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2章 街で幸せに
22 未来へ
しおりを挟む「カトル公爵令嬢…… 自分の意に添わぬからと他者に手を上げるとは、、貴族としてあるまじき行いであるとは思わないか?」
っっ、私からはウィリアム様の顔が見えませんが、空気が重くなったように感じます。
「う、ウィル様? どうしてその女をお庇いになるのです? 」
「理由はすでに分かっているはずだが?」
「ほ、本気でそんな女と結婚するつもりですか? 貴方のような人には私みたいな可愛い女の子の方が相応しいのにっ!」
「……話にならないな、、カトル公爵からは次女は学園での成績優秀だと聞いていたのだが、偽りか?」
「う、嘘じゃありません! 私は本当に頭がいいんですっ」
「帝国法第十四条」
「へっ?」
「帝国法第十四条の条文は何だ?」
「え、えっと……」
ウィリアム様とミラのやり取りを聞いていて、ミラの学力について感じていた疑心が確かなものになっていきました。
帝国法の条文、、まさか分からないのでしょうか? 帝国法は条文だけならそこまで多くはなく、貴族ならば10歳までに全文を覚えているはずなのですが……。
ミラが答えられずにいると、ウィリアム様が私の顔をみて、「リーナ、言ってくれないか?」と仰いました。
「はい、、“アスラート帝国に籍をおく全民の肉親者への虐待及びそれに準ずる行為、又生存を脅かす行為を禁ずる” です」
この条文の中に7項にわたって細かい取り決めが定められています。
内容としては、躾と称する逸脱行為の禁止、後継者争いの禁止、育児放棄の禁止等、肉親間での争いの抑制や児童保護を目的としたものです。この法は貴賤問わず全帝国民に向けられたもので、反した場合は軽くて罰金、重いと強制労働になります。
言ってしまえば、私を鞭で打ったお母様はこの法を犯していたことになります。証拠もなく、誰にも言えませんでしたが、、
「リーナが諳じた通りだ。帝国法は貴族ならば知っていて当たり前、学園でも入学してすぐに確認をするはずなのだが?」
「ち、ちょっと忘れちゃってただけです!」
もしかして、ミラの学園での成績は不正によるものなのでしょうか?
「……」
「……私がこの条文を聞いた意図も分からないか?」
「ヒッ!」
ま、また空気が重く、、痛くなってきました。
街でならず者達に絡まれた時にも思いましたが、これが皇族の威圧なのでしょうね。自分に向けられたわけでもないのに息苦しく感じます。
「意図なんて知りませんっ、何なんですか!?」
「君の母親のリーナに対する行いは度が過ぎていると思わないか? 今の君の行為もね」
「そ、そんなの私達の勝手ですっ」
はぁ、ミラ……。
この状態のウィリアム様に言葉を返す勇気は素晴らしいですが、このままでは平行線になってしまいます。
「ほう、認めるんだな?」
「み、認めたら私と結婚してくださいますか?」
「 ──衛兵!」
「はっ!」
ウィリアム様の声に書庫の前に待機していた騎士が入ってきてミラを取り押さえました。
ミラは罪という程のことはしていないので、特に何もないとは思うので、別室に連れていかれるだけでしょう。
「何をするの!? 触らないでっ」
お父様に続いてミラまで……縁を切ったとはいえ悲しい気持ちになります。
「……リーナ、帰ろう?」
「はい……」
悲しげに眉を下げるウィリアム様に返事を返すことしか出来ません。
* * *
「──マチルダさん、ただいま帰りました」
「ただいま帰りました。ご心配をお掛けしてしまいすみません」
「あぁ、お帰り! 二人とも無事でよかったよ! リーナが連れていかれた後すぐにウィルも出ていっちまったから心配してたんだ」
食堂に入ると、マチルダさんが待ちかねていたというように駆け寄って、私とウィリアム様の顔を伺います。
「……リーナはちょっと顔色が悪いね。大丈夫かい?」
「……父が税を着服していたようで、、それ以外にも複数の嫌疑が掛かってしまっているらしく、連行されてしまいました」
「アンタはほんっとに優しい娘だねぇ」
「リーナ……すまない。カトル公爵の不正を調べるように指示を出したのは私だ。優しいリーナは気に病んでしまうだろうと分かっていたのだが、、」
ウィリアム様が辛そうに顔を歪めます。
帰ってくるから道中は何も話さず、ただ並んで歩いていただけでした。それもあって心配を掛けてしまったようですね、、
「ウィリアム様は間違いを正してくださっただけです。謝る必要はありませんよ?」
「それでも先に話しておくべきだった」
確かに、ウィリアム様の考えを知っていれば、心の準備も出来ていたでしょう。
「では、もう隠し事はしないでくださいね?」
「あぁ、もちろんだ」
まだ心が晴れたわけではありませんが、ウィリアム様が私に向けた真剣な眼差しに幾分か重荷がとれたように感じます。
「それで、ウィル? 生きていらしたウィリアム様をどうするのですか?」
私もウィリアム様も、まだ社交界に入っていないので私達の顔を知っているのは、同時期に学園に通っていた人だけで多くはないはずです。
まぁ、ウィリアム様の場合は皇城関係者も知っているでしょうし、私の容姿は分かりやすいのでなんとも言えませんが。
「大丈夫、騎士達と私は仲が良いし、カトル公爵家の関係者で私を知っていた者については、父上が対応してくださるらしい」
ちちうえ、、皇帝陛下がわざわざ……。
「皇帝陛下はウィリアム様を大切になさっているのですね」
「あぁ、そうでなければ私はここにいることすら叶わないだろう?」
「ふふっ、そうですね」
そっと私を抱き締めるウィリアム様にくすぐったい気持ちになります。
「アンタ達、アタシもいるんだよ?」
「「!!」」
「まったく……それで、明日は店を開いて大丈夫かい?」
「私は大丈夫です」
「私もです」
ウィリアム様と二人で少し赤くなった顔を見合わせた後で答えると、ウィリアム様も同じように返しました。
「悪いね、本当は休ませてやりたいんだけど、他の奴らも心配してるからね。安心させておやり」
「もちろんです。……マチルダさん、本当にありがとうございます」
マチルダさんに出会えなかったら、ウィリアム様にも会えなかったでしょうし、変わることも出来ませんでした。感謝してもしきれません!
「気にするこたぁないよ、ほら明日も店を開くんだ、早くご飯を食べて休みな」
「はい」
マチルダさんは食事の支度をするために厨房の方へ行ってしまいました。
「ウィリアム様、、いえ、ウィル……あなたも、私を支えてくれてありがとうございます。……愛しています」
「リーナ、、私も愛している。 これからも支え合って生きていこう」
「はいっ……!」
~~~~~~~
読んでくださりありがとうございます
("⌒∇⌒")
次はエピローグとなります!
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