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2章 街で幸せに

17 二人の娘(ファーレン視点)

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 何故だ!? 
 何故、こんなことになっているのだ!?

 あの無能が家を出てから 一ヶ月半しか経っていないというのに、我が公爵家の状態は目に見えて悪くなっている。
 あれに掛かっていた金が浮く分、余裕が出るはずではないのか!?

 ……はぁ、どうやらウィリアム様がいらっしゃった日に執事が言っていたことは本当だったようだな……。
 栄えあるカトル公爵家の者が無能な小娘の手を借りていて、その小娘がいなくなっては仕事が回らないとは……。

 ウィリアム様が亡くなったという話を聞いてからミラも機嫌を直してくれないし、カトレアは新しいドレスや宝石を集めることにしか興味がないし、、まぁ、いくつになっても衰えない美貌を持つ彼女がその身を飾るものを買うのは当たり前だが。

「───旦那様、レクト公爵家のリック殿がいらっしゃいました」 

 あぁ、そういえば、ミラとの婚約について話し合いたいと言っていたな、、ウィリアム様も亡くなられてしまったし、ミラも諦めるだろう。

「わかった、応接室に通せ。私もすぐに向かうと伝えろ、、ミラにも声を掛けて支度させておけ」

「たまわりました」


* * *


「ようこそ、リック殿。お待たせしましたな」

「お久しぶりです、カトル公爵。本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、ミラ嬢との婚約の話早めに進めていただきたく……」

「もちろんだとも! こちらの事情で遅くなって申し訳ない、、今日にでも手続きをしようじゃないか。婚約式など大々的なものは後日になってしまうがな」

「本当ですか!? ありがとうございます。レクト公爵家としては出来る限り早い婚約を望みます」



「─── お父様、何ですか?」

 リック殿と話していたらミラが来たようだが……。

「ミラ、ノックと挨拶くらいはしなさい」

「……は~い。お父様、リック様、ごきげんよう」

 ふむ、流石はミラだウィリアム様が亡くなったと聞いてから部屋に閉じ籠っていたが、学園で上位にあるに相応しいカーテシーだ。

「あぁミラ、久しぶりだね。会えて嬉しいよ」

 リック殿に微笑みを返して空いている席に座る。
 うむ、二人の仲も良好みたいでよかった。これなら問題ないだろう。

「今、リック殿とも話していたのだがお前達の婚約を今日にでも結んでもらいたい」

「えっ!? そんな、なんでですか? 嫌だと言ったじゃないですか!」

「? 元々そういう話だっただろう。二家の婚姻は国の意志でもあるし、以前から二人は仲がよかったじゃないか」

「嫌です! 私はウィリアム様みたいな人と結婚するんです!」

「ど、どういうことだい? ミラ、君は僕を愛していると言っていたじゃないか」

「あんなのお姉様を悲しませるために決まってるじゃないですか! リック様は武術に優れていて、身分もいいですけど容姿は十人並みですもの」

「ミラ! なんということを言うんだ」

 やはり、ウィリアム様の逝去を引きずって感情時になってしまっているのだな。
 それにしても、、確かにリック殿の容姿はミラと並ぶと明らかに見劣りするが、リーナあの無能の普段の姿に比べたら遥かに優れた容姿だ。
 髪も瞳も茶色と特徴はないが、顔の造形は貴族としては十人並みというだけで優れた方である。

「……カトル公爵、どういうことですか? 婚約が整わないのはリーナ嬢が家出して忙しいからだと聞いていましたが」

「いや、実はな、、一月程前に皇太子であったウィリアム様がいらっしゃっいましてな。ミラが一目惚れしてしまったようで……申し訳ない」

 実を言うと、あれが出ていってから忙しかったのは事実だが、ミラが拒んでいたというのが大きい。
 ウィリアム様の訃報を聞いて一週間程経ったから大丈夫だと思ったのだが……。

「……ミラ、これは家同士の婚約であるのだ。ウィリアム様のことはもう諦めなさい」

「嫌よ! お父様だって協力してくれると仰ったじゃない!」

 確かに、ウィリアム様がいらっしゃった時にはあまりに似合いな二人の姿にそのようなことを言ってしまったが、、

「……普通に考えれば、貴族我々の婚約は国のためのものだ。第一、ウィリアム様は亡くなってしまったのだぞ?」

「そんなわけないわ! ウィリアム様が私を置いていくわけないもの! それに、お父様達だって恋愛結婚じゃない!」

「そ、それは……」

 ミラの言うとおり、私の本来の婚約者はカトレアではなかった。しかし、夜の精霊のような彼女に一目惚れした私は当時の婚約者との婚約を破棄し、カトレアと結婚した。もちろん、父である先代公爵からは激しく反対されたが、強引に押し通した。

「いや、これは国の意志なのだ。リック殿だっていい男じゃないか?」

「なんで……お父様は私が可愛くないのですか?」

「可愛いに決まっているだろう。だからこそリック殿との婚約を薦めているんだぞ?」

「ミラ、そこまで僕が嫌なのか? それに、実の姉を苦しめようと考えていたのか?」

「リック様だって同じじゃないですか」

「……カトル公爵、申し訳ありませんが、今日は帰らせていただきます」

「いやリック殿、少し待ってくれ!」

「それでは、また後日」

 リック殿は私の静止を聞くことなく部屋を出て行ってしまった。
 ミラ………。少し我が儘なところはあるが、それも可愛げがに感じられる、立派な淑女になったと思っていたのに。

「ミラ、自分が何をしたのか、わかっているのか?」

「お父様、なんで怒っているんですか?」

「……いや、そんなわけないさ。すまなかったね、部屋に戻りなさい」

「はーい」

 ミラは妖精のように可愛いのだ。このくらいの我が儘、許して当然だな。
 しかし、このままで我が公爵家の状態は悪化の一途だ。考えずらいが、レクト公爵家との婚約まで失くなってしまったら……。

 おぉ、そうだあれを呼び戻して仕事をさせればいいではないか!
 公爵家当主の父たる私から直々に任されたとなれば、あれも喜ぶだろう。

「誰か! の足跡を追え、今すぐだ!」



 







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