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23「まさか貴族と諍いを……?」
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「貴族がどうかしたんですか? まさか貴族と諍いを……?」
カイがうまく説明できなかったらしく、ジペルスが大慌てで飛び込んでくる。
「いえ、諍いは起こしてません、まだ」
今のところそんな予定はないと、ヴェイセルが答える。
「まだって何ですか、まだって」
貴族相手では、平民の命など吹けば飛ぶような軽さなのに。
「可能性は皆無じゃないんで……じゃなくて、ユランの先生の相手のことを知りたいなってだけで」
「ああ、貴族男性らしいと噂されていましたね」
とりあえず貴族との間に何かがあった訳ではないらしいと、ジペルスは少し落ち着いて、椅子に座った。
「ですが私はその相手を見てもいないのですが?」
「ユランが顔見知りだって……何だっけ、その相手の家名が、サルバ何とか?」
ヴェイセルはユランに話を振る。
「名前はカスペルさんで、家名がサルバーリか、サルバトーリかで」
「サルバトーリ!?」
座ったばかりの椅子をガタガタと揺らして、立ち上がるジペルス。
「え、驚かなきゃならないような家なんですか?」
顔を見合わせるユラン、ヴェイセル、カイを見て、ジペルスは大きく息を吐き出して椅子に座り直した。
「あなた方が貴族に一切興味がないのはよく分かりました。サルバトーリと言えば、公爵家です」
爵位の中では最高位である。
「そっか、何か聞いたことある名前だとは思ったんだよな!」
あはははは、とヴェイセルが乾いた声で笑う。
「それも筆頭公爵家ですよ。ちなみに、現当主は宰相閣下です」
それを『何か聞いたことがある名前』程度の認識だなんてと嘆く。貴族でなくてもその辺までは常識として知っておいてほしかった。
「俺たちの知識の無さはともかくとしてさ、ユランの先生だって平民だろ? 公爵家の人が相手な訳ないよな?」
似たような名前の別の貴族なのではとヴェイセルが言い掛けたが。
「いいえ、カスペルという名前にも覚えがあります」
ジペルスが途中で制した。
「宰相閣下の御子息で間違いないと思います。特に悪い噂は聞いたことがありませんね。金銭関係でも女性関係でも。小さい頃から優秀で、今は宰相府で宰相閣下の補佐をしていると……ユランの先生は、とんでもない大物を釣り上げてたってことですね。いったいどこでお知り合いに?」
ユランに視線を移す。
「アカデミーの同期だって聞いてます。同い年で最初から一緒だったのはカスペルさんだけで、仲良くなったって」
身分差はあれど、年齢が同じというのは重要だ。
「宰相閣下の御子息はとても優秀で、人よりも早くアカデミーに入学された、という話は有名ですが……ユランの先生もですか?」
公爵令息が優秀さを認められ、有望な人材として早期教育を受けるのは分かるが、エイダールが、同じ年齢でアカデミーに入学する状況と言うのが分からない。
「魔力量の所為だって、先生は言ってましたけど」
エイダールは、幼い頃から魔力が強く、川の水を割ったりするような子供だった。
その力で何か悪さをする訳でもなく、のんびりした田舎の村ということもあって、問題なく日々の暮らしは流れていたのだが、神殿にどこからかその噂が入ったらしい。
『一度きちんと魔力量の計測をして、しかるべき訓練を』という手紙が領主宛てに送られてきたのが、エイダールが八歳の頃のこと。
何かの用で王都に行くことになったエイダールの両親が、そう言えばと思い出して一緒に連れて行き、神殿で魔力検査を受けたのが、エイダールが十二歳の頃のこと。
あまりの魔力量に計測用の水晶が吹き飛んで、大騒ぎになった。
エイダールが言うには『思いっきりやったら壊れる気がしたんだけど、思いっきりやれって言うから仕方なく……』で、壊したらしい。
『魔力制御を学びなさい、今すぐ!』と言われ、頷かないと家に帰してもらえそうにないと思わせる激しめの説得を受け、翌年からアカデミーで学ぶことになり、そこで同い年のカスペルと出会った。
「成程」
