デビルな社長と密着24時

七福 さゆり

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1巻

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   プロローグ 二十四時間じゃ足りない!


 私、奥本一花おくもといちかの一日は、二十四時間じゃとても足りない。
 仕事とか、趣味とか、趣味とか、趣味とか~……!
 とにかく毎日、多忙を極めているのだ。


 あと十分……この十分が長いんだよね~……
 仕事をこなしながらも腕時計を何度も眺めてしまう。顔は平静をよそおいつつ、心の中はソワソワしていた。
 残り一分……定時の十九時がきたーっ!

「奥本さん、上がっていいよ」

 遅番で私より一時間遅く出社した先輩に声をかけてもらい、「お先に失礼します」と持ち場を離れる。それから素早くタイムカードを押し、制服から私服へ急いで着替えた。
 定時を迎えたら一分一秒でも早く退社! それが私のモットーだ。
 十九時八分に職場であるデパートを出て、書店へ急ぐ。
 はぁああ~……今日も疲れた! でも、仕事はお金を得るための手段だ。明日も明後日あさっても頑張って働かなくちゃ……趣味を満喫まんきつするためには、軍資金が必要である。
 書店に到着した私は、新刊コーナーへ一目散いちもくさんに向かい、買い集めている漫画の最新刊を手に取る。
 ふふふ……ずっと楽しみにしてたんだ。
 書店では新刊の他にもう一冊、表紙が気になった別の本も購入した。電車の中で見てしまいたいのをなんとか我慢し、ようやく自宅へ到着。
 じっくり読みたいから、楽しみは後に取っておくのだ。
 帰宅してからも今すぐ読みたい気持ちをこらえて、夕食やお風呂を済ませた。
 部屋に戻ってきたのは、二十二時……ここからが私のもっとも大切としている趣味の時間だ。
 楽しみにしていた新刊と表紙が気になって買った漫画と、どちらを先に読むか……重要な問題だ。
 悩んだ末に、表紙が気になった本から読むことにした。この本が自分好みじゃなかった場合のダメージを、楽しみにしていた漫画で相殺そうさいする作戦だ。
 漫画を保護しているビニールテープをがして、いざ、漫画の世界へ!

「はぁ……もう、最高だもん。早く続きが読みたい……」

 結果から言うと、両方楽しめた。気が付いたらすでに二十三時三十分、あと数時間で深夜アニメタイムだ。今日は一時三十分からお目当てのアニメが放送される。

「眠い……」

 でも、寝ない。
 地道に貯金して買った四十インチのテレビには録画機能も付いているけれど、できるだけリアルタイムで、SNSで実況しながら見たいからだ。
 まあ、後で見返す用に、録画もするけどね。

「作業もしたいけど、ゲームもしたいし……」

 作業とは、コスプレ衣装作りのことだ。
 私の趣味は、漫画、アニメ、ゲームを楽しむことで、その中でもコスプレ衣装作りに特に力を入れている。ちなみに今作っている衣装は、今日放送されるアニメの主人公のものだ。
 作った衣装を着てイベントに参加することもあれば、友達のために作ってあげて自分は着ないこともあったり、ただ作って満足することもあるけれど、どのパターンにしてもトルソーに着せて写真を撮り、必ずブログにアップしている。
 記念としても残るし、誰かに見てもらいたいし、反応がもらえたら嬉しいしね。
 でも、自分の顔がわかるものは一切載せないようにしている。以前オタクじゃない友達に趣味がバレてひどい目にあってからは徹底しているのだ。
 働かなくてよければ、作業もゲームもガッツリできるのにな~……
 でも、仕事があるからこそ、こうして漫画やコスプレ衣装用の材料だって買えるわけで……
 そんなことを考えながら、スマホをいじりSNSに独り言を投稿する。

「『アニメ放送まで待機中! 衣装も作りたいけど、オンラインゲームもしたいし、どうしよう~……』っと……」

 すると、インターネット上の友人から次々と反応が返ってくる。

『ハナハナさん、お疲れ~! コスプレイベントまでまだ時間あるし、欲望のままにゲームするに一票!』
『ゲームの期間限定イベントもそろそろ終了するし、ゲームしちゃえ!』

 あ~……心がゲームに傾いていく!
 あ、ちなみに『ハナハナ』というのは、私のハンドルネーム。本名の『一花』の『花』から取っている。専門学校時代から八年間も使っているので、本名と同じくらい愛着のある名前だ。
 ゲームをすすめるメッセージが続く中――

