美しく優秀な次女がいるのなら、私は必要ありませんよね? 〜家を捨てた私は本当の姿に戻り、追いかけてきた皇子と街で暮らす〜

夜野ヒカリ

文字の大きさ
上 下
55 / 57
続編

初めてのお茶会⑤(エリオット視点)

しおりを挟む


「違う……?」

「あ……っも、申し訳ありません! お二人のすごさに驚いていただけで、変な意味はまったくありませんっ」

 まるで自らを皮肉るような表情で『僕とは全然違う』と呟いたオリバー様は、その意味を捉えかねている僕とソフィーを見て、慌てたように、変な意味ではないと言う。……まずは彼の言う『違う』の意味を捉える必要がありそうだ。

「オリバー様に悪意がないということはわかっています。……けど、『違う』というのは、どのような意味でしょう?」

「……僕は落ちこぼれですから。お二人のような十分な教養がありません」

 僕の問いに俯きながら答えるオリバー様は、自分に対する自信が消失してしまっているように見える。

「? オリバー様の態度を不快に感じたということはありませんし、十分な教養があると思いますけど……」

「いいえっ、お二人は僕と同い年とは思えない優雅さや気品がありますっ、兄上だって………!」

 なるほど……なんとなく分かった。
 きっと、オリバー様は常に優秀なお兄さんと比べられてきたのだろう。そして、そうした見方をしていたのは母であるコール伯爵夫人ではないと思う。
 さっき初めてあった人だけど、自らの子を比較して優劣をつけたり、それによって子を苦しめたりはしない人だと思う。

「……オリバー様はお兄さんと自分を比べてしまっているのですね?」

「……比べてくるのは僕自身ではなく僕の周りです」

「でも、他人が勝手にしているそれを気にして傷付いてしまっているのは貴方自身でしょう?」

「っ、気にしないなんて、出来るはずがないじゃないですか! 僕だって努力しているんですっ! でも……!」

 ソフィーは、オリバー様を煽るような言葉を重ねる僕を不安そうに見ている。意図は察してくれているみたいだけど、関係を拗れさせてしまう言動だから心配になってしまったみたいだ。

 当然というべきか、オリバー様は僕の煽るような言動に声を荒らげたけど、会場である庭園の端で話しており、他の人達もそれぞれ話に夢中になっていたため、こちらの異変に気が付いた人はいないようだ。……いや、お父様とお母様は気が付いているかな? こっちに視線を送っている。

 ……オリバー様の気に障ることを言ってしまったけど、彼には内で燻っている感情をを吐き出す必要があると思う。
 そしてそれは、関係が薄く、同じ子供である僕やソフィーだからこそ引き出すことが出来るはず。 
 母親であるコール伯爵夫人には相談しにくく、他人で現役の公爵、伯爵であるお母様とお父様にも自分の相談なんて出来ないだろうから。

 お父様が話してあげてほしいと言っていたのはこういう意味だと思う。きっと、コール伯爵夫人から相談を受けていたのだろう。

「──完璧なお二人に僕なんかの気持ちが分かるはずありませんっ!……あっ……」

「お気になさらず。煽るようなことを言ってしまって申し訳ありませんでした。ですが、オリバー様のお気持ちを聞くことが出来てよかったです」

「はい。お一人で抱え込むというのは苦しいことですもの。人間、自分の中で感情の処理をしようとしてしまいますが、実際には困難なことです。私だって、よく兄に愚痴を言っているのですよ?」

 堪えきれなくなった感情を僕達に向けたところで、ハッとしたように顔色を悪くしたオリバー様にフォローを入れる。
 ソフィーも僕に倣って、気にしていないことを伝え、苦笑気味で自身の話をしている。

「カトル公爵令嬢のような方でも?」

「ふふっ、私だってオリバー様と同い年の人間ですもの、愚痴くらい言います」

「そう、なのですね……」

 公爵令嬢であるソフィーにも、自分と同じようなところがあると聞いたオリバー様は、少し驚いた顔をしている。

「私達でよろしければお話を聞かせてくださいませんか?」

「ありがとうございます。……ですが、僕なんかのことでお二人を煩わせるのはやはり……」

「煩わしいなんてありません。言ってしまうと、僕達はオリバー様と仲良くなりたいだけなのです」

「えっ? 僕と? なぜ……」

「オリバー様が優しくて信頼のおける人物であると、そう感じたからです」

「僕もそのように感じています。……直感的な話なってしまいますが、妹の直感は外れたことがないのですよ? もちろん、僕の直感も」

 あっ、折れてくれたみたいだ。
 食い下がる僕達に、少し気が緩んだようで、険しかった表情が幾分か和らいだ。

「……では、聞いていただけますか?」












~~~~~~~~

《補足》
 少し前に「よほど仲が良くないと名前で呼び合わない」というように書きましたが、それは生家を出る、もしくは爵位を継いだ貴族の話で、エリオットやソフィアくらいの年齢の子供は普通に名前で呼び合います!
 “仲が良くないと”とは言っても、貴族は表面上の仲でしかなくても名前で呼び合うことが多いでしょうけど( ̄▽ ̄;)

 学園で仲が良かったり、同派閥の家だったりすると大人になっても名前で呼び合うと思っていただければと思います_(..)_


しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...