ジペルスは納得したが、ヴェイセルとカイはどういうことか分からない。
「魔力量が多いと強制的にアカデミーに入れられるんですか?」
「そういう訳ではありませんが、魔力の高いそのくらいの年齢の子供が、何の知識もないままというのは危険ですから。本人にとっても周りにとっても」
魔力持ちが生まれることが多い貴族であれば、幼い頃から家庭教師をつけたりと環境も整っているが、平民ではそんなこともままならない。何も知らない魔力の多い子供など、ただの危険物である。とにかく制御方法を学ばせる必要がある。
「平民は神殿に見習いに入るという訳にも行きませんし、貴族の学校にも入れませんし。残る窓口はアカデミーだけになりますね」
貴族の養子に入るという裏技的な手もないことはないが。アカデミーの通常の入学年齢は十六歳、優秀な子供であれば十三歳からでも受け入れ可能、エイダールはこの前倒し許容範囲ぎりぎりでの入学ということになる。
「そこから三年くらいで魔力制御は問題なく出来るようになって、その頃には学問自体に興味が出て学ぶのも楽しくなったからって、結局教師の資格が取れるまでアカデミーにいて」
「そのまま研究所勤めに?」
「そのままというか、先生は教師の資格が取れたら田舎に戻ってそこで子供たちを教えるつもりだったみたいなんですけど、今度は国から『研究室を用意するからアカデミーに残れ』って」
国は、貴重な人材を逃したくなかったらしい。ほぼ強制だった。騎士団への協力も、その頃から織り込まれている。
「あの若さで研究室持ちなのはそういう訳ですか……」
「僕は先生から村に戻れそうにないって聞いた瞬間に、王都行きを決めました」
エイダールが二十二歳、ユランが十六歳の時のことだ。
「知り合った経緯は分かった」
話がどんどんずれていってるけど、とカイが本題に戻す。
「友人関係まではいいとしても、公爵令息と平民が結婚て、ありなのか?」
身分差が激しすぎないだろうか。
「先生とだとどっちも遠慮なしに喋ってるし、僕とも気さくに話してくれる人だよ。あんまり身分がどうとか思ったことないけど」
ユランは、カスペルから貴族らしい圧を感じたことがない。圧がなくても身分差がない訳ではないが。
「優秀な魔術師の血統を欲しがる貴族は多いですよ。ユランの先生くらい優秀なら公爵家でもありでしょう。言い方は悪いですが種馬的な扱いで」
ジペルスの言葉に、ヴェイセルが、ん? という顔になる。
「男同士で種馬も何もないんじゃ……?」
種だけでは子は生らない。
「そうですね、宰相閣下の子は御子息お一人、跡継ぎが必要な筈ですので、女性との婚姻を結ばないとならない筈ですが」
「だけど結婚相手はユランの先生なんだろ?」
みんなで首を傾げて。
「実子に跡を継がせるのを諦めてでも貫きたい純愛、ということに?」
何となくいい話っぽく終わりそうになる。
「待て待て待て、どうなんだユラン、そんな純愛なのか? お前の知ってる二人の話を聞かせろ」
「僕が初めてカスペルさんに会ったのは、先生と一緒に村に来た時かな。先生がアカデミーに入って、初めての夏季休暇で帰省するのにくっついて。その後も何度か来てました」
何もない田舎に何が良くて来ていたのだろうと思うが、何もないのが逆に新鮮だったのかもしれない。他にもエイダールの友人たちは訪れていたが、回数はカスペルが一番多い。
「つまり御両親には挨拶済み……!」
「そうかも」
七年前から約束していたなら、帰省ついでに済ませていてもおかしくはない。
「他には?」
「えーと、今、先生が住んでいる家もカスペルさんの紹介で」
カスペルの伝手で研究所に近い手頃な家を探してもらったと言っていた。
「ちゃんとした格好をしないといけないときは相談にのってもらって」
サルバトーリ家にはエイダール専用の衣装部屋があるほどで、侍女たちにも世話になっている。
「先生が研究に使う、入手が難しい素材を手に入れて来てくれたり」
直接素材を持ってくることもあれば、禁足地にある採集場所への立ち入り許可をくれたりと、なかなかに心憎い。
「着々と地固めされてるじゃないか。ユラン、お前なんでそんな状況で『先生には女の影も男の影もなく』とか言ってたんだよ」
「親友っぽいのは知ってたけど、恋人感は全然なかったもん!」
