7 / 178
7「荷物持ちだってデートだし」
しおりを挟む
「どうしよう、本当にどうしよう」
出勤してくるなり頭を抱えて蹲ったユランは。
「え、どうしたんだよ」
「カイ、僕は何をどうすればいいと思う?」
何事かと近付いて来たカイを見上げて尋ねた。
「何って、あー、とりあえず仕事だろ?」
職場に来て他に何をするんだと、困惑するカイ。
「そうそう、仕事しろ、こんなところで通行の邪魔になってないで」
被せるように言ったヴェイセルが、ユランの首根っこを掴んで立たせる。
「後輩がこんなに困ってるのに先輩が冷たい……」
「ああ、はいはい、話は昼飯の時にでも聞いてやるから、ほんと仕事しろ」
「で? 何があったんだよ、『先生』と喧嘩でもしたのか?」
昼を少し過ぎた詰所の食堂で、ヴェイセルはユランに話を振った。
「喧嘩じゃないと思うけど、喧嘩なのかな……」
ユランは昨夜のエイダールとの会話を再現してみせる。
「成程、それで出入り禁止になったと。思いっきり自業自得じゃないか」
聞き終えたヴェイセルが溜息をつく。
「そんなっ」
「情状酌量の余地が、あるよーな? ないよーな?」
カイは目を瞬かせながらこてんこてんと左右に首を振る。
「一応『先生』への愛が原因なんだし?」
「そうだよね! 愛するあまりの暴走はある程度許されるべきだよね?」
暴走しているという自覚はあるらしい。
「例えば俺がユランの家のベッドに潜り込んで、シーツに残ったユランの匂いを嗅いではぁはぁ言いながら、一人で致してるのを発見したとしたら……どうする?」
そんな状況を思い浮かべたユランの顔から表情がすっと抜け落ちる。
「剣で……」
「剣で?」
なんでここで剣が出てくるんだ、話がずれてないかと思いつつ、ヴェイセルが続きを促すと。
「剣でベッドに先輩を串刺しにして火をつけると思います」
「物騒だな!?」
とんだ地獄絵図である。
「だって気持ち悪いですよ……!」
両肩を抱くように、ぶるりと体を震わせるユラン。
「『先生』も気持ち悪かったんだろ。だから、追い出されたんだ」
剣で串刺しにもせず、火もつけず、すぐに叩き出しもせず、もう夜も遅いからと昨夜は泊めてくれたエイダールは、本当にユランに甘い。
「そっか……え、でも、そういうことしてたって話は、してないのに?」
さすがに言っていない。
「簡単に推測出来るだろ……そもそも恋愛関係じゃない相手に、そういう方面でやらかしたら高確率で犯罪だからな」
「うわあああ」
「そんなこと言っても先生は僕のこと」
ぐすっぐす。
「全然そういう風に見てくれないし」
ぐすっぐす。
ちょっと涙目で、スンスンと鼻を鳴らしながら言い募るユラン。
「あああもう鬱陶しい!」
文句を言いつつハンカチを顔に押しつけてくるヴェイセルはいい先輩である。
「あの先生にとってユランはあくまで幼馴染で、家族扱いの弟分だからな」
恋愛対象ではないのだ。
「家族扱いの前に、そもそもユランの先生の恋愛対象に、男は入ってんの?」
まずそこからじゃないのかとカイは思う訳だが。
「分かんない。今のところ女の影も男の影もないと思う。先生は知り合いは多いけど、だいたいが研究者仲間で特別な人はいないし」
専門用語の飛び交う色気も何もない会話しか聞いたことがない。
「休日はどう過ごしてる? 誰かと出掛けたりさ、ほら、デートっぽいやつ」
食べ歩きとか観劇とかお泊りとか。
「休日は食料品や日用品の買い出しが多いかな。荷物持ちとして僕が一緒に」
「お前とかよ! ……他人事ながら生活に彩りがなくて心配になるな」
「僕は先生となら荷物持ちだってデートだし、人生極彩色だよ」
「お、おう」
真顔のユランに怯むカイ。
「いや、それデートじゃなくて買い出しだからな……?」
ユランの謎の惚気に比較的慣れているヴェイセルが、冷静に突っ込んだ。
