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1章 街へ

2 街の食堂

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 ………どこか食事が出来る場所はないでしょうか?

 街に出たのが初めてなのでまったく分かりません、、

 公爵家を出る時に持ってきた荷物も重いので、何処かで休みたいですのですが……。

「───お嬢ちゃんどうしたんだい?」

 誰でしょうか?
 歩いていたら、後ろから声をかけられました。

 私に声をかけたのは40代くらいに見える栗色の髪をした優しそうな女性でした。
 この人なら、食事が出来る場所を知っているでしょうか?

「あの……何処か食事ができるところをご存知ありませんか?」

「なんだい! お腹が空いてんのなら、うちの食堂においで!」

「おば様は食堂を営んでいるのですか?」

「アタシは“おば様”なんて柄じゃないよ! あそこにある食堂の女将をやってるマチルダだ」

 なんという幸運でしょう、たまたま声をかけてくださった方が食堂の女将だったとは。

「ご迷惑でなければ、お邪魔させていただきます」

「あぁ! 大歓迎さ!」



* * *


 今、マチルダさんが私の食事を作ってくれているのですが、楽しみです。

「───さぁ、出来たよ!」

「マチルダさん、ありがとうございます!」

 マチルダさんが持ってきてくれたのは、いい匂いのするハンバーグでした。


「~~~美味しいです!」

「そりゃあ良かった!」

 貴族の料理は自分の家の財力を示す手段なので、美味しそうなのは見た目だけで、味は微妙なのです……。
 高価な香辛料を大量に使って味が濃すぎるとか、希少だけど万人受けはしない食材が使われているとか。

 あぁ、このハンバーグは私が今まで食べた料理の中で一番美味しいです!

 私は夢中になって食べてしまったので、あっという間に食べきってしまいました。

「……それで、お嬢ちゃんは何処から来たんだい? この辺の人じゃあないだろう?」

「 申し遅れました、私はリーナと申します、、詳しいことは言ず申し訳ございませんが、この街に来たのは初めてです」
 
 本当は生まれてからずっとこの街にいましたが、この領の領主一族の元貴族だなどと言って警戒されたくありません。

「リーナ、アンタ貴族様じゃあないのかい?」

 えっ?
 バレているのですか?

「何故、、そのように思ったのでしょう?」

「はは! アタシたち平民はそんな丁寧に話さないからね。そんな綺麗な服もめったに着ないしね」

 なんという事でしょう……。
 話し方だけでバレてしまうなんて、、妹であったミラ以外に対しては常に敬語で話していたので失念していました。
 お洋服ですか……一応、一番地味な物に着替えたのですが……。

「……はい。貴族ですが、です。今日、家を出てきました」

「どうしてだい?」

「家族が嫌になりまして……」

 ……ずっと、嫌だったんです。

「───じゃあ、これから何処で生活するんだい?」

 まだ、決まっていませんが、どうしましょう……。

「これから、探そうかと、、」

「なんだい、まだ決まってないなら、ここの二階を使うかい? わけありなんだろ?食堂の仕事を手伝ってくれんなら、こっちも大助かりさ!」

 マチルダさん、なんていい人でしょう!
 食事をご馳走してくださっただけでなく、泊まる場所。さらには仕事もやらせてくださるなんて!

「いくらでもお手伝いします!どうかこちらに泊めてください!」

「よしきた! リーナ、これからよろしく頼むよ!」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

 こうして私はマチルダさんの食堂でお世話になることになりました。


* * *



 今日は見学ということで、マチルダさんの仕事の様子を見させていただいたのですが、大変そうでした。

 お昼の時間帯にはたくさんの方がいらっしゃったのに、従業員がマチルダさんだけのようです。

 マチルダさんが一人でお料理を作り、それをお客さんに持っていって、食器を洗い、テーブルを拭いて……とても大変そうです。

 私も、明日から頑張りましょう!



 その日の夕方、マチルダさんが二階のお部屋に案内してくれました。
 お部屋は思っていたよりも広くて、お風呂まで付いていました。

「じゃあアタシは夕飯を作ってくるから、アンタは風呂に入るなり、少し寝るなり好きにしてな!」

「はい! ありがとうございます」

 さっそくお風呂に入って体を綺麗にして、メイクを落とします。

 公爵家では、自分の部屋にいる時にしか本当の自分でいられませんでしたが、これからは自由です!


* * *


「リーナ~! 夕飯が出来たよ!」

 お風呂から出てゆったりしていると、マチルダさんの声が聞こえました。
 夕食、楽しみです!

 私は階段を降りて、マチルダさんがいる食堂に向かいます。

「マチルダさん、お待たせしました!」

「!?……誰だい? ……女神様かい?」

「えっ?……いえ、リーナですが、、」

 女神様なんて言われて驚きました。
 思わず後ろを確認しましたが、マチルダさんの視線は明らかに私を向いていましたので。

「えぇっ!? リーナかい……アンタ、随分な別嬪さんじゃないかい!」

「あ、ありがとうございます……」

 お父様とお母様からはこの姿でも『見るに耐えない』と言われていたので、、その結果、カツラを被ってさらに酷くなってしまいましたが。

「………リーナ、食べながらでいいから、なんで貴族のアンタがあんな変装みたいなことをして、家を出たのか教えてくれるかい?」

 マチルダさんは私を心配してくれているのでしょうが、人様に聞かせていい話なのでしょうか、、

「あまり、、気分のいい話ではありませんよ?」

「それでも、これから一緒に暮らすんだ。知っておきたいと思うだろう?」

 ……初対面の私などに、、本当に優しい方ですね。

「分かりました、、でも、食事の後でいいですか?」

 今は目の前にある美味しそうなご飯を食べたいです。

「はは!好きにしな!」

 夕食は柔らかいパンと野菜のスープでした。
 やっぱり、マチルダさんの作る食事は美味しいです!






 



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