「もん! じゃねえ」
子供のような言い争いを始めるヴェイセルとユランに、ジペルスは額を押さえた。
カイがうまく説明できなかったらしく、ジペルスが大慌てで飛び込んでくる。
「いえ、諍いは起こしてません、まだ」
今のところそんな予定はないと、ヴェイセルが答える。
「まだって何ですか、まだって」
貴族相手では、平民の命など吹けば飛ぶような軽さなのに。
「可能性は皆無じゃないんで……じゃなくて、ユランの先生の相手のことを知りたいなってだけで」
「ああ、貴族男性らしいと噂されていましたね」
とりあえず貴族との間に何かがあった訳ではないらしいと、ジペルスは少し落ち着いて、椅子に座った。
「ですが私はその相手を見てもいないのですが?」
「ユランが顔見知りだって……何だっけ、その相手の家名が、サルバ何とか?」
ヴェイセルはユランに話を振る。
「名前はカスペルさんで、家名がサルバーリか、サルバトーリかで」
「サルバトーリ!?」
座ったばかりの椅子をガタガタと揺らして、立ち上がるジペルス。
「え、驚かなきゃならないような家なんですか?」
顔を見合わせるユラン、ヴェイセル、カイを見て、ジペルスは大きく息を吐き出して椅子に座り直した。
「あなた方が貴族に一切興味がないのはよく分かりました。サルバトーリと言えば、公爵家です」
爵位の中では最高位である。
「そっか、何か聞いたことある名前だとは思ったんだよな!」
あはははは、とヴェイセルが乾いた声で笑う。
「それも筆頭公爵家ですよ。ちなみに、現当主は宰相閣下です」
それを『何か聞いたことがある名前』程度の認識だなんてと嘆く。貴族でなくてもその辺までは常識として知っておいてほしかった。
「俺たちの知識の無さはともかくとしてさ、ユランの先生だって平民だろ? 公爵家の人が相手な訳ないよな?」
似たような名前の別の貴族なのではとヴェイセルが言い掛けたが。
「いいえ、カスペルという名前にも覚えがあります」
ジペルスが途中で制した。
「宰相閣下の御子息で間違いないと思います。特に悪い噂は聞いたことがありませんね。金銭関係でも女性関係でも。小さい頃から優秀で、今は宰相府で宰相閣下の補佐をしていると……ユランの先生は、とんでもない大物を釣り上げてたってことですね。いったいどこでお知り合いに?」
ユランに視線を移す。
「アカデミーの同期だって聞いてます。同い年で最初から一緒だったのはカスペルさんだけで、仲良くなったって」
身分差はあれど、年齢が同じというのは重要だ。
「宰相閣下の御子息はとても優秀で、人よりも早くアカデミーに入学された、という話は有名ですが……ユランの先生もですか?」
公爵令息が優秀さを認められ、有望な人材として早期教育を受けるのは分かるが、エイダールが、同じ年齢でアカデミーに入学する状況と言うのが分からない。
「魔力量の所為だって、先生は言ってましたけど」
エイダールは、幼い頃から魔力が強く、川の水を割ったりするような子供だった。
その力で何か悪さをする訳でもなく、のんびりした田舎の村ということもあって、問題なく日々の暮らしは流れていたのだが、神殿にどこからかその噂が入ったらしい。
『一度きちんと魔力量の計測をして、しかるべき訓練を』という手紙が領主宛てに送られてきたのが、エイダールが八歳の頃のこと。
何かの用で王都に行くことになったエイダールの両親が、そう言えばと思い出して一緒に連れて行き、神殿で魔力検査を受けたのが、エイダールが十二歳の頃のこと。
あまりの魔力量に計測用の水晶が吹き飛んで、大騒ぎになった。
エイダールが言うには『思いっきりやったら壊れる気がしたんだけど、思いっきりやれって言うから仕方なく……』で、壊したらしい。
『魔力制御を学びなさい、今すぐ!』と言われ、頷かないと家に帰してもらえそうにないと思わせる激しめの説得を受け、翌年からアカデミーで学ぶことになり、そこで同い年のカスペルと出会った。
「成程」
ジペルスは納得したが、ヴェイセルとカイはどういうことか分からない。
「魔力量が多いと強制的にアカデミーに入れられるんですか?」
「そういう訳ではありませんが、魔力の高いそのくらいの年齢の子供が、何の知識もないままというのは危険ですから。本人にとっても周りにとっても」