『ゲームは三十分だけにして、あとは作業をしたらどうですか? イベントまでまだ時間があるとはいえ、それまでに体調を崩したりなんてことがあれば、予定が狂うかもしれないし。余裕は大切ですよね! 衣装を完成させて、もし時間が余ったら、さらにクオリティも上げられるし……いかがでしょうか?』

 という反応が返ってきた。
 それを見て、確かに! と納得する。
 時間は少ないけどゲームをやったっていう満足感も得られるし、なにが起きるかわからないのだから、作業は早いに越したことはない。
 現に私は去年、イベント前に風邪をこじらせて熱を出してしまい、衣装を間に合わせることができなかった。
 ――こんな風に、いつも親身な返事をくれるのは、歌穂かほさんだ。
 一年ぐらい前に私がブログに載せているコスプレ衣装の画像を見て、感想を送ってきてくれたのがキッカケで親しくなった。
 今ではスマホで直接やり取りをしたり、ゲームでオンライン対戦をして遊んでいる仲だ。
 歌穂さんは私と同じ二十六歳で、都内で事務員をしているらしい。彼女もコスプレ衣装を作って着るのが趣味で、ブログやSNSに衣装を公開している。着用した画像は載せていないけど、私にだけはこっそりメールで送ってきてくれている。
 スラリとした美女で、そのスタイルの良さといい、顔立ちといい、芸能人に引けを取らないレベルだ。そして作り出す作品もすごい。細部にわたってものすごいこだわりが出ていて、叶うなら手に取ってじっくり眺めてみたいと思う。

『そうですよね! なにがあるかわからないし、歌穂さんの言う通り、イベントの衣装優先にします! ってことで、まずは三十分ゲームしてきます!』

 返信したところで、ゲーム機の電源ボタンを押し、立ち上げている最中にスマホで三十分のタイマーをセットしておく。
 ゲームソフトを起動させると、現在オンラインでプレイしているフレンドが三人いた。
 フレンド登録をしておくと、こういったこともわかる仕様だ。そのうちの一人が歌穂さんであることを確認した私は、彼女にスマホで個人的にメッセージを送る。

『さっきは反応ありがとうございました~! よかったら三十分だけ対戦いかがですか?』

 送信して間もなく既読マークが付いて、返信が来た。

『今オンラインになったの見て、声かけようと思ってたところでした。やりましょう!』
「やった!」

 嬉しくて思わず声に出てしまう。
 三十分なんてあっという間で、その後はアニメ放送の開始時間まで衣装制作に取り掛かる。

「うん、やっぱりいい出来……!」

 自画自賛しているのは、胸元に付けるコサージュだ。何度も練習し、試作を重ねたことで、かなりいい出来だ。
 自分で言うなと突っ込まれそうだけど、店で売っているものと変わりないくらい素晴らしい出来!
 ――おっと、熱中していたらアニメ放送時間まであと五分だ。
 大分集中してたなぁ……こういう系の仕事にけたら、きっとすごい頑張れちゃいそう。
 ……なんて、ね。自分の好きなことを仕事にしたい! だなんて夢を叶えられる人は、ほんの一握りだってわかっている。そんな才能はないと自覚しているから、目指すつもりはない。仕事はあくまで仕事だ。生活と、好きなことをするために必要なお金を稼ぐためにするもの! ちゃんとわかってる。
 アニメを見ながらSNSで実況を楽しみ、終わった後に感想を投稿していると、三時を過ぎてしまった。
 明日は早番だから、六時三十分には起きないといけない。
 コスプレ衣装の胸元に付けるコサージュはあと三個必要だ。
 まだ作り続けたいところだけど、さすがにもう寝ないと明日に響くよね。
 大きなあくびをしながら机の上を軽く片付けて、ベッドに入った。
 これが私の一日の流れ。趣味を楽しむには二十四時間じゃとても足りない。
 あーあ、宝くじでも当たらないかなー……そうすれば仕事を辞めて、オタク活動に専念できるのに。次に宝くじが発売されるのって、いつだったっけ?
 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠っていたのだった。


   一着目 最悪のオタバレ

「レジお願いします。クレジットカード、一括払いです」
「かしこまりました」

 私はショップの販売員からクレジットカードとデパートのポイントカードを受け取り、精算を済ませて返す。
 イベントまで約二週間と迫り、昨晩も遅くまで衣装作りをしたため今朝はかなり眠かった。でも、なんとか寝坊せずに起きられて、本当に良かった……!
 デパート内のショップには、レジが併設されていないことも多い。
 そういった場合には裏にデパート側がやとっているレジ係がいて、そこで決済しているのだ。
 流れとしては、こうだ。まずは各ショップで販売員が接客し、そしてお客様が購入することになると、お金、クレジットカード、商品券のいずれかとポイントカードをお預かりする。そして同じフロア内にあるレジコーナーに持ってきて、レジ係に頼んで支払い処理をし、お客様のところへ戻り、商品を渡すのである。
 私は、そのレジ係だ。ひたすら支払い処理をするのが仕事で、専門学校を卒業した二十歳の時から始めたので、もう六年目。
 初めはすごく緊張したし、失敗もした。でも、慣れてしまえば単純作業だ。レジに新しい機能が追加されればやっぱり戸惑うし、緊張するけれど、繰り返していればちゃんと慣れてくる。

「レジお願いします。現金払いです」
「かしこまりました」

 支払い処理を済ませて、おつり、レシート、ポイントカードの載った皿を販売員に返すと、彼女は受け取り損ねて、そのまま床に落としてしまう。

「きゃっ! ごめんなさい! 私、ぼんやりしてしまって……」

 拾おうとしゃがむ彼女に続いて、私もしゃがんで拾う。
 彼女はおつりの小銭をつかもうとするけれど、綺麗きれいなネイルアートをほどこした爪が長くて、上手くつかめないみたいだったので、代わりに拾った。

「おつりの五百円とレシートとポイントカード、全部あると思いますので」
「ありがとうございます。ごめんなさい。今日はお客様がすごく多くて、休憩も取れないぐらい接客し通しだったから、ぼんやりしてしまって……」
「いえいえ、お疲れ様です。今日は催事さいじ……とかではないですよね?」

 私がレジを担当しているのはファッションフロア。二十代から三十代向けの女性を対象としたショップが並んでおり、見た目が華やかな人が非常に多い。

「実はアニメとのコラボ商品が入荷されたので、朝からそれを買いにくるお客様が多くて……! しかも絶対うちの服なんて着なさそうなオタクっぽい服装の人も来てるんですよ。あんた、それ買ってどうすんの? 絶対着こなせないでしょ! って言いたくなっちゃいます。もう……なんでアニメなんかとコラボするんだろ。意味わかんない」

 う……

「そ、そうなんですね……」

 同じオタクとして、耳が痛い。
 昔よりは緩和されたとはいえ、オタクへの風当たりは厳しい。私も昔オタバレをしてひどい目にあってからというもの、徹底してオタクであることを隠している。
 ――あれは、高校生の時のことだ。
 私は元々田舎に住んでいたのだけど、父の転勤に伴い都内の高校へ進学することとなった。中学の時はオタクであることを隠さずに楽しく生きていたものの、高校ではオタクはキモイ! という空気があったので、徹底して隠して過ごしていた。
 そうして高校生活を楽しんでいるうちに友達に彼氏ができ始めて、周りに流された私は、彼氏とか作ったほうがいいのかな? とぼんやり思い始めたのである。その矢先、クラスメイトの佐川さがわ君から告白されたので、付き合うことにしたのだった。
 でも私は、オタクであることを隠していただけで、家では今のようにオタク活動にいそしんでいたわけで……
 彼氏とデートしたり、メールのやり取りをする時間がもったいなくて、わずか一か月で別れた。彼には本当に申し訳ないことをしたと思う。
 彼にひどいことをしたばちが当たったように、それから数か月後、最悪の形で友達にオタバレした。
 今考えると、とても迂闊うかつだったと思う。
 当時の私も今のようにブログをやっていて、そこではアニメ、漫画、ゲームのことについて語ったり、コスプレした画像も載せていた。しかも顔が思いっきりわかる状態で……思い出すだけで悶絶もんぜつしそう。完全なる黒歴史だ。
 それが偶然にも友達にバレて、またたく間に広がった。昨日まで友達だった人から避けられ、陰口を叩かれ、仲間外れにされて暗黒の高校時代を送ることに。だから卒業後は非オタクの人にオタクがバレないように徹底して生きていくようになった。私がネット上で顔を出さなくなったのは、これが理由だ。
 高校を卒業して、服飾系の専門学校に進学してからは楽しかった。
 中学校時代のオタク友達がこちらに進学してきたのと、学校で新たにオタクの友達ができたので、みんなでコスプレのイベント活動もしたし、一人暮らしの友達の家に集まって、何度も朝までオタクトークで盛り上がった。
 ちなみに服飾系の専門学校に進学したのは、コスプレ衣装を作るのが好きだったから。その腕をもっとみがきたかったのと、将来はファッション系の仕事にけたらいいなぁとぼんやり思ったためだった。
 ……まあ、どうしてそれがデパートのレジ係になったかと言えば、これについてもまた苦い思い出がある。
 専門学校時代、将来のことを真剣に考えた時、まず興味を持ったのは、アパレルショップの販売員だった。
 経験を積んで実力を伸ばすことができれば、年齢的に販売員をできなくなってもステップアップして、スーパーバイザー、マーチャンダイザー、バイヤーといった本社勤務に移り、末永くファッション業界にいられると考えたからだ。
 そして一年生の冬、オタク活動の資金を得る目的もあり、アパレルショップの販売員のバイトを探すことにした。
 するとたまたま、オシャレだなぁ~……着てみたいなぁと思っていたショップが販売員のバイトを募集していたので、ここで働いてみたい! と張り切って応募した。
 早速面接がおこなわれることになったのだけど、その場で店長にかけられた言葉は――

