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番外編
結婚式の珍客(三人称)
しおりを挟むとある男女の結婚式が執り行われている街外れの教会、、幸せそうに笑みを浮かべながら入場してきた新郎を見て、一人の祝福客は自分の目を疑った。
その男は詳しいことを知らされず、知り合いの結婚式だからと隣に座っている父と共にきたのである。自分の知り合いはそれなりの身分の者がほとんどであるため、今日着るように指定された服や普段乗るものよりシンプルな馬車、会場が街外れの教会であったことにに疑問を抱いていた男だが……。
「── どうしているかと心配していたが、あの顔を見るなり上手くやっているようだな」
「え、えぇ、幸せそうな顔をしていますが……」
男は父と声を潜めて話をする。頭の回転の早さには自信がある男であったが、この状況を飲み込むことができないようだ。それもそうだろう、自分の目が確かなら祝福客の注目を集める人物が死んだはずの弟であったのだから。
そう、他の祝福客とは異なる空気を纏う二人はアスラート帝国の皇帝と皇太子……婚儀の真っ最中である新郎ウィリアムの父と兄である。
─── 皇太子アルバートは弟が急死したという報せを外交で訪れていた隣国で受けた。
自分が国を出た時何の症状もなく元気に過ごしていた弟が病死したという報せに『まさか』と思い、身を切られる思いだったが、皇太子たる自分の責務と荒れる心を抑え込んで外交に臨んでいた。
それが一月前、父である皇帝アーサーから『今度、お前の旧知の者が結婚をするらしい。私と共に出席するから準備を』と言われたのである。誰が式をあげるのか聞いても父はその者の名を言わなかったが、その理由も今日わかった。
「生きて、いたのですね……」
「あぁ、お前まで騙していて悪かったな。さぞ心苦しかったであろう」
「えぇ、それはもう……」
アルバートはウィリアムの訃報を受けてから大事な弟に別れの挨拶も出来なかったと悲しみに暮れていた。
その全てが無用だったと知った今、裏切られたと感じるもそれ以上の歓喜を感じていた。
「よかったです、本当に」
* * *
婚儀は滞りなく行われ、新郎新婦は退場した。
「さてアルバート、我々も行くとしよう」
「はい、、? 父上、どちらに向かわれるので?」
立ち上がった皇帝は他の者と別の方向へと向かってあるき出す。
「何だ、祝いの言葉も贈らずに帰るつもりだったのか?」
「会えるのですか?」
「家族なのだ。会っていけないということはないであろう」
皇帝は朗らかに笑っている。
皇帝であるアーサーとの手紙のやり取りはウィリアムの生存の露出のきっかけに成りかねないため、アーサーからウィリアムに手紙を送ることはめったに、否一度もなかった。
逆にウィリアムからは定期的に報告書を送っている。皇帝は日々多くの報告書や民の代表達からの請願や嘆願の手紙を受けとるため、怪しまれないのだ。
もちろん、皇帝の手元に届くまでに複数の手を経るが、宰相と信頼のおける大臣数名はウィリアムの生存を知っているため、問題はない。
話はそれたが何が言いたいかと言うのと、ウィリアムは父と兄の出席すら知らないのだ。結婚の報告をしただけであるのだから当然である。
「……父上、何故私にウィリアムのことを教えてくださらなかったのですか」
「お前はあいつのことを知ったら頻繁に会いに行ったであろう?」
「それは……」
アルバートは臣下、、家族以外から見れば若干21歳とは思えない手腕を持つアスラート帝国の誇れる皇太子であるが、家族の前では重度のブラコンであった。
弟が生きていると知れば当然、飛んで会いに行ったであろう。
「──さて、どのような反応をするか」
たどり着いた新郎新婦の待合室のドアを前に、面白そうな表情を浮かべてドアを叩く。
「── はい、どなたでしょう?」
予定にない、何者かの来訪に警戒しながらドアを開けたウィリアムは目の前に立っていた二人を見て目を見開く。