出勤してくるなり頭を抱えて蹲ったユランは。
「え、どうしたんだよ」
「カイ、僕は何をどうすればいいと思う?」
何事かと近付いて来たカイを見上げて尋ねた。
「何って、あー、とりあえず仕事だろ?」
職場に来て他に何をするんだと、困惑するカイ。
「そうそう、仕事しろ、こんなところで通行の邪魔になってないで」
被せるように言ったヴェイセルが、ユランの首根っこを掴んで立たせる。
「後輩がこんなに困ってるのに先輩が冷たい……」
「ああ、はいはい、話は昼飯の時にでも聞いてやるから、ほんと仕事しろ」
「で? 何があったんだよ、『先生』と喧嘩でもしたのか?」
昼を少し過ぎた詰所の食堂で、ヴェイセルはユランに話を振った。
「喧嘩じゃないと思うけど、喧嘩なのかな……」
ユランは昨夜のエイダールとの会話を再現してみせる。
「成程、それで出入り禁止になったと。思いっきり自業自得じゃないか」
聞き終えたヴェイセルが溜息をつく。
「そんなっ」
「情状酌量の余地が、あるよーな? ないよーな?」
カイは目を瞬かせながらこてんこてんと左右に首を振る。
「一応『先生』への愛が原因なんだし?」
「そうだよね! 愛するあまりの暴走はある程度許されるべきだよね?」
暴走しているという自覚はあるらしい。
「例えば俺がユランの家のベッドに潜り込んで、シーツに残ったユランの匂いを嗅いではぁはぁ言いながら、一人で致してるのを発見したとしたら……どうする?」
そんな状況を思い浮かべたユランの顔から表情がすっと抜け落ちる。
「剣で……」
「剣で?」
なんでここで剣が出てくるんだ、話がずれてないかと思いつつ、ヴェイセルが続きを促すと。
「剣でベッドに先輩を串刺しにして火をつけると思います」
「物騒だな!?」
とんだ地獄絵図である。
「だって気持ち悪いですよ……!」
両肩を抱くように、ぶるりと体を震わせるユラン。
「『先生』も気持ち悪かったんだろ。だから、追い出されたんだ」
剣で串刺しにもせず、火もつけず、すぐに叩き出しもせず、もう夜も遅いからと昨夜は泊めてくれたエイダールは、本当にユランに甘い。
「そっか……え、でも、そういうことしてたって話は、してないのに?」
さすがに言っていない。
「簡単に推測出来るだろ……そもそも恋愛関係じゃない相手に、そういう方面でやらかしたら高確率で犯罪だからな」
「うわあああ」
「そんなこと言っても先生は僕のこと」
ぐすっぐす。
「全然そういう風に見てくれないし」
ぐすっぐす。
ちょっと涙目で、スンスンと鼻を鳴らしながら言い募るユラン。
「あああもう鬱陶しい!」
文句を言いつつハンカチを顔に押しつけてくるヴェイセルはいい先輩である。
「あの先生にとってユランはあくまで幼馴染で、家族扱いの弟分だからな」
恋愛対象ではないのだ。
「家族扱いの前に、そもそもユランの先生の恋愛対象に、男は入ってんの?」
まずそこからじゃないのかとカイは思う訳だが。
「分かんない。今のところ女の影も男の影もないと思う。先生は知り合いは多いけど、だいたいが研究者仲間で特別な人はいないし」
専門用語の飛び交う色気も何もない会話しか聞いたことがない。
「休日はどう過ごしてる? 誰かと出掛けたりさ、ほら、デートっぽいやつ」
食べ歩きとか観劇とかお泊りとか。
「休日は食料品や日用品の買い出しが多いかな。荷物持ちとして僕が一緒に」
「お前とかよ! ……他人事ながら生活に彩りがなくて心配になるな」
「僕は先生となら荷物持ちだってデートだし、人生極彩色だよ」
「お、おう」
真顔のユランに怯むカイ。
「いや、それデートじゃなくて買い出しだからな……?」
ユランの謎の惚気に比較的慣れているヴェイセルが、冷静に突っ込んだ。
2
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる