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勇者+アイドル=最強!?
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どうやら異世界にもアイドルという存在があったらしい
そんな吉報を入れてきたのは意外な奴だった
「おうロージ!今日もキビキビ聖女に尽くしてるか!」
狂犬こと勇者デルドレ
本名デルドレ・ドスドレス
初めてこいつと戦った夜から早1ヶ月経ったがちょくちょくこうして様子を見に来るようになった
「そんなに尽くしてねーよ…帰れ」
本当なら門前払いしてやりたいが生憎家には門が無い
こいつの為だけに門を新しく建てて門番を雇いたいところだ
というか何でこいつが毎回何食わぬ顔で家に来れるのかわからない
俺に親愛度というパラメーターが有ったとしたらこいつに対する親愛度は0どころかマイナスだ
とはいえ初日の夜以降は親戚のおっちゃん風の態度を貫いてるのでそこはかとなくはもてなしてやる
「あらデルドレ様、ご機嫌麗しゅう」
デイジーがペコリと頭を下げ、自分の隣の席へ誘導する
何をトチ狂ってんのか知らんがデイジーはデルドレに大いなる敬意を払っていて、例外無く丁重に扱っている
そりゃ元は聖女のパートナーで魔王も二人倒してるかもしれないけど…こんな狂犬に畏《かしこ》まらなくてもいいだろうに
「おうデイジー!大丈夫か?ロージに泣かされてねーか?」
「大丈夫ですわ、とてもよくしてもらっています」
「そうか、でも泣かされたら俺に言えよ?血祭りに上げてやるからよ」
それも毎回訊いてくるけどもし泣かせたら自己報告してやるから挨拶代わりにいちいち訊いてくんなや…
デイジーに対する態度が完全に孫が可愛いお爺ちゃんなんだよなぁ…
「返り討ちにしてやるわ…茶ぁ啜ったらとっとと帰れ」
「テメー…帰れを語尾みたいに使うなよ」
「速やかに帰宅しろ」
「言葉を変えりゃ良いってもんじゃねーぞ!喧嘩売ってんのか!!」
ウチも万屋、こいつに関しては喧嘩も売り物になるかもしれないと本気で思っているとデイジーが間に割って入る
「まぁまぁまぁ二人とも落ち着いて…そうだロージさん、今日のおやつは冷たい物にしませんこと?」
頭を冷やせってか?
まぁ面白くはねえが今は笑っといてやろう
俺は鼻息を荒くしつつ冷蔵庫から冷やしたババロアを取り出して食器と共にテーブルに置いた
そのタイミングでカロム兄妹が仕事から帰って来たので皿を追加する
「こんちはー、兄ちゃんお客さんか?」
「ちょっとお兄ちゃん…その態度は失礼よ」
「いいぞ別にその態度で、こいつは客じゃない…むしろ敵だ」
「敵じゃねーよ」
何だかんだと5人でババロアを食っているとデイジーと談笑していたデルドレが俺の前に封筒を差し出した
「なんだ、賠償金か?」
「俺がお前に何の損害を出したってんだよ」
「それ本気で言ってんなら医者に診てもらった方がいいぞ、主に頭ん中を」
デルドレが俺の挑発に乗ってテーブルに身を乗り出すとデイジーが1つ大きな咳払いをした
「えー僭越《せんえつ》ながら追想の書、第6巻2冊目のある一文を読み上げさせてもらいますわ」
いつぞや出てきた歴代聖女の日記
その内容は以下の通り
『○月×日・曇り。今日は30人の悪魔に囲まれ私達の旅もここまでかと思いましたがデルドレが颯爽と悪魔達を蹴散らし「諦めるな!お前にはこのユニコーンナイトがついてんだ!」と鼓舞してくれました……あぁ、私のデルドレは今日も格好いい』
デイジーが読み終えるとデルドレは脂汗をかきながら床に膝をついた
「くっ…殺せ!!」
凄まじいぜデイジー…あの狂犬にここまで言わせるとは…
「たかだか30匹程度の悪魔で一瞬でもシエスタを不安にさせた昔の俺が不甲斐ない…」
動揺ポイントそこかよ…
もっと一杯あるだろ!?
なんか恥ずかしいこと言ってるし、お前の元カノも然り気無く惚気てんぞ!?
