38 / 178
38「こりゃまた随分と手癖の悪い」
しおりを挟む
「騎士様方? もしかして迷われましたか? ここは私たち神官の居住区で、部外者の方は立ち入り禁止となっておりますので……」
廊下で、エイダールたちを迷子だと思ったらしい若い神官に声を掛けられた。
「迷子ではありませんのでお気になさらず。友人が神殿で無くしたものを、こちらで預かっていただいているようなので取りに来ただけです」
イーレンが、立ち入り禁止区域に入った後ろめたさなど何一つないような顔でにこやかに相手をする。やわらかい物腰と丁寧な言葉遣いをするだけで、不審者感は激減する。
「え? 落とし物や忘れ物でしたら神殿入口の受付でお預かりしている筈ですが……あ、まさか」
若い神官は、物凄く申し訳なさそうな顔をした。
「まさか、何でしょうか?」
「いえ、あの……もしかして、預かっているという人から、返還する代わりに金品を要求されたりしてませんよね?」
恐る恐るという感じで、若い神官は尋ねてくる。
「特にそういったことはありませんが」
まだ話してもいないので、要求も何もないと思うイーレンの言葉に被せるように。
「そういうことをしそうな奴がいるんだな?」
エイダールが割り込んだ。
「はい、お恥ずかしい話ですが」
消え入りそうな声で、若い神官は肯定した。
「そいつは、評判は悪いのに、何故か上級神官の一人に気に入られていたり?」
「何故それを御存じなんですか!?」
鎌をかけると、若い神官は綺麗に引っ掛かった。
「その男の部屋に、案内してもらおうか」
エイダールは、いい案内係を手に入れたと、若い神官の肩を掴んだ。
「この部屋です」
案内された部屋から、確かに守護石の気配がする。
「案内をありがとうございます、ここまででいいですよ」
イーレンは若い神官を帰そうとしたが。
「いいえ、彼が預かったものをお返しするところまで見届けさせていただきます」
問題の部屋の主はどれほど信用がないのかという勢いで宣言される。
「そうか、じゃあ好きにしろ……おい、入るぞ!」
どんどんと扉を叩いたエイダールは、返事を待たずに踏み込んだ。
「何ですか突然! 誰ですか、あなた方は」
机に向かって書き物をしていた部屋の主は、ぎょっとしたように立ち上がった。
「青い石、持ってるだろ?」
「何の話ですか」
「昨夜連れ込んだ若い男から奪った青い石だよ」
「だ、だから何の話かと……!」
言いながら、一瞬机の引き出しに視線を泳がせ、その前に立つ。
「そうか、ここか」
エイダールは部屋の主を押しのけると、引き出しに手を掛ける。
「勝手に触るな!」
エイダールを止めようとする部屋の主を、護衛役の騎士が取り押さえた。
「……こりゃまた随分と手癖の悪い」
エイダールが、引き出しに入っていた箱を取り出して蓋を取ると、色鮮やかな宝飾品が目に飛び込んでくる。かなりの数だ。
「失礼なことを言うな、それは私の物で」
「その緑の腕輪、見覚えがあるのですが」
案内してきた若い神官が、宝飾品の一つを目にして、青褪めている。
「今、行方不明になっている、枢機卿の側仕えをしていた方の物ですよね……どういうことなんですか」
「拉致したときに盗んだんだろ。俺の探し物もあったぞ」
エイダールはユランに持たせていた青い守護石を手に取る。
「拉致って……」
若い神官は、あなたが誘拐犯? という顔で部屋の主を見つめる。
「ち、違うんだ、その石は落ちていたのを拾って預かっていただけで……ひっ」
エイダールに顎を持ち上げられ、小さく悲鳴を上げる。
「俺は急いでいる。今すぐ本当のことを洗いざらい吐け。吐かないなら、神罰が下るかもしれないぞ? ……『審判』」
瞬間空が明るくなり、雷が神殿の中庭に落ちる。東屋にでも当たったのか、何かが崩れる音も聞こえてくる。
「な、なななななっ」
歯の根が合わない男を見て、ヴェイセルがイーレンに小声で尋ねる。
「いいんですか、こんな脅しをかけるみたいなことして」
「え、何もしていないでしょう? エイダールは神罰が下るかもしれないと言っただけですよ?」
イーレンは、何もしていないのだから当然脅してもいないという姿勢を貫くつもりらしい。
「だって、あの雷って……」
