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ウェルダン級の有酸素運動

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最終奥義、またの名を必殺技
俺はこの字面が嫌いだ

必ず殺す技なんて物騒極まりない
出来ることなら使いたくない

そして俺の必殺技は格好よくもない

千本の剣で串刺しにするとか
放った拳が龍の形の衝撃波を生むとか
そんな格好よくて凝ったエフェクトは一切無い


俺が言う最終奥義は最後の奥義という意味ではない

最も終わってる奥義だ

広範囲で味方も巻き込む上、自分にも深刻なダメージが入る最低最悪の技だ


ただしその破壊力は必殺技の名に恥じない

一発でこの状況を打破出来る


「最終奥義…ってなに?」

「自爆」


読んで字の如く
自ら爆発する

それ以外に説明の余地も無い


「自爆って…それ大丈夫なの?」

「大丈夫な訳ねーだろ」

某有名モンスターゲームでも自爆したら自分も倒れてしまうだろう

つまりはそういう自滅技なのだから大丈夫な要素など皆無だ


「まぁでも安心しろ、お前には傷一つ付けやしないから」

一応俺もまだ17歳
格好つけれるところはつけておこう

これからとんでもない醜態を晒すんだから…


「これからお前が俺の自爆に巻き込まれないように特殊スキルを使う…だからあんま真に受けずに聞いてくれ」

「うん…わかった」

特殊スキルは他のスキルと違って儀式的な事をしなくてはいけない

儀式の方法は様々だが今回のは比較的簡単

対象に誓いを立て、手の甲にキスをするだけ


言葉にするのは簡単だがこれがめちゃくちゃ恥ずかしい

紳士でもない俺には些《いささ》か難易度が高い


「我、この身滅びようとも汝を護ろう…『王の誓い《ロイヤルオース》』」

耳を熱くさせながらアイリッシュの手の甲にキスをすると彼女は恍惚な表情を浮かべ俺を見つめた

わかってないな…この子
真に受けちゃってるな、確実に…


何はともあれこれでスキルの発動条件は満たした

4分の1の魔力を消費するのは痛いがその代わり対象は5分間だけいかなるダメージも受けない無敵状態になる

「呆けてる時間は無いぞ、とっとと目と耳塞げ」

探索スキルによると地上からは約100m
障害物は無し

「問題なさそうだな」


体力の95%を捧げて放つ超大技
『大爆発《グランデフラルゴ》』

アイリッシュが目を閉じ耳を塞ぐのを確認すると俺は躊躇なく発動した


体の内側からマグマで焼かれるような激痛のあと、穴という穴から炎が溢れ出る

想像以上に痛烈ではあるが爆発なんてもんはどの世界でも一瞬の出来事

痛みはほんの一瞬
瞬《まばた》き程度の時間で全てが終わる



大地を揺るがすまさに爆音

上も下も右も左もひっちゃかめっちゃかになる程の光度

目も耳もやられ平行感覚も失ったが爆風の中、彼女だけは必死に抱き締め放さなかった


「カハッ…」

終わってしまえば呆気ない
地中だったはずの場所は大空の広がるクレーターになっていた

そして腕の中の彼女も無傷だった


俺は黒い煙を吐きながら炭の様に黒くひび割れた腕でアイテムボックスの回復ポーションを有りったけ取り出す

パキパキと乾いた音を立てながらポーションに口をつけようとしたら腕が枯れ木の様に崩れ落ち地面にポーションが拡がっていく


まともに動けるくらいにはどうにかしてでも回復しないといけない

地を這いつくばって溢れたポーションを舐め摂ろうとするが砂利が口の中に入るだけで俺は乾いた咳で噎せる


「無理しちゃダメだよ、ちょっと待ってて」

アイリッシュが焦りながらポーションの蓋を開け俺の口まで運んでくれるが頬が崩れ落ちてしまい喉の奥に進まない


果てはしないが朽ちていく
もう指の一本も動かせない
回復したくても出来ない

地獄地獄もいいところ


しばらくすれば自動回復のスキルが効き始めるがそれじゃ遅い

爆発の影響で周囲にモンスターは居ないがいずれ遭遇するかもしれない

不確かな未来が俺を不安に駆り立てる



守ると言ったのに守れないなんて…
これじゃ仕事人以前に男として失格だ


「もう嘘でも偽りでもないから…この気持ちは本物だから…いいよね」

「カ…カッ…ハカ…」