「まだまだありますわよ?」
「今の聖女は末恐ろしいな…謝るからもう勘弁してくれ」
「んで、結局これは何なんだ?」
デルドレは椅子に座り直すと術式ウィンドウを展開してある映像を見せてきた
映像にはきらびやかな衣装に身を包みマイクを持って歌う可愛い女の子が映っている
「こいつぁ今人気絶頂のアイドルだ」
「へー、こっちにもそんなのあるんだな」
「アイドル勇者コトラ。昔少しだけ世話してた時期があってな、人気者になった今でも毎回ライブのチケットを送ってきやがる」
封筒の中身はそのチケットが7枚
ライブの日付は今夜だった
正直俺はあんまり興味無い
「凄い!!コトラちゃんのライブチケットがこんなに!?」
クーデリアが興奮気味に反応する
「そんなに凄いのか、クー?」
カロムは俺寄りな反応でクーデリアに尋ねた
「凄いに決まってるじゃないお兄ちゃん!コトラちゃんのライブチケットって言ったら半年前から売り切れてて全然手に入らないのよ!?」
転売したら儲かりそうだな
なんて考える俺は邪《よこしま》だろうか
「政《まつりごと》は好きじゃないんだが今回は調度この街の開催だから俺も行こうと思ってる、お前も参考までに強い勇者を見といた方がいいぞ?」
「強いって…こんな嬢ちゃんがそんなに強いのか?」
「あいつの固有スキルは特殊だからな、今となっちゃ俺より死なないしお前より一撃が重い」
それって最強じゃね…?
魔王を二人倒したデルドレをこうも絶賛させるアイドルってのはなかなか侮れないな…
「ちょっと興味沸いてきた」
「そうか、なら夜の7時に稔と望を連れてまた来る、どうせ初めてだからお前らも勝手がわからねーだろ?」
「お前に気を遣ってもらうのは鳥肌もんだが助かるわ」
「…お前は一言多いんだよ」
最後まで若干の険悪さが残ったもののデルドレはババロアを食べ終えると一旦宿に戻っていった
さて、チケットは7枚
全員は連れてけないが…どうしたもんか
俺が腕を組みながら考えているとクーデリアがまだ半分以上残っているババロアの皿を俺に寄せながら目を輝かせていた
「お願い!これあげるから私も連れてって!!」
あげるって…元々俺が作ったんだから取引として成立しないだろ、それ
普段しっかりしてるクーデリアをここまでお馬鹿さんにしてしまうとは…アイドル恐るべし
「必死だな…わかった、わかった、連れてくしババロアも食っていいぞ」
「ほんと!?やったー!!」
今までで一番子供らしい笑顔で跳び跳ねるクーデリア
この笑顔を引き出したのが俺ではなくあの狂犬だという事実は悔しいが一応心の中で感謝してやらんでもない
「クーが行くなら俺も行こうかな」
行くメンバーは俺とデイジー
カロムとクーデリア
リーサとトロントに決まった
折角だから花も誘いたかったんだが今日はクエストで帰ってこないから代わりにライチを連れてくことにした
そして19時
約束通り二人を連れて戻ってきたデルドレが夜空を指差す
「コトラのライブ会場は空に現れる、それが見えたら持ってるチケットの半券を切れ線部分から千切れ」
19時を過ぎて数分
デルドレの言った通り大きなハイビスカスのような建物が夜空に浮かび上がった
「先ずは俺がやって見せるからお前らは真似して後に続け」
デルドレがチケットを千切ると花弁を模した術式が現れデルドレを包み込む
術式はどんどん収縮し、最後には白い小さな花弁を無数に残してデルドレと共に消えた
まさに幻想的で夢の中に入り込むような演出
…アイドルのライブってのは入場するだけでも洒落が利いてんな
残る俺達もデルドレと同じようにチケットを千切って会場にワープした
ワープした先は広いエントランス
しかし人気アイドルのライブだというのに客の姿は無かった
居るのは先に行ったデルドレと胸に名札がついた女性スタッフが二人だけ
「dreamerS《ドリーマーズ》ライブinバカンへようこそ」
スタッフの一人が俺達に挨拶する
「私達は魔術人形のサテラとテトラ、VIP様専属の案内人です」
赤い服を着た方にサテラ、青い服を着に方がテトラと名札がついている
