか怪しい。
「二日あるとして、それで部屋を探して引っ越しまでは無理だろう」
「可能性は零じゃないと思います」
零ではないが、ほぼ不可能である。
「職場の近くってことは、この辺りで探してるんだよな?」
「そうなるの、かな」
具体的な行動を何もしていないユランは、曖昧に返す。
「この辺りは学生向けの物件は多いが、立地がいいところはとっくに埋まってるな。ああ、一つ、悪くない条件の物件に心当たりがあるが、どうだ?」
アカデミーに近いので、物件自体は多いのだが、埋まるのも早い。西区警備隊詰所は、アカデミーと大通りを挟んで向かいにあるので、近い部屋を借りようとすると学生と争うことになる。
「どんなところですか?」
「職場まで徒歩五分」
「好立地ですね」
エイダールの家からと変わらない距離ということだ。
「一軒家で大家と共同生活。家具付きで寝室ともう一部屋を専有できる。厨房・風呂・トイレなんかの設備は共有」
一軒家の中の部屋を間借りする形になるらしい。
「二部屋も貰えるんですか? 家賃が心配だな……」
立地がいい上に部屋数も多い。高そうである。
「家賃は、今借りてる部屋と同じ」
「えっ」
今借りている部屋の賃料は、警備隊の福利厚生から出る家賃補助でほぼ賄えるくらいに安い。警備隊に入った頃、この辺りに住みたくて賃料の相場を調べたことがあるが、平均より高めの設定だった。今までと同じ賃料で借りられる筈がない。
「もしかして、大家さんに問題が?」
先程の条件で、貸し部屋に空きがあるということは、相応の原因がある筈である。大家が気難しいとか、怒りっぽいとか。
「いい人でも、大家さんと一緒っていうのもちょっと」
ユランは人懐っこい方なので、割と誰とでも打ち解けるほうだが、同じ家という空間の中で他人と暮らすのは気が重い。気難しい人とであれば尚更で、小さい部屋でも一人暮らしの方がましである。
「そうか、もう一緒に住んでるようなもんだからいいかと思ったんだが」
「……え?」
何を言われているのか分からず、ユランはエイダールを凝視する。
「この辺に住むのにわざわざ他に部屋を借りなくても、この家に引っ越して来ればいいだろうって話。つまり大家は俺だ」
なし崩しに一緒に暮らしたいと思って部屋を解約した訳だが、エイダールの方から転がり込むように言われるとは思わず、ユランは固まる。
「ベッドは既にあるし、部屋は余ってるからもう一部屋くらいお前に振り分けても別に問題ないしな」
「僕、本当にここに住んでいいんですか」
ユランが夢かもしれないと確認すると。
「これだけ入り浸っといて何を今更」
エイダールにふっと笑われる。確かに、自分で借りている部屋に帰るよりもこちらに来ることの方が多いが。むしろこちらに家賃を払うべきだった。
「それとも俺と暮らすのは嫌か?」
こんなに可愛がってるのに嫌われてたのか、とわざとらしく落ち込んで見せるエイダール。
「嫌な訳ないじゃないですか! ぜひお願いします! ここでお世話になります!」
ユランは叫ぶように同居を選択した。
「よし、じゃあ早めに引っ越して来い。俺は暫く留守にするが、適当に好きな部屋を選んでおいてくれ。あ、俺の書斎と寝室以外でな」
「えー」
寝室にベッドを並べる夢を見ていたユランは不満を洩らす。
「各自、私的な空間は確保しないとだろ」
エイダールは、何をしようとしていたんだという目でユランを見るが、妄想しただけでは罪に問えない。
「はい、どこか空いてる部屋を選んでおきます」
今ベッドを入れて貰っている部屋の近辺は、空き部屋だらけなので、その辺りが妥当だろう。
「そうだな、泊まり込みから戻ってきたら、選んだ部屋に手を入れよう。一応貸し出す訳だからちゃんとしないとな」
「掃除だけすればすぐ使えると思いますけど……」
傷みがあればその都度補修しているのだ、問題のある部屋はない。
「きっちりそれっぽいことしたいじゃないか。大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然だからな。面倒見させろよ」
ユランは弟枠から子供枠へ移行したらしい。昇格か降格かは判断がつかなかった。
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