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7「荷物持ちだってデートだし」

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「どうしよう、本当にどうしよう」
 出勤してくるなり頭を抱えて蹲ったユランは。
「え、どうしたんだよ」
「カイ、僕は何をどうすればいいと思う?」
 何事かと近付いて来たカイを見上げて尋ねた。
「何って、あー、とりあえず仕事だろ?」
 職場に来て他に何をするんだと、困惑するカイ。
「そうそう、仕事しろ、こんなところで通行の邪魔になってないで」
 被せるように言ったヴェイセルが、ユランの首根っこを掴んで立たせる。
「後輩がこんなに困ってるのに先輩が冷たい……」
「ああ、はいはい、話は昼飯の時にでも聞いてやるから、ほんと仕事しろ」




「で? 何があったんだよ、『先生』と喧嘩でもしたのか?」
 昼を少し過ぎた詰所の食堂で、ヴェイセルはユランに話を振った。
「喧嘩じゃないと思うけど、喧嘩なのかな……」
 ユランは昨夜のエイダールとの会話を再現してみせる。
「成程、それで出入り禁止になったと。思いっきり自業自得じゃないか」
 聞き終えたヴェイセルが溜息をつく。
「そんなっ」
「情状酌量の余地が、あるよーな? ないよーな?」
 カイは目を瞬かせながらこてんこてんと左右に首を振る。
「一応『先生』への愛が原因なんだし?」
「そうだよね! 愛するあまりの暴走はある程度許されるべきだよね?」
 暴走しているという自覚はあるらしい。


「例えば俺がユランの家のベッドに潜り込んで、シーツに残ったユランの匂いを嗅いではぁはぁ言いながら、一人で致してるのを発見したとしたら……どうする?」
 そんな状況を思い浮かべたユランの顔から表情がすっと抜け落ちる。
「剣で……」
「剣で?」
 なんでここで剣が出てくるんだ、話がずれてないかと思いつつ、ヴェイセルが続きを促すと。
「剣でベッドに先輩を串刺しにして火をつけると思います」
「物騒だな!?」
 とんだ地獄絵図である。


「だって気持ち悪いですよ……!」
 両肩を抱くように、ぶるりと体を震わせるユラン。
「『先生』も気持ち悪かったんだろ。だから、追い出されたんだ」
 剣で串刺しにもせず、火もつけず、すぐに叩き出しもせず、もう夜も遅いからと昨夜は泊めてくれたエイダールは、本当にユランに甘い。
「そっか……え、でも、そういうことしてたって話は、してないのに?」
 さすがに言っていない。
「簡単に推測出来るだろ……そもそも恋愛関係じゃない相手に、そういう方面でやらかしたら高確率で犯罪だからな」
「うわあああ」


「そんなこと言っても先生は僕のこと」
 ぐすっぐす。
「全然そういう風に見てくれないし」
 ぐすっぐす。
 ちょっと涙目で、スンスンと鼻を鳴らしながら言い募るユラン。
「あああもう鬱陶しい!」
 文句を言いつつハンカチを顔に押しつけてくるヴェイセルはいい先輩である。
「あの先生にとってユランはあくまで幼馴染で、家族扱いの弟分だからな」
 恋愛対象ではないのだ。


「家族扱いの前に、そもそもユランの先生の恋愛対象に、男は入ってんの?」
 まずそこからじゃないのかとカイは思う訳だが。
「分かんない。今のところ女の影も男の影もないと思う。先生は知り合いは多いけど、だいたいが研究者仲間で特別な人はいないし」
 専門用語の飛び交う色気も何もない会話しか聞いたことがない。
「休日はどう過ごしてる? 誰かと出掛けたりさ、ほら、デートっぽいやつ」
 食べ歩きとか観劇とかお泊りとか。
「休日は食料品や日用品の買い出しが多いかな。荷物持ちとして僕が一緒に」
「お前とかよ! ……他人事ながら生活に彩りがなくて心配になるな」
「僕は先生となら荷物持ちだってデートだし、人生極彩色だよ」
「お、おう」
 真顔のユランに怯むカイ。
「いや、それデートじゃなくて買い出しだからな……?」
 ユランの謎の惚気に比較的慣れているヴェイセルが、冷静に突っ込んだ。
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