よく見れば服と髪以外は瓜二つだ
というかVIPって…狂犬の待遇えげつないな
聞けばこのエントランスもVIP専用の入り口らしく、他に客が居ないのもそのせいだった
「ではさっそくVIP席の説明をさせていただきます」
VIP席は20人ほど入れる個室
その個室が浮いてステージの周りを自由に移動出来るらしい
注意事項としてはあまりステージに近付き過ぎないことと他に3つ有るVIP席と前後被らないようにすることだけだった
「なお、VIP席に取り付けられたボックスの中にはdreamerSのグッズや飲み物が入っているのでご自由にお持ち帰りくださって構いません」
流石はVIP、至れり尽くせりだ
テトラの方が指を鳴らすとエントランスの天井が開いて床以外ガラス張りになっている直六面体がふわふわとゆっくり降りてきた
「操縦は簡単ですが多少の魔力を消費しますので一番魔力量の多い…白髪《はくはつ》の男性にお願いしてもよろしいでしょうか?」
間に一呼吸置いて指名される
人形だから魔力を量る機能でもついてるのか…仕組みはよくわからんがとりあえず了承した
「ではこちらを」
俺は黒いカチューシャのような物を渡された
「これを頭に付ければ思考の通りに操縦出来ます」
単純に便利だなぁと思いながら頭にカチューシャをつけるとガラス張りの箱に出入口が現れた
「端に付いてる赤いボタンを押せば会場に瞬間移動します、もう一度押せばここに戻ってくるのでライブ終了後に押してください」
百聞は一見にしかず
俺は二人に礼を言うとさっそくボタンを押してみた
少量の魔力消費を感じたがそれも雀の涙
ワープ先は何も見えないくらい真っ暗だったが下の方に点々と色とりどりの光が灯っている
その光景はよくアイスなんかにトッピングするチョコスプレーみたいだった
「ねぇねぇロージ!私もあれやりたい!ボックス開けていい?」
年相応のミーハーな中学生みたいになってるクーデリアに許可を出すと全員にペンライトを配り始めた
「クーちゃん、これはどうやって使うの?」
「私も知りたいです!」
得意気なクーデリアにペンライトの使い方を聞くリーサとライチ
どうやら1つだけ付いてるボタンを押す回数によって光る色のパターンが変わるらしい
「か、かっこいいです!これが最先端技術!まさに温故知新です!!」
ライチが赤色に灯したペンライトを八の字に振り回し
それを見てカロムが鼻で笑う
「ふっ、幼稚な奴め」
「何をっ!?そういうカロムはもっと有効的な使い方が出来るんですか!?」
「見てな」
カロムはペンライトを指に挟み両手に四本ずつ持つとユラユラと回り始めた
「メリーさんの真似」
大爆笑するライチを横目に俺はあの踊り子娘に心の中で謝っておいた
というかカロム…お前もライチとどっこいどっこいだぞ
「ガキんちょ共、そろそろ始まるから静かにしとけ」
デルドレに睨み付けられた二人はペンライトを消して大人しくなる
そしていよいよライブが始まった
ステージ上に6つのスポットライトが差す
照らし出されのは映像の子を含めた6人の女の子
ボックスに入っていたパンフレットによるとリーダーのコトラを筆頭に紫の長い癖っ毛が特徴のリームン、メイン職業は魔法使い
オレンジ色のショートヘアーから猫耳を覗かせる獣人系のチャミ、メイン職業はファイター
ベージュ色のセミロングに垂れ耳をぶら下げた小柄の子が獣人系のメルト、メイン職業は僧侶
青いストレートのロングヘアーが眩しいお姉さんがエルフのルーニャ、メイン職業は精霊使い
そして黄色のポニーテールが新人のレイラ、メイン職業は…勇者
特に驚きもしないが最後に紹介した娘《こ》は笹塚《ささづか》 麗蘿《れいら》という名の俺のクラスメイトだった
元々軽音部でギターボーカルを務めていたクールビューティーが今や10万人の前で歌って踊るアイドルになってるとは…
経緯《いきさつ》はどうあれとりあえず後でおちょくりに行きたい
俺はクールビューティーの照れ笑いが見たい(迫真)
「あれ笹塚じゃねーか?」