落雷を呼ぶ呪文が、先程エイダールの口から聞こえたような気がしたのだが。
「雷は自然現象です。ちょうど神罰なんて話をしている時に落ちるなんて、偶然て怖いですね」
「あ、はい」
ヴェイセルは、直接的に暴力に訴えた訳でもないのだからと納得することにした。
「こんな近くに突然雷が落ちるなんてびっくりしたな」
エイダールは、男の頬を撫でながらそう話し掛ける。
「また、たまたま偶然雷が落ちたらどうなるだろうな? 次はもっと近くかもしれないし、もっと数が多いかもしれないな?」
手つきは優しいのに、恐怖しか感じられない。
「少なくともさっきよりは近くに落ちる気がするな。俺の予感はよく当たるんだが、どうすれば回避できると思う?」
近くに落とすとも、数を増やすとも言っていない。ただ、そんな気がするだけだ。
「は、話す! 何でも、何でも話すから!! 命だけは!!!」
命をどうこうするなどという話は一切していないのだが、男はがたがたと震えながら声を絞り出した。
廊下で、エイダールたちを迷子だと思ったらしい若い神官に声を掛けられた。
「迷子ではありませんのでお気になさらず。友人が神殿で無くしたものを、こちらで預かっていただいているようなので取りに来ただけです」
イーレンが、立ち入り禁止区域に入った後ろめたさなど何一つないような顔でにこやかに相手をする。やわらかい物腰と丁寧な言葉遣いをするだけで、不審者感は激減する。
「え? 落とし物や忘れ物でしたら神殿入口の受付でお預かりしている筈ですが……あ、まさか」
若い神官は、物凄く申し訳なさそうな顔をした。
「まさか、何でしょうか?」
「いえ、あの……もしかして、預かっているという人から、返還する代わりに金品を要求されたりしてませんよね?」
恐る恐るという感じで、若い神官は尋ねてくる。
「特にそういったことはありませんが」
まだ話してもいないので、要求も何もないと思うイーレンの言葉に被せるように。
「そういうことをしそうな奴がいるんだな?」
エイダールが割り込んだ。
「はい、お恥ずかしい話ですが」
消え入りそうな声で、若い神官は肯定した。
「そいつは、評判は悪いのに、何故か上級神官の一人に気に入られていたり?」
「何故それを御存じなんですか!?」
鎌をかけると、若い神官は綺麗に引っ掛かった。
「その男の部屋に、案内してもらおうか」
エイダールは、いい案内係を手に入れたと、若い神官の肩を掴んだ。
「この部屋です」
案内された部屋から、確かに守護石の気配がする。
「案内をありがとうございます、ここまででいいですよ」
イーレンは若い神官を帰そうとしたが。
「いいえ、彼が預かったものをお返しするところまで見届けさせていただきます」
問題の部屋の主はどれほど信用がないのかという勢いで宣言される。
「そうか、じゃあ好きにしろ……おい、入るぞ!」
どんどんと扉を叩いたエイダールは、返事を待たずに踏み込んだ。
「何ですか突然! 誰ですか、あなた方は」
机に向かって書き物をしていた部屋の主は、ぎょっとしたように立ち上がった。
「青い石、持ってるだろ?」
「何の話ですか」
「昨夜連れ込んだ若い男から奪った青い石だよ」
「だ、だから何の話かと……!」
言いながら、一瞬机の引き出しに視線を泳がせ、その前に立つ。
「そうか、ここか」
エイダールは部屋の主を押しのけると、引き出しに手を掛ける。
「勝手に触るな!」
エイダールを止めようとする部屋の主を、護衛役の騎士が取り押さえた。
「……こりゃまた随分と手癖の悪い」
エイダールが、引き出しに入っていた箱を取り出して蓋を取ると、色鮮やかな宝飾品が目に飛び込んでくる。かなりの数だ。
「失礼なことを言うな、それは私の物で」
「その緑の腕輪、見覚えがあるのですが」
案内してきた若い神官が、宝飾品の一つを目にして、青褪めている。
「今、行方不明になっている、枢機卿の側仕えをしていた方の物ですよね……どういうことなんですか」
「拉致したときに盗んだんだろ。俺の探し物もあったぞ」
エイダールはユランに持たせていた青い守護石を手に取る。
「拉致って……」
若い神官は、あなたが誘拐犯? という顔で部屋の主を見つめる。