枯れ果てた喉じゃまともに喋る事も出来ない
辛うじて呼吸をするのが精一杯

彼女の言葉に返事さえ返せない


「…!?」

アイリッシュはポーションを自分の口に含むと俺の両頬を手で押さえながら口移しでポーションを飲ませてくれた


じわりじわりとゆっくり喉を通り体に染み込むポーション

そして柔らかい唇

「ぷはぁ……ちゃんと飲めた?」

「お、おかげさまで」

最上級フルポーションでも全回復は出来なかったが朽ちた腕は治り肌も元通りになった

本調子とはいかないまでもドラゴンに襲われても平気なくらいには回復出来たので問題は無いだろう


…そんなことより今はこの気まずい空気を何とかしないと


「嫌だった…かな?」

俺が取れてしまいそうな勢いで首を横にブンブンと振ると彼女は安堵したように微笑んだ

「そっか、よかった…君には嫌われたくなかったから」

よかった…のか?
本人がそれでいいなら別に俺も掘り返すつもりはないけど




いや…ダメだ

全力で掘り返そう

ここでうやむやにして逃げるのはよくない

アイリッシュが作ってくれた逃げ道を使うのは…


そんなのは卑怯だ


「待て」

俺はアイテムボックスから出したマントをアイリッシュの肩にかけながら問い掛ける

「本当によかったのか?」

初めて月に立ったアームストロングさんはそれはそれは偉大で、誰もが認める英雄だったのかもしれない

しかし俺はどうだろう…
規模はどうあれ誰かの初めてになってもよかったのだろうか?


「僕ね、これからは男の子でも次期領主でもない16歳の女の子として生きていくからさ…」

言葉を詰まらせた彼女は俺の胸に額を押し当てて続ける

「だらか、そんな女の子を好きになった時…その時は君の方からチューしてね」


俺がドラマに出てくるようなイケメン俳優だったならきっとここで彼女を抱き締めていただろう

だけど俺はイケメンでも俳優でもないから彼女の頭に手を添えてそっと記憶回路を唱える事しか出来なかった



これにて今回の難儀な依頼は幕を閉じることとなる

翌日からはまた普通に営業して普通の客を取り何ら変わらぬ日常が続いていく


…と思っていた




ー 翌日 ー


「アイリッシュさんは可愛らしいのでこれなんかも似合うと思います」

「こんなフリフリしたやつ僕に似合うかな?」

「三日月さんなら大丈夫です!」

「ほんと?」

「きっと可愛い…です」

昼下がり、何故か俺の眼前にファッションを雑誌を拡げながらスイーツを嗜む四人の女子会が開かれていた

リーサ、ライチ、ジュナ、そしてアイリッシュ

一昨日と違うのは非番だったリーサが仲間入りしたこととアイリッシュが姉の御下がりというワンピースを着ていることだ


男だと思っていた人が女だったというのにライチとジュナはすんなりと受け入れていて二人の適応力に感服する

「待っててねロージ!直ぐに女子力を上げて君をメロメロにするから!」

本人の目の前で行われる「ロージメロメロ大作戦」会議がそれはもうシュールでツッコむ気すら失せる有り様だ

「フフフ、モテる男は辛いですね」

「………」

人の気も知らないで何を面白そうに笑ってやがる…

リーサのおやつをしばらく「ウェルター◯オリジナル1個」にする事を固く決意しながら俺はおかわりの紅茶を黙って注ぐ


「あ、もうこんな時間です!お水をあげないと!」

「ジョーロ持ってくるね」

「頼みます!!」

そういえば言い忘れていたがライチにお土産として胡桃《くるみ》大の種を持ち帰っていた

大きな種だから大きな実がなるに違いないと早速裏庭に植えたライチはどういう根拠か三時間置きに水をやっている

やる水が多過ぎる気がするが…まぁ森の民であるエルフが言うのだから間違いではないのだろう

「収穫出来たら二人で山分けですよ?」

「うん、山分け」

胸を踊らせながら水やりをする二人を小窓から眺め、俺は実よりも先につく花の事を考える


「今度とっておきのお店を紹介しますね」

「それは有難い!是非とも次の休日に!」


きっと可愛いらしい花が咲くだろう



午後の日差しを感じながら
マドレーヌと共に啜る紅茶は

何だかいつもより甘く感じた


.
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