稔が気付いて大きく手を振る
「加賀くん、もっと近付いて気付いてもらおうよー」
のんびりした牧田も若干興奮気味だった
「もう歌い出すみたいだから邪魔しないでやろうぜ?笹塚も知り合いが近くにいたらやりづらいだろ」
と言いつつ笹塚は既にこっちに気付いているみたいで少し目を伏せて顔を赤くしていた
こうも早く目当てのものが見れるとは…大満足である
「それもそうだねー、私達は静かに見守ってあげよう」
もう手遅れだが…その心遣いは偉いぞ、牧田
ところで俺は殆んど歌に興味が無い
それはアイドルに限らず歌全般の話だ
いや…興味が無いってのは語弊があるな
ともかく歌ってのは俺の人生の中であまり触れてこなかったジャンルってことだ
だから今アイドル達が歌ってる曲の良し悪しなんて俺にはわからない
沸き上がる歓声の理由もペンライトを全力で振り回す奴らの気持ちも俺には理解出来ない
ただ1つわかるのは、ここには一切の不純物がないということ
不安
ストレス
悩み
このライブはそんなもんを全部取っ払えるパワーがある
「良い逃げ場所だ」
これがアイドル…というかライブ初心者の見解
「そんな後ろ向きな表現で表すんじゃねーよ」
「じゃあお前ならどう表すよ?」
俺と同じように特に興味も無さそうなデルドレが口を挟んできたので聞き返す
「それはもちろん希…」
「どうせ希望だろ?」
食い気味に言い当てたら舌打ちをされた
「…俺のアイデンティティーを奪うなよ」
「芸の無いやつめ」
他愛の無い会話をしながらボケッとライブを眺めてると3時間ほどでラスト1曲になった
ライブ自体は見ていて飽きはしなかったが目的の強い勇者の姿ってのは結局まだ見れていない
「いい暇潰しにはなったけど勇者として学べるもんは無かったんじゃないか?」
「早計だな、今回は俺が来てるからラストに2個ほど畳み掛けてくるぞ」
ラスト1曲の間に何を畳み掛けると言うのか…
俺にはさっぱりだがコトラがこっちを指差して何か叫び始めた
「さぁラスト1曲!…の前に今日は3年振りにデルドレが来てるから一丁かましちゃうよー!!」
何だかよくわからんが客は大盛り上がりでコトラを応援する
彼女は小走りで入ってきたスタッフから弓を受けとるとハート型の髪飾りを取り外す
『無限《エンドレス》の博愛《キューピッド》』
髪飾りの先から棒が伸びたと思ったらそれを矢として俺達に向けて構えた
「今日こそ私のファンになってもらうからね!覚悟しろデルドレ!」
放たれ矢は形こそメルヘンだが何の変哲も無く一直線にデルドレに飛んできた
「何度も言わすなよ…」
眉間の先で矢を掴んだデルドレはその矢を握り潰して続ける
「そもそも俺はお前のファン第1号だろうが」
悔しそうに地団駄を踏むアイドル
「こっちこそ何度も言わせないでよ!だから私のスキルではそれが確認出来ないんだってば!!」
ザッと見3000本くらいか…
VIP席の周りを取り囲むように今の矢が現れる
…もう弓とか関係ないじゃないですか
「いい加減口先だけじゃなくて心身ともにファンになってよ!」
本人が公言してるからいいじゃないか…
そんなことよりこの数の矢が一斉に飛んで来たら流石に俺も全員は守りきれないんだけど…思い止まってくんねーかな
それにガラスをすり抜けたところを見る限りどうせ床もすり抜けるんでしょ?
死角から攻撃とか勘弁してもらいたい…マジで
ここはもうデルドレが彼女を上手く説得してくれるのを期待するしかないが…この男にそんな繊細な事が出来る訳がない
「悪いがそれは無理な話だ」
ほらな
「俺の体は絶望に怯える奴らのためにある、そして心は永遠にシエスタのもんだ」
そしてちゃんと火に油も注ぎやがった
「もういいよ…最初から言葉が通じないことくらいわかってたし」
彼女が声のトーンを落とすと矢の数が一気に倍になった
「貴方はいつだって実力主義者だもんね!」
「おー、三年前より数が増えてんな」
「いや…感心してる場合じゃないだろ」
一斉に襲いかかってくる矢の嵐
あれ…アイドルのライブってこんなんだったっけ?
