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続編

全員集合!(ウィル視点)

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「──皆変わりはないか?」

「お義父様! 政務はもうよろしいのですか?」

「おぉ、しっかり済ませてきたぞ」

 兄上が来てから遅れること十五分程で父上もやってきた。
 普段はあのような父上だが、臣下としては誇れる皇帝であり、息子としても自慢の父である。……仕事を投げて兄上や宰相を困らせることもたまに……度々?あるが、基本的には優秀でしっかりとした方である。

 兄上もそうだが、今日は私達が来ているからと急いで仕事を終わらせてきてくれたのだろう。

「「おじいさまー!」」

「おぉ、半年振りか。会いたかったぞ!」

「私もお義父様やお義兄様方に会えて嬉しいです。……こうして皆で集まるのは初めてですね」

「言われてみればそうね」

「あぁ、やはり家族全員が集まるというのはいいもとだな」
 
 リーナの言葉に義姉上や兄上もうなずく。
 私自身、この時間に安らぎを感じている。

「エルとソフィーも小さかったし、父上と兄上が二人とも皇都を離れるわけにもいきませんでしたからね」

 父上と兄上、姉上、シリウス、リーナ、私、エリオット、ソフィア……そしてフィオナを加えた9人。
 今後もその全員で集まれる機会は多くないだろう。


「──うぅ~」

「あら、フィオナが起きたみたいね」

「フィオナちゃん、起きたんですか!?」

「えぇ……ぐずっているわね」

「だいじょうぶですか?」

 うちの子供達は赤ちゃん……自分より年下の子供に触れあったことがない。……赤子である従姉妹に乱暴をするなどという心配はしていないが、二人にとっては初めて接する赤子という存在。加えてあの子はアスラート帝国第一皇女である。……少し心配だ。
 今日のことは二人にとっても良い思い出、体験になると思うが……


「──フィオナちゃん、ないてますね」

「えぇ、子供は泣くのが仕事なのよ」

「泣くのが?」

「ぼくたちもそうだったんでしょうか?」

 二人は泣いているフィオナに興味津々な様子だ。
 
「ふふっ、お父様やお母様に聞いてごらんなさい。……おしめみたいね、少し行ってくるわ」

「私も行きます」

 部屋を出る義姉上にリーナも付いていく。
 義姉上は自身も別室に向かったが、皇太子妃である義姉上が実際に何かするということはないだろう。自分でやってしまえば、仕えている侍女達の仕事を奪ってしまうことになってしまうから。

「おとうさま、ぼくたちもいっぱいないていたのですか?」

「あぁ、その頃は私達も親として未熟だったから大変だったよ」

 ……今でも分からないことが多く戸惑う毎日だ。
 我が子の世話を自分でやるという貴族は少ないというのが実状ではあるが、貴族であろうと子供への対応に迷うことは多い。
 ……子供を前にした親という存在は、貴族と平民とで大きな違いはないのであろうな。

「なんであかちゃんはいっぱいなくんですか?」

「そうだな……赤ちゃんはしゃべれないだろう? だから、泣いて感情表現をするしかないんだ」

「そうなんですね……かなしいことがあったんじゃないならよかったです!」

「ははっ、そうだな」

 ソフィーは泣いているフィオナを見て何か悲しいことがあったのだと思っていたらしい。

「……ぼくはあかちゃんのころのことはおぼえていません。フィオナちゃんもぼくたちのことをわすれてしまうのでしょうか?」

 エルの問にソフィーもハッとした様子になり、不安そうにこちらを見つめてくる。

「……残念ながら、今日のことは忘れてしまうだろう」

「そうな……」

「だが、私は赤ちゃんの頃のことも記憶の片隅に残っていると思う。忘れてしまったとしてもなかったことにはならないはずだ」

「ソフィー、おとうさまのいうとおりだよ。げんきだして?」

「だって……」

「ソフィー、シリウスのことは好きか?」

「? すきです」

 ソフィアは何故そんな当たり前のことを聞くのかといった様子で首をかしげている。当のシリウスはその後ろで嬉しそうに微笑んでいる。
 ……“好き”というのはもちろん、兄として、従兄妹としてという意味である。……ソフィアもそういう意味で言っているよな?シリウスも分かっているよな?

「おとうさま?」

「ゴホン……そう、シリウスのことが嫌いではないだろう? エルとソフィーも赤ちゃんの頃に一度シリウスに会っているんだ。二人はそのことを覚えていなくても良い関係が築けているだろう?」

「わたしたち、あかちゃんのころにもシリウスにいさまにあってたんですね」

「うん。二人が二歳になる前だったかな? ……その時の二人もとってもかわいかったよ」

「ふふっ、ありがとうございます!……あれ?じゃあシリウスにいさまにあうのはきょうがさんかいめということですか?」

「そうだよ」
 
「ぼくもにかいめだとおもっていました……」
 
「そっか……でも、叔父上がおっしゃってたように、小さな頃に会ったことは忘れてしまっていても、会った回数が少なくても私達は仲良しでしょう?」

「「はい!」」

「ははっ、叔父上がおっしゃっているのはそういうことだよ。絶対にフィオナも二人のことが好きになるよ」

 やはりシリウスは大人びているな。シリウスはまだ幼いながらもしっかりしていて、自分の立場などを正確に理解している。
 今、シリウスは少し悲しそうな顔をしているが、いずれは皇帝になる自分と、その臣下となるエルやソフィーとの関係がいずれ変わっていってしまうことを悟っているのであろう。

 もちろん、今日のような私的な場では変わらぬ関係でいられる。兄上と私もや、リーナと義姉上もそうだ。
 しかし、公の場ではそうはいかないし、上に立つ者として親しい者にも冷酷にならねばならない時がくる。
 ……今はまだ一人の子供として従兄弟や友との関わりを楽しんでほしい。シリウスの叔父として心から。


「──ただいま」

「リリア! フィオナの機嫌はなおったみたいだな」

「えぇ。エリオット君、ソフィアちゃん、フィオナに挨拶をしてあげてくれる?」

「「はい!」」

 ソフィアに座った義姉上の両隣からその腕の中を伺い見るエルとソフィー。

「わぁ……ほんとうだ、きれいなめですね」

「そうでしょう?」

 ソフィーはフィオナを驚かせないように小声で話している。
 私とリーナもそっとフィオナの瞳を覗いてみて、綺麗だという言葉になるほどと納得した。

 皇家特有の緑金……ではあるが、私やソフィー、兄上、父上と比べて淡い色合いであり、見る角度によって色が変化している。
 
「フィオナちゃん、わたしはソフィアだよ。よろしくね」

「エリオットだよ。なかよくしようね」

「う~」

「わぁ、てもちいさい……」

「赤ちゃんの手はとっても柔らかいのよ。優しく触ってみて」

「やわらかい……」

「あたたかいですね」

 二人に反応したフィオナがソフィーの方に伸ばした手を、二人は代わる代わる触れていく。

 そんな様子を見てふと、子供はこうして幼い命に触れることで、“命”というものを知っていくのかもしれないと思った。
 エルもソフィーも優しく育ってくれている。
 今後の子供達の成長が楽しみだ。











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