魔力持ちが生まれることが多い貴族であれば、幼い頃から家庭教師をつけたりと環境も整っているが、平民ではそんなこともままならない。何も知らない魔力の多い子供など、ただの危険物である。とにかく制御方法を学ばせる必要がある。
「平民は神殿に見習いに入るという訳にも行きませんし、貴族の学校にも入れませんし。残る窓口はアカデミーだけになりますね」
貴族の養子に入るという裏技的な手もないことはないが。アカデミーの通常の入学年齢は十六歳、優秀な子供であれば十三歳からでも受け入れ可能、エイダールはこの前倒し許容範囲ぎりぎりでの入学ということになる。
「そこから三年くらいで魔力制御は問題なく出来るようになって、その頃には学問自体に興味が出て学ぶのも楽しくなったからって、結局教師の資格が取れるまでアカデミーにいて」
「そのまま研究所勤めに?」
「そのままというか、先生は教師の資格が取れたら田舎に戻ってそこで子供たちを教えるつもりだったみたいなんですけど、今度は国から『研究室を用意するからアカデミーに残れ』って」
国は、貴重な人材を逃したくなかったらしい。ほぼ強制だった。騎士団への協力も、その頃から織り込まれている。
「あの若さで研究室持ちなのはそういう訳ですか……」
「僕は先生から村に戻れそうにないって聞いた瞬間に、王都行きを決めました」
エイダールが二十二歳、ユランが十六歳の時のことだ。
「知り合った経緯は分かった」
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「友人関係まではいいとしても、公爵令息と平民が結婚て、ありなのか?」
身分差が激しすぎないだろうか。
「先生とだとどっちも遠慮なしに喋ってるし、僕とも気さくに話してくれる人だよ。あんまり身分がどうとか思ったことないけど」
ユランは、カスペルから貴族らしい圧を感じたことがない。圧がなくても身分差がない訳ではないが。
「優秀な魔術師の血統を欲しがる貴族は多いですよ。ユランの先生くらい優秀なら公爵家でもありでしょう。言い方は悪いですが種馬的な扱いで」
ジペルスの言葉に、ヴェイセルが、ん? という顔になる。
「男同士で種馬も何もないんじゃ……?」
種だけでは子は生らない。
「そうですね、宰相閣下の子は御子息お一人、跡継ぎが必要な筈ですので、女性との婚姻を結ばないとならない筈ですが」
「だけど結婚相手はユランの先生なんだろ?」
みんなで首を傾げて。
「実子に跡を継がせるのを諦めてでも貫きたい純愛、ということに?」
何となくいい話っぽく終わりそうになる。
「待て待て待て、どうなんだユラン、そんな純愛なのか? お前の知ってる二人の話を聞かせろ」
「僕が初めてカスペルさんに会ったのは、先生と一緒に村に来た時かな。先生がアカデミーに入って、初めての夏季休暇で帰省するのにくっついて。その後も何度か来てました」
何もない田舎に何が良くて来ていたのだろうと思うが、何もないのが逆に新鮮だったのかもしれない。他にもエイダールの友人たちは訪れていたが、回数はカスペルが一番多い。
「つまり御両親には挨拶済み……!」
「そうかも」
七年前から約束していたなら、帰省ついでに済ませていてもおかしくはない。
「他には?」
「えーと、今、先生が住んでいる家もカスペルさんの紹介で」
カスペルの伝手で研究所に近い手頃な家を探してもらったと言っていた。
「ちゃんとした格好をしないといけないときは相談にのってもらって」
サルバトーリ家にはエイダール専用の衣装部屋があるほどで、侍女たちにも世話になっている。
「先生が研究に使う、入手が難しい素材を手に入れて来てくれたり」
直接素材を持ってくることもあれば、禁足地にある採集場所への立ち入り許可をくれたりと、なかなかに心憎い。
「着々と地固めされてるじゃないか。ユラン、お前なんでそんな状況で『先生には女の影も男の影もなく』とか言ってたんだよ」
「親友っぽいのは知ってたけど、恋人感は全然なかったもん!」
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