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14「今回は自重するから」
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「えっと、気にしなくて大丈夫だと思いますよ」
赤くなったり青くなったりするジペルスを、年上だろうになんだか可愛い人だなとイーレンは思う。エルディもそう思って、笑って流していたと予想できる。彼はそういう性格だ。ちなみにイーレンは二十七歳、ジペルスは三十一歳、エルディは二十四歳である。
「右も左も分からない田舎者、という設定からすると、うまく擬態出来ていたってことで彼はむしろ嬉しかったでしょう。……では魔力石を置きます」
イーレンが再現転移陣の上に置いたと同時に、魔力石が薄っすらと輝いた。
「お、ちゃんと魔力を吸ってるな」
横から再現転移陣を見ていたエイダールが頷く。
「では設置完了ということで。魔力石が光っている間は、転移陣の中に絶対入らないようにしてください。常に転移に必要な魔力が流し込まれているので、起動時に転移陣に乗っていると魔力のあるなしに関わらず転移させられてしまいます」
「ん? 人間も転移させられるなら、この転移陣に乗ってれば次の事件が起こった時に犯人の隠れ家に招待してもらえるってことか? 手厚い歓迎が待ってそうだな」
それはまあ随分と楽しそうだ、と口角を上げるアルムグレーン。
「ですね。歓迎してくれるならこっちも全力で応じないと」
エイダールも不敵に笑う。
「転移陣の中に入らないでくださいって言っているでしょう? 今回は向こうに気付かれないよう場所を特定したいので。行方不明者は何人もいますし、転移先から更に移動させられている可能性のほうが高い。その場だけ制圧できても、そこで手掛かりが途切れては困るんですが!?」
無駄に好戦的な二人にイーレンは声を荒げる。敵陣にたった一人で飛び込んでも、負けるという心配はしていないが。
「分かってるって、安心しろ」
「そうそう、最終的に突入するかもしれないけど、今回は自重するから」
まったく安心できない返事が返ってきて、イーレンは頭が痛くなった。
「こんな小さな紋様符で、位置情報の発信と、音声取得まで出来るんですか?」
位置情報の発信だけでも、この大きさに詰め込むのは難しい長さの術式だ。音声取得の方はそれ以上なのにと魔術師らしい質問をするジペルス。
「小さくないと転移時に向こうに違和感を感じさせるかもしれないので、最大限削ってもらいました。その為に今回、わざわざ外部から専門家の彼に来てもらいましたからね」
イーレンはエイダールを指し示す。
「あんた、騎士団の人間じゃないのか? というか、騎士でもない?」
外部からと聞いてアルムグレーンが問い質す。部外者には話せないことも多い。
「今は一時的に騎士団の所属ってことで……こんなの着せられてるが」
借り物の騎士服を示したエイダールは、あまりかっちり着込むのが好きではないので不満そうだ。
「普段はそこのアカデミーの研究所勤めで、魔術師もやってます。エイダール・ギルシェといいます」
そういや名乗ってなかったなと改めて名乗る。
「「エイダール・ギルシェ?」」
その名を聞いて、アルムグレーンもジペルスも、あれ? という顔になった。
「あんたもしかして、うちにいるユラン・グスタフの『先生』か!」
「え、まあ、ユランには、読み書き計算程度は教えましたが、先生と言われるほどでは。知り合いではありますね」
ユランのことを教え子のように言われて、エイダールはちょっと違うかなと返す。
「そうかそうか、あんたが噂の……へえ、成程。『とても凄い先生』というのは聞いてる」
「それはどうも?」
アルムグレーンの言い回しと口調がおかしい。どんな噂なのかを、ユランに後で確認せねばならないと心に留め置く。
「彼はとても魔法紋様に詳しくて、魔法陣の設計に関しては、控えめに言っても最高水準の研究者ですよ」
「俺が主に研究してるのは魔導回路の設計だけどな……イーレン、いくら褒めても、転移陣の解析から作成まで全部俺に丸投げした恨みは忘れないぞ」
紋様符を一枚一枚、特殊な紙に特殊なインクで認めたのもエイダールだ。その所為で昨夜はほとんど眠っていない。目の下に隈が出来る訳である。
「あー、紋様符と魔法陣と魔導回路はどう違うのか聞いてもいいか?」
俺は魔術師じゃなくて詳しくないんだ、とアルムグレーンが手を上げる。
「どれも『魔法紋様』という魔法を発動させるための文字のようなものを使って描かれる術式の一種です」
区分の定義は曖昧なのですが、とイーレンは前置きして。
「術式を紙などに描いて一回から数回の使い捨てなのが紋様符、術式を道具などに刻んで繰り返し使うものが魔導回路ですね。魔法陣はその中でも閉じられた円環の中で術式が完結しているものになります」
魔法陣は、他の形式よりも必要な書き込み要素が多いが、安定性は最も高い。
「……聞いてもよく分からないということが分かった」