随分とイメージと違う展開に俺は動揺を隠せなかった
.
そんな吉報を入れてきたのは意外な奴だった
「おうロージ!今日もキビキビ聖女に尽くしてるか!」
狂犬こと勇者デルドレ
本名デルドレ・ドスドレス
初めてこいつと戦った夜から早1ヶ月経ったがちょくちょくこうして様子を見に来るようになった
「そんなに尽くしてねーよ…帰れ」
本当なら門前払いしてやりたいが生憎家には門が無い
こいつの為だけに門を新しく建てて門番を雇いたいところだ
というか何でこいつが毎回何食わぬ顔で家に来れるのかわからない
俺に親愛度というパラメーターが有ったとしたらこいつに対する親愛度は0どころかマイナスだ
とはいえ初日の夜以降は親戚のおっちゃん風の態度を貫いてるのでそこはかとなくはもてなしてやる
「あらデルドレ様、ご機嫌麗しゅう」
デイジーがペコリと頭を下げ、自分の隣の席へ誘導する
何をトチ狂ってんのか知らんがデイジーはデルドレに大いなる敬意を払っていて、例外無く丁重に扱っている
そりゃ元は聖女のパートナーで魔王も二人倒してるかもしれないけど…こんな狂犬に畏《かしこ》まらなくてもいいだろうに
「おうデイジー!大丈夫か?ロージに泣かされてねーか?」
「大丈夫ですわ、とてもよくしてもらっています」
「そうか、でも泣かされたら俺に言えよ?血祭りに上げてやるからよ」
それも毎回訊いてくるけどもし泣かせたら自己報告してやるから挨拶代わりにいちいち訊いてくんなや…
デイジーに対する態度が完全に孫が可愛いお爺ちゃんなんだよなぁ…
「返り討ちにしてやるわ…茶ぁ啜ったらとっとと帰れ」
「テメー…帰れを語尾みたいに使うなよ」
「速やかに帰宅しろ」
「言葉を変えりゃ良いってもんじゃねーぞ!喧嘩売ってんのか!!」
ウチも万屋、こいつに関しては喧嘩も売り物になるかもしれないと本気で思っているとデイジーが間に割って入る
「まぁまぁまぁ二人とも落ち着いて…そうだロージさん、今日のおやつは冷たい物にしませんこと?」
頭を冷やせってか?
まぁ面白くはねえが今は笑っといてやろう
俺は鼻息を荒くしつつ冷蔵庫から冷やしたババロアを取り出して食器と共にテーブルに置いた
そのタイミングでカロム兄妹が仕事から帰って来たので皿を追加する
「こんちはー、兄ちゃんお客さんか?」
「ちょっとお兄ちゃん…その態度は失礼よ」
「いいぞ別にその態度で、こいつは客じゃない…むしろ敵だ」
「敵じゃねーよ」
何だかんだと5人でババロアを食っているとデイジーと談笑していたデルドレが俺の前に封筒を差し出した
「なんだ、賠償金か?」
「俺がお前に何の損害を出したってんだよ」
「それ本気で言ってんなら医者に診てもらった方がいいぞ、主に頭ん中を」
デルドレが俺の挑発に乗ってテーブルに身を乗り出すとデイジーが1つ大きな咳払いをした
「えー僭越《せんえつ》ながら追想の書、第6巻2冊目のある一文を読み上げさせてもらいますわ」
いつぞや出てきた歴代聖女の日記
その内容は以下の通り
『○月×日・曇り。今日は30人の悪魔に囲まれ私達の旅もここまでかと思いましたがデルドレが颯爽と悪魔達を蹴散らし「諦めるな!お前にはこのユニコーンナイトがついてんだ!」と鼓舞してくれました……あぁ、私のデルドレは今日も格好いい』
デイジーが読み終えるとデルドレは脂汗をかきながら床に膝をついた
「くっ…殺せ!!」
凄まじいぜデイジー…あの狂犬にここまで言わせるとは…
「たかだか30匹程度の悪魔で一瞬でもシエスタを不安にさせた昔の俺が不甲斐ない…」
動揺ポイントそこかよ…
もっと一杯あるだろ!?
なんか恥ずかしいこと言ってるし、お前の元カノも然り気無く惚気てんぞ!?
