弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

文字の大きさ
上 下
14 / 178

14「今回は自重するから」

しおりを挟む
「えっと、気にしなくて大丈夫だと思いますよ」
 赤くなったり青くなったりするジペルスを、年上だろうになんだか可愛い人だなとイーレンは思う。エルディもそう思って、笑って流していたと予想できる。彼はそういう性格だ。ちなみにイーレンは二十七歳、ジペルスは三十一歳、エルディは二十四歳である。
「右も左も分からない田舎者、という設定からすると、うまく擬態出来ていたってことで彼はむしろ嬉しかったでしょう。……では魔力石を置きます」
 イーレンが再現転移陣の上に置いたと同時に、魔力石が薄っすらと輝いた。
「お、ちゃんと魔力を吸ってるな」
 横から再現転移陣を見ていたエイダールが頷く。
「では設置完了ということで。魔力石が光っている間は、転移陣の中に絶対入らないようにしてください。常に転移に必要な魔力が流し込まれているので、起動時に転移陣に乗っていると魔力のあるなしに関わらず転移させられてしまいます」
「ん? 人間も転移させられるなら、この転移陣に乗ってれば次の事件が起こった時に犯人の隠れ家に招待してもらえるってことか? 手厚い歓迎が待ってそうだな」
 それはまあ随分と楽しそうだ、と口角を上げるアルムグレーン。
「ですね。歓迎してくれるならこっちも全力で応じないと」
 エイダールも不敵に笑う。
「転移陣の中に入らないでくださいって言っているでしょう? 今回は向こうに気付かれないよう場所を特定したいので。行方不明者は何人もいますし、転移先から更に移動させられている可能性のほうが高い。その場だけ制圧できても、そこで手掛かりが途切れては困るんですが!?」
 無駄に好戦的な二人にイーレンは声を荒げる。敵陣にたった一人で飛び込んでも、負けるという心配はしていないが。
「分かってるって、安心しろ」
「そうそう、最終的に突入するかもしれないけど、今回は自重するから」
 まったく安心できない返事が返ってきて、イーレンは頭が痛くなった。




「こんな小さな紋様符で、位置情報の発信と、音声取得まで出来るんですか?」
 位置情報の発信だけでも、この大きさに詰め込むのは難しい長さの術式だ。音声取得の方はそれ以上なのにと魔術師らしい質問をするジペルス。
「小さくないと転移時に向こうに違和感を感じさせるかもしれないので、最大限削ってもらいました。その為に今回、わざわざ外部から専門家の彼に来てもらいましたからね」
 イーレンはエイダールを指し示す。
「あんた、騎士団の人間じゃないのか? というか、騎士でもない?」
 外部からと聞いてアルムグレーンが問い質す。部外者には話せないことも多い。
「今は一時的に騎士団の所属ってことで……こんなの着せられてるが」
 借り物の騎士服を示したエイダールは、あまりかっちり着込むのが好きではないので不満そうだ。
「普段はそこのアカデミーの研究所勤めで、魔術師もやってます。エイダール・ギルシェといいます」
 そういや名乗ってなかったなと改めて名乗る。


「「エイダール・ギルシェ?」」
 その名を聞いて、アルムグレーンもジペルスも、あれ? という顔になった。
「あんたもしかして、うちにいるユラン・グスタフの『先生』か!」
「え、まあ、ユランには、読み書き計算程度は教えましたが、先生と言われるほどでは。知り合いではありますね」
 ユランのことを教え子のように言われて、エイダールはちょっと違うかなと返す。
「そうかそうか、あんたが噂の……へえ、成程。『とても凄い先生』というのは聞いてる」
「それはどうも?」
 アルムグレーンの言い回しと口調がおかしい。どんな噂なのかを、ユランに後で確認せねばならないと心に留め置く。


「彼はとても魔法紋様に詳しくて、魔法陣の設計に関しては、控えめに言っても最高水準の研究者ですよ」
「俺が主に研究してるのは魔導回路の設計だけどな……イーレン、いくら褒めても、転移陣の解析から作成まで全部俺に丸投げした恨みは忘れないぞ」
 紋様符を一枚一枚、特殊な紙に特殊なインクで認めたのもエイダールだ。その所為で昨夜はほとんど眠っていない。目の下に隈が出来る訳である。
「あー、紋様符と魔法陣と魔導回路はどう違うのか聞いてもいいか?」
 俺は魔術師じゃなくて詳しくないんだ、とアルムグレーンが手を上げる。
「どれも『魔法紋様』という魔法を発動させるための文字のようなものを使って描かれる術式の一種です」
 区分の定義は曖昧なのですが、とイーレンは前置きして。
「術式を紙などに描いて一回から数回の使い捨てなのが紋様符、術式を道具などに刻んで繰り返し使うものが魔導回路ですね。魔法陣はその中でも閉じられた円環の中で術式が完結しているものになります」
 魔法陣は、他の形式よりも必要な書き込み要素が多いが、安定性は最も高い。
「……聞いてもよく分からないということが分かった」
「説明下手で申し訳ありません……」
 アルムグレーンとイーレンは、お互いからそっと目を逸らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...