『え、どうしてうちのバイトに応募しようと思ったの?』
『ずっと素敵だと思っていて、私も働いてみたいと……』
『いやいや、そうじゃなくて、どうしてうちで働けると思ったのかってこと。うちのブランドはね、特別なの。バイトとはいえ、選び抜いた子をやとってるの。あなたみたいな人間が、よく応募する気になったよね~……ビックリ~!』
『え……』

 店舗には面接するスペースがないからと、近くのカフェでおこなわれていた。
 あまりにも辛辣しんらつな言葉に、私の身体は目の前にあるアイスコーヒーの中に浮かんでいる氷よりも冷たくなった気がした。
 ――もしかして私って、普通の恰好かっこうをして、普通に喋っているつもりだけど、イケてないオーラがにじみ出てる……とか!? 
 こ、怖い……! 真実が気になるけど、怖くて知りたくない!
 そのことがトラウマになってしまった私は、販売員を目指すのをやめた。
 メンタルが弱すぎるでしょ! そのショップの店長が特別感じが悪かっただけで、他のショップなら絶対大丈夫だよ! と友人はなぐさめてくれた。でも、どうしても行動する気になれず、結局はデパートのレジ係になった。
 淡々と支払い処理をし続ける仕事に情熱を燃やすのは難しいけれど、ファッションフロア担当ということで、支払い処理をしにくるショップ店員のコーディネートや、店頭に並んでいる流行の最先端の服を見ることができるのは、唯一ゆいいつ楽しいと思えるところだ。


「奥本さん、休憩、お先にどうぞ」

 ぼんやりと昔のことを思い出しているうちに、ショップ店員さんは帰ったようだ。はっとして顔を上げ、交代に来てくれた同僚に返事をする。

「ありがとうございます。じゃあ、お先に頂きます」

 休憩時間は交代制で、特に順番は決まっていない。その時に手がいている人から……というのがいつもの流れだ。
 一度ロッカールームへ行き、お弁当とスマホを持って、従業員専用の休憩室へ向かう。お弁当と言っても、立派なものではない。一つは焼きたらこのおにぎり、もう一つはおかかのおにぎりで、おかずは作る気力がないのでナシ!
 これが、朝作れる私の精一杯だ。
 夜中までオタク活動をしているので、おかずを作る時間があれば眠っていたい。ちなみに焼きたらこと言っても、手抜きしてレンジでチンするだけなので、正確に言うと焼いてない。
 できればお昼は外食したいけど、少しでも節約してオタク活動にお金をかけたいのでこれで我慢だ。
 それにしても、たまにはお店でランチしたいな~……でも、一人でランチってなると、勿体もったいないような気がするんだよね。
 おにぎりを食べながらスマホを眺めていると、中学時代からの友達で、オタク仲間の瑞樹みずきからメッセージが来ていた。