「説明下手で申し訳ありません……」
アルムグレーンとイーレンは、お互いからそっと目を逸らした。
赤くなったり青くなったりするジペルスを、年上だろうになんだか可愛い人だなとイーレンは思う。エルディもそう思って、笑って流していたと予想できる。彼はそういう性格だ。ちなみにイーレンは二十七歳、ジペルスは三十一歳、エルディは二十四歳である。
「右も左も分からない田舎者、という設定からすると、うまく擬態出来ていたってことで彼はむしろ嬉しかったでしょう。……では魔力石を置きます」
イーレンが再現転移陣の上に置いたと同時に、魔力石が薄っすらと輝いた。
「お、ちゃんと魔力を吸ってるな」
横から再現転移陣を見ていたエイダールが頷く。
「では設置完了ということで。魔力石が光っている間は、転移陣の中に絶対入らないようにしてください。常に転移に必要な魔力が流し込まれているので、起動時に転移陣に乗っていると魔力のあるなしに関わらず転移させられてしまいます」
「ん? 人間も転移させられるなら、この転移陣に乗ってれば次の事件が起こった時に犯人の隠れ家に招待してもらえるってことか? 手厚い歓迎が待ってそうだな」
それはまあ随分と楽しそうだ、と口角を上げるアルムグレーン。
「ですね。歓迎してくれるならこっちも全力で応じないと」
エイダールも不敵に笑う。
「転移陣の中に入らないでくださいって言っているでしょう? 今回は向こうに気付かれないよう場所を特定したいので。行方不明者は何人もいますし、転移先から更に移動させられている可能性のほうが高い。その場だけ制圧できても、そこで手掛かりが途切れては困るんですが!?」
無駄に好戦的な二人にイーレンは声を荒げる。敵陣にたった一人で飛び込んでも、負けるという心配はしていないが。
「分かってるって、安心しろ」
「そうそう、最終的に突入するかもしれないけど、今回は自重するから」
まったく安心できない返事が返ってきて、イーレンは頭が痛くなった。
「こんな小さな紋様符で、位置情報の発信と、音声取得まで出来るんですか?」
位置情報の発信だけでも、この大きさに詰め込むのは難しい長さの術式だ。音声取得の方はそれ以上なのにと魔術師らしい質問をするジペルス。
「小さくないと転移時に向こうに違和感を感じさせるかもしれないので、最大限削ってもらいました。その為に今回、わざわざ外部から専門家の彼に来てもらいましたからね」
イーレンはエイダールを指し示す。
「あんた、騎士団の人間じゃないのか? というか、騎士でもない?」
外部からと聞いてアルムグレーンが問い質す。部外者には話せないことも多い。
「今は一時的に騎士団の所属ってことで……こんなの着せられてるが」
借り物の騎士服を示したエイダールは、あまりかっちり着込むのが好きではないので不満そうだ。
「普段はそこのアカデミーの研究所勤めで、魔術師もやってます。エイダール・ギルシェといいます」
そういや名乗ってなかったなと改めて名乗る。
「「エイダール・ギルシェ?」」
その名を聞いて、アルムグレーンもジペルスも、あれ? という顔になった。
「あんたもしかして、うちにいるユラン・グスタフの『先生』か!」
「え、まあ、ユランには、読み書き計算程度は教えましたが、先生と言われるほどでは。知り合いではありますね」
ユランのことを教え子のように言われて、エイダールはちょっと違うかなと返す。
「そうかそうか、あんたが噂の……へえ、成程。『とても凄い先生』というのは聞いてる」
「それはどうも?」
アルムグレーンの言い回しと口調がおかしい。どんな噂なのかを、ユランに後で確認せねばならないと心に留め置く。
「彼はとても魔法紋様に詳しくて、魔法陣の設計に関しては、控えめに言っても最高水準の研究者ですよ」
「俺が主に研究してるのは魔導回路の設計だけどな……イーレン、いくら褒めても、転移陣の解析から作成まで全部俺に丸投げした恨みは忘れないぞ」
紋様符を一枚一枚、特殊な紙に特殊なインクで認めたのもエイダールだ。その所為で昨夜はほとんど眠っていない。目の下に隈が出来る訳である。
「あー、紋様符と魔法陣と魔導回路はどう違うのか聞いてもいいか?」
俺は魔術師じゃなくて詳しくないんだ、とアルムグレーンが手を上げる。
「どれも『魔法紋様』という魔法を発動させるための文字のようなものを使って描かれる術式の一種です」
区分の定義は曖昧なのですが、とイーレンは前置きして。
「術式を紙などに描いて一回から数回の使い捨てなのが紋様符、術式を道具などに刻んで繰り返し使うものが魔導回路ですね。魔法陣はその中でも閉じられた円環の中で術式が完結しているものになります」
魔法陣は、他の形式よりも必要な書き込み要素が多いが、安定性は最も高い。
「……聞いてもよく分からないということが分かった」
「説明下手で申し訳ありません……」
アルムグレーンとイーレンは、お互いからそっと目を逸らした。
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