「まだまだありますわよ?」
「今の聖女は末恐ろしいな…謝るからもう勘弁してくれ」
「んで、結局これは何なんだ?」
デルドレは椅子に座り直すと術式ウィンドウを展開してある映像を見せてきた
映像にはきらびやかな衣装に身を包みマイクを持って歌う可愛い女の子が映っている
「こいつぁ今人気絶頂のアイドルだ」
「へー、こっちにもそんなのあるんだな」
「アイドル勇者コトラ。昔少しだけ世話してた時期があってな、人気者になった今でも毎回ライブのチケットを送ってきやがる」
封筒の中身はそのチケットが7枚
ライブの日付は今夜だった
正直俺はあんまり興味無い
「凄い!!コトラちゃんのライブチケットがこんなに!?」
クーデリアが興奮気味に反応する
「そんなに凄いのか、クー?」
カロムは俺寄りな反応でクーデリアに尋ねた
「凄いに決まってるじゃないお兄ちゃん!コトラちゃんのライブチケットって言ったら半年前から売り切れてて全然手に入らないのよ!?」
転売したら儲かりそうだな
なんて考える俺は邪《よこしま》だろうか
「政《まつりごと》は好きじゃないんだが今回は調度この街の開催だから俺も行こうと思ってる、お前も参考までに強い勇者を見といた方がいいぞ?」
「強いって…こんな嬢ちゃんがそんなに強いのか?」
「あいつの固有スキルは特殊だからな、今となっちゃ俺より死なないしお前より一撃が重い」
それって最強じゃね…?
魔王を二人倒したデルドレをこうも絶賛させるアイドルってのはなかなか侮れないな…
「ちょっと興味沸いてきた」
「そうか、なら夜の7時に稔と望を連れてまた来る、どうせ初めてだからお前らも勝手がわからねーだろ?」
「お前に気を遣ってもらうのは鳥肌もんだが助かるわ」
「…お前は一言多いんだよ」
最後まで若干の険悪さが残ったもののデルドレはババロアを食べ終えると一旦宿に戻っていった
さて、チケットは7枚
全員は連れてけないが…どうしたもんか
俺が腕を組みながら考えているとクーデリアがまだ半分以上残っているババロアの皿を俺に寄せながら目を輝かせていた
「お願い!これあげるから私も連れてって!!」
あげるって…元々俺が作ったんだから取引として成立しないだろ、それ
普段しっかりしてるクーデリアをここまでお馬鹿さんにしてしまうとは…アイドル恐るべし
「必死だな…わかった、わかった、連れてくしババロアも食っていいぞ」
「ほんと!?やったー!!」
今までで一番子供らしい笑顔で跳び跳ねるクーデリア
この笑顔を引き出したのが俺ではなくあの狂犬だという事実は悔しいが一応心の中で感謝してやらんでもない
「クーが行くなら俺も行こうかな」
行くメンバーは俺とデイジー
カロムとクーデリア
リーサとトロントに決まった
折角だから花も誘いたかったんだが今日はクエストで帰ってこないから代わりにライチを連れてくことにした
そして19時
約束通り二人を連れて戻ってきたデルドレが夜空を指差す
「コトラのライブ会場は空に現れる、それが見えたら持ってるチケットの半券を切れ線部分から千切れ」
19時を過ぎて数分
デルドレの言った通り大きなハイビスカスのような建物が夜空に浮かび上がった
「先ずは俺がやって見せるからお前らは真似して後に続け」
デルドレがチケットを千切ると花弁を模した術式が現れデルドレを包み込む
術式はどんどん収縮し、最後には白い小さな花弁を無数に残してデルドレと共に消えた
まさに幻想的で夢の中に入り込むような演出
…アイドルのライブってのは入場するだけでも洒落が利いてんな
残る俺達もデルドレと同じようにチケットを千切って会場にワープした
ワープした先は広いエントランス
しかし人気アイドルのライブだというのに客の姿は無かった
居るのは先に行ったデルドレと胸に名札がついた女性スタッフが二人だけ
「dreamerS《ドリーマーズ》ライブinバカンへようこそ」
スタッフの一人が俺達に挨拶する
「私達は魔術人形のサテラとテトラ、VIP様専属の案内人です」
赤い服を着た方にサテラ、青い服を着に方がテトラと名札がついている
よく見れば服と髪以外は瓜二つだ