「!?」
驚きに声が出ない息子に対して悪戯が成功したような顔をする。
「久しいな、我が息子よ」
「えっ? 父上?兄上まで……まさか、式にも出席されていたのですか?」
「当然であろう、息子の晴れの日なのだから」
「公務は?」
「他の者に任せてきた」
「……取り敢えず、中にどうぞ」
ウィリアムには仕事を押し付けられ、今も城で仕事に追われているだろう宰相を哀れに思いつつ、部屋の中から真っ赤に染まった顔で自分の見ている最愛の女性に目を向けた後で、久しぶりに会った父と兄を部屋に招き入れた。
* * *
「皇帝陛下、ならびに皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
夫となったウィリアムから自分の父と兄が来たと聞かされたリーナは、慌てる内心をおくびにも出さずに、綺麗なカーテシーをした。
「ほう、素晴らしいな……ウィリアムが惚れ込むはずだ。しかし今は忍び、礼は不要だ」
「たまわりました」
突然現れた皇帝に無礼講だと言われても無理な話である。
「それにしても驚きました。まさか、来ていただけるとは……兄上には申し訳ないことを、、全てを押し付けて黙って城を出るなど、、申し訳ありません」
「いや、ウィリアムが生きていると分かっただけで充分だ。結婚、おめでとう」
「ありがとう、、ございます」
しばらく放心していたアルバートは目に涙を浮かべ、ウィリアムを抱きしめながら弟の生存を喜ぶが、少しすると弟の妻となったリーナに目を向けた。
「……令嬢はカトル公爵家のリーナ嬢だろうか?」
「……かつての話でございます。今はただのリーナですので、“リーナ”とお呼びください」
「それは失礼した、リーナ」
リーナの心に何故会ったことのないはずのアルバートが自分のことを知っているのかという疑問が浮かぶが、それを察したように言葉を発したアルバートにより、その疑問はすぐに解消された。
「以前、ウィリアムが貴女の話をしていたからきっと、その令嬢だろうと思ったのだ」
「そなのですか……ウィル?」
「すまない、リーナ、、だがリーナのような素晴らしい女性に出会ったのは初めてで……それにずっと好きだったと言っただろう?」
目の前で新妻を口説き始めた息子、弟に目を丸くする。会わなかった間に随分と変わったものだ、と。
「ともかく、ウィリアムが幸せそうでよかった、、リーナ、これからもウィリアムをよろしく頼む」
「もちろんです、アルバート殿下」
「……“お義兄様”と呼んではくれないか?」
「おぉ、では私のことは“お義父様”と呼ぶように」
「!?」
娘のいない皇帝と、姉妹のいないアルバートは可愛らしい義娘、義妹に甘えてほしいらしい。
しかしながら、リーナは公爵令嬢として皇族を君主として敬うようにと育ってきた。どのように対応したら良いのかと、夫であり皇族の一端であったウィリアムの顔を伺う。
ウィリアムは自分の妻が家族に受け入れてもらえた安堵感と共に頷いてみせる。
「……お、お義父様、お義兄様、、このような私ではございますがよろしくお願い致します」
「うむ」
「あぁ」
血縁のある家族との関係がよくなかったリーナにまた新たな家族が出来た。女神が如きリーナの花が綻ぶような笑顔を見た二人は、リーナへの親バカとシスコンを発揮するようになるであろう。
ウィリアムとリーナの勤め先であるマチルダの食堂に足繁く二人の貴人が、ウィリアムに叱られる様子が度々見られるようになったという。
~~~~~~~~
読んでくださりありがとうございます!
初めて三人称視点で書いてみましたが、、難しいですね(;>_<;)
あっ、作品としては本編完結、という事で“連載中”→“完結”にさせていただきますm(__)m
この後も番外編を書いていきます!
リクエスト等ございましたら、是非!
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