『お疲れ~! 明日、休みなんだ! 一花は出勤? 買いたい物もあるし、デパートに行くから、よかったらランチしようよ』

 ちょうど明日は出勤だ。

『ランチしよう! 何時に休憩入れるかわかんないけど、十一時から十三時の間になると思う! 大丈夫?』

 と送信すると、すぐに返事がきた。

『わかったー! 終わったら連絡して。それまで時間潰してるから』

 やった!
 おにぎりそっちのけで友達とやり取りしているうちに、あっという間に休憩時間が終わった。おかげでおにぎり一つしか食べられず、就業時間中にずかしいお腹の音を鳴らすことになってしまった。


   ◆◇◆


 翌日のお昼、十二時に無事休憩に入れた私は、瑞樹とデパート内にあるカフェでランチをしていた。
 私はハンバーグプレートとアイスティー、瑞樹はオムライスプレートとアイスコーヒーを頼み、食べながら会話に花を咲かせる。

「こうして会うのは久しぶりだけど、いつも連絡取ってるから、あんまり新鮮味ないよね」

 私が笑うと、瑞樹もつられて笑う。

「本当にね~! ね、衣装の進捗しんちょくはどう?」

 瑞樹の質問に、私は顔を引きらせる。すると、まだなにも言っていないのに、瑞樹は私の表情から状況を読み取ったらしい。

「あー……ちょっとマズイ感じ?」
「うん……遅れ気味。出だしは順調だったんだけど、作ってるうちにだんだん欲がでてきちゃって、当初は予定してなかったえりと裾にビーズを縫い付けたいな~と思って始めたら、全然終わらなくて!」

 昨日も深夜四時まで延々とビーズを付けていた。ずっと細かい作業をしていたせいか、今日は目がすごくショボショボする。

「うわー……それキツイ! イベントまで二週間しかないし、ビーズはあきらめたら?」
「いーや! 付けたらすっごい可愛いんだよね! だから絶対付けたいっ!」
「でも、大丈夫なの? 間に合う?」
「うん、間に合わせる! 昨日も朝方まで頑張ったしね! この調子でいけば、なんとか……!」
「あー……それで疲れた顔してるんだ。出来栄えが良くても、着る本人がひどい顔だったら衣装が可哀想だよ。当日までに顔のコンディションも整えたほうがいいよ」
「そうなんだけど、顔のコンディション整えるには睡眠でしょ? たっぷり寝たら作業が終わんないよ。それなら衣装を完璧にすることを目指す!」
「あはは、一花らしいわ。この前、途中経過で見せてもらったコサージュもすごいよかったよ!」
「でしょ? 自画自賛しちゃうけど、練習した甲斐もあってすごく良くなったんだ~! あっ! ねぇ、アレにもビーズ付けたら可愛くない?」
「えぇ!?」
「こういうビーズなんだけど……」

 スマホで撮っておいたビーズの写真を瑞樹にすかさず見せる。自分でその画像を見ながら、コサージュに付けたら絶対に可愛いという確信が生まれた。

「いや、可愛いけど、今でも精一杯なのに、追加でなんて無理でしょ!」
「でも、可愛くなるってわかってるのに妥協したくないよ~! 決めた! コサージュにもビーズを付ける! 今日から二時間睡眠で頑張るわ!」
「一花はコスプレに対してのこだわりが半端ないから、止めても聞かないだろうし応援するわ。まあ、頑張ってよ! 当日楽しみにしてるからさ!」
「うん! 期待してて! すっごいの作るよ~!」

 盛り上がっていると、隣の席にグレーのスーツを着た男性客が一人座った。
 何気なく顔を見ると、あまりにも整った顔立ちだから驚いてしまう。
 短く切り揃えられたダークブラウンの髪に、キリッとした凛々りりしい眉と切れ長の目で、とても芯が強そうな印象だ。
 外国人みたいに高い鼻はシュッと通っていて、薄い唇は綺麗きれいな形をしている。
 ただメニューを眺めているだけなのに、すごく絵になる。
 うわぁー……カッコいい! というか、タイガーアイ様にすっごい似てない!?
 タイガーアイ様とは、私が今ハマっているPCブラウザゲーム『ストーン・コレクション』に出てくるキャラクターだ。
 ちなみに『ストーン・コレクション』がどんなゲームかというと、石を男女のキャラクターに擬人化させた『ストーンヒューマン』と呼ばれるキャラたちを集め、敵と戦わせて強化していく育成型シミュレーションゲームだ。アニメ化もされ、現在絶賛放送中!


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