というかVIPって…狂犬の待遇えげつないな
聞けばこのエントランスもVIP専用の入り口らしく、他に客が居ないのもそのせいだった
「ではさっそくVIP席の説明をさせていただきます」
VIP席は20人ほど入れる個室
その個室が浮いてステージの周りを自由に移動出来るらしい
注意事項としてはあまりステージに近付き過ぎないことと他に3つ有るVIP席と前後被らないようにすることだけだった
「なお、VIP席に取り付けられたボックスの中にはdreamerSのグッズや飲み物が入っているのでご自由にお持ち帰りくださって構いません」
流石はVIP、至れり尽くせりだ
テトラの方が指を鳴らすとエントランスの天井が開いて床以外ガラス張りになっている直六面体がふわふわとゆっくり降りてきた
「操縦は簡単ですが多少の魔力を消費しますので一番魔力量の多い…白髪《はくはつ》の男性にお願いしてもよろしいでしょうか?」
間に一呼吸置いて指名される
人形だから魔力を量る機能でもついてるのか…仕組みはよくわからんがとりあえず了承した
「ではこちらを」
俺は黒いカチューシャのような物を渡された
「これを頭に付ければ思考の通りに操縦出来ます」
単純に便利だなぁと思いながら頭にカチューシャをつけるとガラス張りの箱に出入口が現れた
「端に付いてる赤いボタンを押せば会場に瞬間移動します、もう一度押せばここに戻ってくるのでライブ終了後に押してください」
百聞は一見にしかず
俺は二人に礼を言うとさっそくボタンを押してみた
少量の魔力消費を感じたがそれも雀の涙
ワープ先は何も見えないくらい真っ暗だったが下の方に点々と色とりどりの光が灯っている
その光景はよくアイスなんかにトッピングするチョコスプレーみたいだった
「ねぇねぇロージ!私もあれやりたい!ボックス開けていい?」
年相応のミーハーな中学生みたいになってるクーデリアに許可を出すと全員にペンライトを配り始めた
「クーちゃん、これはどうやって使うの?」
「私も知りたいです!」
得意気なクーデリアにペンライトの使い方を聞くリーサとライチ
どうやら1つだけ付いてるボタンを押す回数によって光る色のパターンが変わるらしい
「か、かっこいいです!これが最先端技術!まさに温故知新です!!」
ライチが赤色に灯したペンライトを八の字に振り回し
それを見てカロムが鼻で笑う
「ふっ、幼稚な奴め」
「何をっ!?そういうカロムはもっと有効的な使い方が出来るんですか!?」
「見てな」
カロムはペンライトを指に挟み両手に四本ずつ持つとユラユラと回り始めた
「メリーさんの真似」
大爆笑するライチを横目に俺はあの踊り子娘に心の中で謝っておいた
というかカロム…お前もライチとどっこいどっこいだぞ
「ガキんちょ共、そろそろ始まるから静かにしとけ」
デルドレに睨み付けられた二人はペンライトを消して大人しくなる
そしていよいよライブが始まった
ステージ上に6つのスポットライトが差す
照らし出されのは映像の子を含めた6人の女の子
ボックスに入っていたパンフレットによるとリーダーのコトラを筆頭に紫の長い癖っ毛が特徴のリームン、メイン職業は魔法使い
オレンジ色のショートヘアーから猫耳を覗かせる獣人系のチャミ、メイン職業はファイター
ベージュ色のセミロングに垂れ耳をぶら下げた小柄の子が獣人系のメルト、メイン職業は僧侶
青いストレートのロングヘアーが眩しいお姉さんがエルフのルーニャ、メイン職業は精霊使い
そして黄色のポニーテールが新人のレイラ、メイン職業は…勇者
特に驚きもしないが最後に紹介した娘《こ》は笹塚《ささづか》 麗蘿《れいら》という名の俺のクラスメイトだった
元々軽音部でギターボーカルを務めていたクールビューティーが今や10万人の前で歌って踊るアイドルになってるとは…
経緯《いきさつ》はどうあれとりあえず後でおちょくりに行きたい
俺はクールビューティーの照れ笑いが見たい(迫真)
「あれ笹塚じゃねーか?」
稔が気付いて大きく手を振る
「加賀くん、もっと近付いて気付いてもらおうよー」
のんびりした牧田も若干興奮気味だった