「ち、違うんだ、その石は落ちていたのを拾って預かっていただけで……ひっ」
エイダールに顎を持ち上げられ、小さく悲鳴を上げる。
「俺は急いでいる。今すぐ本当のことを洗いざらい吐け。吐かないなら、神罰が下るかもしれないぞ? ……『審判』」
瞬間空が明るくなり、雷が神殿の中庭に落ちる。東屋にでも当たったのか、何かが崩れる音も聞こえてくる。
「な、なななななっ」
歯の根が合わない男を見て、ヴェイセルがイーレンに小声で尋ねる。
「いいんですか、こんな脅しをかけるみたいなことして」
「え、何もしていないでしょう? エイダールは神罰が下るかもしれないと言っただけですよ?」
イーレンは、何もしていないのだから当然脅してもいないという姿勢を貫くつもりらしい。
「だって、あの雷って……」
落雷を呼ぶ呪文が、先程エイダールの口から聞こえたような気がしたのだが。
「雷は自然現象です。ちょうど神罰なんて話をしている時に落ちるなんて、偶然て怖いですね」
「あ、はい」
ヴェイセルは、直接的に暴力に訴えた訳でもないのだからと納得することにした。
「こんな近くに突然雷が落ちるなんてびっくりしたな」
エイダールは、男の頬を撫でながらそう話し掛ける。
「また、たまたま偶然雷が落ちたらどうなるだろうな? 次はもっと近くかもしれないし、もっと数が多いかもしれないな?」
手つきは優しいのに、恐怖しか感じられない。
「少なくともさっきよりは近くに落ちる気がするな。俺の予感はよく当たるんだが、どうすれば回避できると思う?」
近くに落とすとも、数を増やすとも言っていない。ただ、そんな気がするだけだ。
「は、話す! 何でも、何でも話すから!! 命だけは!!!」
命をどうこうするなどという話は一切していないのだが、男はがたがたと震えながら声を絞り出した。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!
晴森 詩悠
BL
ハヴィことハヴィエスは若くして第二騎士団の副団長をしていた。
今日はこの国王太子と幼馴染である親友の婚約式。
従兄弟のオルトと共に警備をしていたが、どうやら婚約式での会場の様子がおかしい。
不穏な空気を感じつつ会場に入ると、そこにはアンセルが無理やり床に押し付けられていたーー。
物語は完結済みで、毎日10時更新で最後まで読めます。(全29話+閉話)
(1話が大体3000字↑あります。なるべく2000文字で抑えたい所ではありますが、あんこたっぷりのあんぱんみたいな感じなので、短い章が好きな人には先に謝っておきます、ゴメンネ。)
ここでは初投稿になりますので、気になったり苦手な部分がありましたら速やかにソッ閉じの方向で!(土下座
性的描写はありませんが、嗜好描写があります。その時は▷がついてそうな感じです。
好き勝手描きたいので、作品の内容の苦情や批判は受け付けておりませんので、ご了承下されば幸いです。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
婚約者の恋
うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。
そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した!
婚約破棄?
どうぞどうぞ
それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい!
……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね?
そんな主人公のお話。
※異世界転生
※エセファンタジー
※なんちゃって王室
※なんちゃって魔法
※婚約破棄
※婚約解消を解消
※みんなちょろい
※普通に日本食出てきます
※とんでも展開
※細かいツッコミはなしでお願いします
※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
悪役王子の幼少期が天使なのですが
しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる