上 下
44 / 57
続編

かくれんぼ(ソフィア視点)

しおりを挟む


(ソフィア視点)



 ふふっ、どこに隠れようかしら?
 カーテンの後ろ?机の下?ベッドの中?

 私のお家には隠れるところが多いから迷っちゃう。
 でも、今回は絶対に見つからない場所がいいわ。お父様ったら手加減をしてくれないんだもの。いつもいつも始まってすぐに見つかってしまうの。私だけじゃなくてエルもよ?

 そう、今日はみんなとかくれんぼをしているの!
 隠れていいのはお家の中だけで、お庭はダメ。あと、お父様とお母様がお仕事をするお部屋もダメ。
 それでも、隠れる場所はたくさんあるから、本当に迷っちゃうわ。

 ちなみに、お母様は私とエリオットが隠れられたのを確認したらお父様に報せに行ってくれるの。その後はお父様と一緒にお家を回るけれど、私達の居場所を教えたりはしないわ。

「ソフィー、ここなんてどう?」

「そこは先週すぐに見つかってしまったじゃない」

「そうだったね……」

 一緒に隠れる場所を探していたエルが廊下のタペストリーをめくりながら『どう?』って聞いてくる。
 う~ん、でも、お父様も同じ場所はよく探さないかも?
 あっ、それでもダメ! タペストリーの後ろに隠れたら、タペストリーが膨らんでしまうもの。

「エル、タペストリーは私達が隠れたら膨らんでしまうわ」

「うん。だけど、前みたいにはならないよ。この間見つけたんだけど、見てて?」

「あら、エルはそこを見つけたのね」

「?」

 お母様はエルが何を言っているのかわかったみたい。……私だけ分からないなんて、悔しいわ。
 エルは私のお兄様。お兄様とはいっても同い年よ?だから私は『エル』って呼んでいるの。
 私はよく覚えていないけど、去年までは私達は余り仲が良くなかったんですって。エルに理由を聞いても教えてくれないけれど。お父様がお母様を見る時みたいな優しい笑顔で『僕だけの秘密』って言っていたの。……何で私が覚えていないことをエルは覚えているのかしらね……本当に悔しいわ。

 まぁ、それは置いておいて、私とエルはとっても仲良しで毎日一緒に遊んでいるの。お父様とお母様は忙しくてずっとは遊んでいられないけど、エルがいるからちっとも退屈しないわ。
 でも、エルったらとっても心配性で私が走ると危ないって言うのよ?

「ソフィー、いくよ」


 ───ガタンッ


「わぁっ! エル、こんなのいつ見つけたの!?」

「へへっ、この前のかくれんぼの後にどこか良い隠れ場所がないか探してたらたまたま見つけたんだ」

「へー!」

 タペストリーの後ろに入ったエルが目の前にある壁の模様を押したら、そこがへこんだの!
 そうしたら、タペストリーの横の壁が消えてしまったの……壁がドアみたいに開いているわ。

「これはね、何かあった時にこのお屋敷から脱出するためにあるのよ」

「お母様、何かあった時ってなんですか?」

「……私達は責任ある立場なの。だから、怖い人達がやって来てしまうことがあるのよ」

「……怖い人達?」

「ふふっ、エルとソフィーは心配しなくて大丈夫よ。お父様とお母様が守ってあげるわ」

 お母様はそう言って私とエルをぎゅってしてくれた。

「ソフィーには僕もいるからね! 僕はお母様とお父様も守れるようになるんだから」

「わ、私だってみんなを守れるもん!」

「あら、心強いわ。そうだ、エルが押したスイッチは大人が押すには少し低いでしょう?」

 お母様の言葉に頷く。
 エルが押した壁はエルの目の前で、お母様の腰よりも下。

「そうやって、分かりにくいところにスイッチがあるの。……ここ以外にもあるから探してもいいけど、勝手に入ったらダメよ? あと、使用人達にも隠し通路のことは言わないこと」

「はーい」
「……」

「……エルはここに入ったの?」

「……はい」

「……まぁ、まだ教えてなかったし、入っちゃダメとも言ってなかったものね。ただ、お屋敷の外に繋がっているものや、危ない仕掛けがあるものもあるからこれからは勝手に入ってはダメよ? 隠し通路を見つけたらお父様かお母様に報せて。一緒に探検しましょう?」

「「探検!?」」

「えぇ」

「エル! 隠し通路、一緒に探そうね!」

「うん!」

「それで、ここに隠れるの?」

「はい、僕達が入ったらお父様を呼んできてくれますか?」

「わかったわ。……ここは奥に行っても大丈夫だから、エルはソフィーを案内してあげたら?」

「わかりました。ソフィー、行こう!」





* * *





「エル……真っ暗だよ?」

 お母様は私達が壁の中に入ったのを確認して、お父様のところに行っちゃった。

 私達が入ってすぐに壁は閉まってしまって、そうすると何も見えないくらい真っ暗になってしまったの。怖くなってしまって、繋いでいたエルの手を握るとぎゅって握り返してくれた。

「大丈夫だよ、ソフィー。明かりの代わりを持ってきたから……ほら」

「わぁ……これなあに?」

「発光石っていうんだって。今日はここに隠れようと思ってたから、ロバートに『僕達が使ってもいい明かりはない?』って聞いたら貸してくれたんだ」

『ほら』って言いながらエルが私に向けた手のひらの上には光っている何かがあった。
 
「結構明るいでしょ?」

「本当! 石が光ってる……不思議ね!」

「太陽の光当てておくと、短時間だけど明るく光るんだって。あんまり出てこないから珍しいんだって」

「へー」

 太陽の光を当てておくと光るんだ……
 子供だけで火は危ないからロバートはこれを貸してくれたのかな?

「ほら、ソフィー!探検に行こう!」

「うん!」


 暗い通路を発光石で照らしながら手を繋いで進んでいく。さっきまで怖かったのが嘘みたいにワクワクする。
 ……通路は石で造られていて、所々曲がるけれど基本的には真っ直ぐみたい。

「そうだ、エルはここを通ったことがあるんでしょ?」

「うん」

「……どうしてその時に誘ってくれなかったの?」

「それは……その時お父様もお母様も忙しそうだったから聞けなかったし、掃除されてる感じがなかったから、公爵家の秘密かもって思ったんだ。実際、さっきお母様も言ってたでしょ? 」
 
「私もダメだったの?」

 そうだったら悲しいわ。
 
「そんな訳ないじゃん! だって、安全か分からないんだよ? 真っ暗だったし。ソフィーを連れてくなら今日みたいにしっかり準備したかったんだ……」

「本当?」

「もちろん!」

 そう言うエルの笑顔を、発光石の柔らかい光が照らしている。
 ……やっぱりエルは優しいな。

「ふふっ、エル大好き!」

「っ、僕も大好きだよ」





* * *





「結構歩いたわね」

 十分くらい歩いたと思う。
  

「それにしても、どこに繋がっているの?」

「どこだと思う?」

「う~ん、あの廊下から……あっ、玄関の方よね!?」

 入り口の場所と歩いてきた方向、時間から予想した。

「もう出口だよ……さ、開けてみて!」

「わかった!」

 行き止まりの壁の前で、エルが私の膝の辺りの高さにある石を指差していた。

 
 ───ガタンッ


「やった! 玄関だ。私の予想通りね!」

「さすがソフィーだね! さ、お父様が来る前に通路に戻ろう」

 そうだ、今はかくれんぼ中だった!
 それでも、これは新記録じゃないかしら? お父様はいつも十分以内には私を見つけていたから。
 ……ちなみに、私とエルが別々に隠れると私の方が先に見つかってしまうことが多いの。

 今日こそはお父様がねをあげるまで隠れきってやるんだから!
 そう思って、急いで通路に戻る。

「──見つけたぞ!」

「ひゃあっ!」

「っお父様、ソフィーを驚かせないでください!」

 通路の扉が閉まって安心していたら、通路の暗闇の中からお父様がぬっと出てきた。

 エルは驚いてしゃがみこんでしまった私とお父様の間に入って、私を庇ってくれた。

「お、お父様、なんで分かったんですか?」

 絶対に見つからないと思ったのに……

「ははっ、どうしてだと思う?」

「むぅ~……お父様キライ!」

「なっ、ソフィー………」

「あらあら……ソフィー、お父様に勝つのは難しいわよ? だって、範囲の決まっていない……国のどこに隠れたのか分からない私を見つけたこともあるんだから」

 えっ……国を使ってかくれんぼをしたの?
 このお屋敷よりもずっとずっと広いわよね?

 私に嫌いと言われてお母様に慰められているお父様はそんな風に見えない。

「お父様、本当?」

「あ、あぁ……ほとんどは運だったが…いや、あれは運命だったな」

「ふふっ」

 私が話しかけたから少し元気になったみたい。

 ……お父様がどんなに見つけるのが上手でも、いつかは勝ってやるんだから!








~~~~~~~~


 読んでくださりありがとうございます(*^^*)

 注)エルとソフィーの間にあるのはあくまで、兄妹愛です。それ以上のものは(たぶん)ないと思われます。……思いたいです。


 ちなみに、ウィルも意地悪ですぐに見つけていた訳じゃありません!
 お仕事で子供達とくっついていられる時間が短いから、子供達と少しでも長く過ごすために離れている時間を短くしようとしちゃってるんです!
 ……大変に子狂いで、子供達(主にソフィー)からよく怒られてます( ̄▽ ̄;)


 新作の方も先日Hotランキング1位をいただきました!
 読んでくださった皆様、ありがとうございます(*^^*)





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】今世は我儘なぐーたら令嬢を目指します

くま
恋愛
一つ下の妹のキャンディは愛嬌は良く可愛い妹だった。 「私ね、お姉様が大好きです!」 「私もよ」 私に懐く彼女を嫌いなわけがない。 公爵家の長女の私は、常に成績トップを維持し、皆の見本になるようにしていた。 だけど……どんなに努力をしていても、成績をよくしていても 私の努力の結果は《当たり前》 来月私と結婚を控えている愛しい婚約者のアッサム様…… 幼馴染であり、婚約者。とても優しい彼に惹かれ愛していた。 なのに……結婚式当日 「……今なんと?」 「……こ、子供が出来たんだ。キャンディとの」 「お、お姉様……ごめんなさい…わ、私…でも、ずっと前からアッサム様が好きだったの!お姉様を傷つけたくなくて……!」 頭が真っ白になった私はそのまま外へと飛びだして馬車に引かれてしまった。 私が血だらけで倒れていても、アッサム様は身籠もっているキャンディの方を心配している。 あぁ……貴方はキャンディの方へ行くのね… 真っ白なドレスが真っ赤に染まる。 最悪の結婚式だわ。 好きな人と想い合いながらの晴れ舞台…… 今まで長女だからと厳しいレッスンも勉強も頑張っていたのに…誰も…誰も私の事など… 「リゼお嬢様!!!」 「……セイ…」 この声は我が家の専属の騎士……口も態度も生意気の奴。セイロンとはあまり話したことがない。もうセイロンの顔はよく見えないけれど……手は温かい……。 「俺はなんのために‥‥」 セイロンは‥‥冷たい男だと思っていたけど、唯一私の為に涙を流してくれるのね、 あぁ、雨が降ってきた。 目を瞑ると真っ暗な闇の中光が見え、 その瞬間、何故か前世の記憶を思い出す。 色々と混乱しつつも更に眩しい光が現れた。 その光の先へいくと…… 目を覚ました瞬間‥‥ 「リゼお姉様?どうしたんですか?」 「…え??」 何故16歳に戻っていた!? 婚約者になる前のアッサム様と妹の顔を見てプツンと何かが切れた。 もう、見て見ぬフリもしないわ。それに何故周りの目を気にして勉強などやらなければならいのかしら?!もう…疲れた!!好きな美味しいお菓子食べて、ぐーたら、したい!するわ! よくわからないけれど……今世は好き勝手する!まずは、我慢していたイチゴケーキをホールで食べましょう!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。 能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。 しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。 ——それも、多くの使用人が見ている中で。 シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。 そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。 父も、兄も、誰も会いに来てくれない。 生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。 意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。 そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。 一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。 自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...