「もう歌い出すみたいだから邪魔しないでやろうぜ?笹塚も知り合いが近くにいたらやりづらいだろ」
と言いつつ笹塚は既にこっちに気付いているみたいで少し目を伏せて顔を赤くしていた
こうも早く目当てのものが見れるとは…大満足である
「それもそうだねー、私達は静かに見守ってあげよう」
もう手遅れだが…その心遣いは偉いぞ、牧田
ところで俺は殆んど歌に興味が無い
それはアイドルに限らず歌全般の話だ
いや…興味が無いってのは語弊があるな
ともかく歌ってのは俺の人生の中であまり触れてこなかったジャンルってことだ
だから今アイドル達が歌ってる曲の良し悪しなんて俺にはわからない
沸き上がる歓声の理由もペンライトを全力で振り回す奴らの気持ちも俺には理解出来ない
ただ1つわかるのは、ここには一切の不純物がないということ
不安
ストレス
悩み
このライブはそんなもんを全部取っ払えるパワーがある
「良い逃げ場所だ」
これがアイドル…というかライブ初心者の見解
「そんな後ろ向きな表現で表すんじゃねーよ」
「じゃあお前ならどう表すよ?」
俺と同じように特に興味も無さそうなデルドレが口を挟んできたので聞き返す
「それはもちろん希…」
「どうせ希望だろ?」
食い気味に言い当てたら舌打ちをされた
「…俺のアイデンティティーを奪うなよ」
「芸の無いやつめ」
他愛の無い会話をしながらボケッとライブを眺めてると3時間ほどでラスト1曲になった
ライブ自体は見ていて飽きはしなかったが目的の強い勇者の姿ってのは結局まだ見れていない
「いい暇潰しにはなったけど勇者として学べるもんは無かったんじゃないか?」
「早計だな、今回は俺が来てるからラストに2個ほど畳み掛けてくるぞ」
ラスト1曲の間に何を畳み掛けると言うのか…
俺にはさっぱりだがコトラがこっちを指差して何か叫び始めた
「さぁラスト1曲!…の前に今日は3年振りにデルドレが来てるから一丁かましちゃうよー!!」
何だかよくわからんが客は大盛り上がりでコトラを応援する
彼女は小走りで入ってきたスタッフから弓を受けとるとハート型の髪飾りを取り外す
『無限《エンドレス》の博愛《キューピッド》』
髪飾りの先から棒が伸びたと思ったらそれを矢として俺達に向けて構えた
「今日こそ私のファンになってもらうからね!覚悟しろデルドレ!」
放たれ矢は形こそメルヘンだが何の変哲も無く一直線にデルドレに飛んできた
「何度も言わすなよ…」
眉間の先で矢を掴んだデルドレはその矢を握り潰して続ける
「そもそも俺はお前のファン第1号だろうが」
悔しそうに地団駄を踏むアイドル
「こっちこそ何度も言わせないでよ!だから私のスキルではそれが確認出来ないんだってば!!」
ザッと見3000本くらいか…
VIP席の周りを取り囲むように今の矢が現れる
…もう弓とか関係ないじゃないですか
「いい加減口先だけじゃなくて心身ともにファンになってよ!」
本人が公言してるからいいじゃないか…
そんなことよりこの数の矢が一斉に飛んで来たら流石に俺も全員は守りきれないんだけど…思い止まってくんねーかな
それにガラスをすり抜けたところを見る限りどうせ床もすり抜けるんでしょ?
死角から攻撃とか勘弁してもらいたい…マジで
ここはもうデルドレが彼女を上手く説得してくれるのを期待するしかないが…この男にそんな繊細な事が出来る訳がない
「悪いがそれは無理な話だ」
ほらな
「俺の体は絶望に怯える奴らのためにある、そして心は永遠にシエスタのもんだ」
そしてちゃんと火に油も注ぎやがった
「もういいよ…最初から言葉が通じないことくらいわかってたし」
彼女が声のトーンを落とすと矢の数が一気に倍になった
「貴方はいつだって実力主義者だもんね!」
「おー、三年前より数が増えてんな」
「いや…感心してる場合じゃないだろ」
一斉に襲いかかってくる矢の嵐
あれ…アイドルのライブってこんなんだったっけ?
随分とイメージと違う展開に俺は動揺を隠せなかった
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