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1章 街へ

1 自由への一歩

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「お父様、本日より私は、カトルの姓を捨て、平民として生きたく思います」

 皆様こんにちは。
 リーナ・カトルと申します。
 今日は私の18歳の誕生日で、今は私の実父に家との縁を切りたいとお願いしているところです。

「はっ! 無能で汚らしい無駄飯食らいめ、やっと出ていく気になったのか!」

「お許し頂けるのですか?」

「さっさと出ていけ!」

 父親が娘に言う言葉ではないと思いますが、意外とあっさり許可がもらえましたね。
 お父様は私と目を合わせようともしません。まぁ、それは物心ついた頃からずっとなのですが……。

「……それでは家を出ますので、今後私に関わらないよう、お願い致します」

 せっかく手に入れた自由な生活の邪魔をされたらたまりません。

「ふんっ、私にはカトレアに似て美しく成績優秀なミラがいるんだ! 縁を切ったお前に関わる必要などない!」

「……そうですか。それではお父様これまでお世話になりました。どうかお元気で」

 
 ふぅ、、
 やっと、やっと解放されたんですね……!
 今日は人生で最高の誕生日です。
 どうして私がこんなにも喜んでいるかと言いますと、私は家族から嫌われていて、抑圧された世界で生きていたんです。

 私が今、縁を切ったのはアスラート帝国のカトル公爵家の現当主ファーレンです。

  私はカトル公爵家の長女だったのですが、母と妹からの嫌がらせがそれはもうすごくて……。

 私は今、茶髪にそばかすのある醜女ですが、それも身を守るためだったんです。

 家から出たらすぐ、本当の自分に戻りたいです!

 私の本来の髪色はプラチナブロンドで、目は隠れてしまっていますが青銀なんです。
 髪の色も瞳の色も父ファーレンと同じで、カトル公爵家特有の色彩です。

 そのことを家族は忘れてしまったようですが……。

 煤けて見える肌も汚すためにつけている灰を落とせば白いですし、顔もわざと描いているそばかすのメイクをとれば多少はよくなると思うのですが……。

 ……母のカトレアは黒髪に黒眼の美しい人です。でも何故か私が5歳になった頃、私の容姿が気に入らないらしく、『肌を汚してカツラを被れ』と命令しました。
 当然、何故か尋ねましたが、頬を叩かれてしまいました。酷い時には鞭まで持ち出して、、

 そばかすは妹のミラからのお願いです。

 ミラは私より3歳下で、お母様と同じ黒髪黒眼の妖精のように可愛らしい子なのですが、私のドレスを破いたり、勉強道具を壊したりすることがよくあります……。

 ─── もう疲れました。早く家を出て自由になりたいです。

 お母様もミラも自分たちが私に強制したのにそれを忘れてしまっているんです……。

 数年前からは『不衛生な肌ね!娘だなんて思いたくないわ!』とか『お姉様にはボロボロのドレスがお似合いですよ?』とか……そんな事しか言われません。実の娘と姉をここまで毛嫌いする理由が分かりません。

 それに、お父様は私を“無能”と言っていましたが、13歳から15歳まで通った学園ではどの科目も3年間、ずっとトップの成績だったんですよ!?

 お母様とミラから何かされると嫌だったので、家族に言ったことはありませんが……。

 学園での生活も辛かったです。
 私はお母様からの命令で学園でも茶髪のカツラを被っていたので、私の髪色は父とも母とも違っていました。そのために陰では“汚らわしい私生児”と呼ばれていたらしいです。親切なご令嬢が教えてくださいました。

 本当の髪色はカトル公爵家の血統を示すプラチナブロンドでしたのに、それを明かすことも出来ませんでした。

 カツラの前髪が長くて目が隠れてしまっていたせいで、“根暗女”、“陰気女”なんてあだ名もありましたね。

 まぁ、そんな私に近づく人なんていませんから、仲の良い友人もいません。

 ……一人だけいましたね、、

 このアスラート帝国の第二皇子のウィリアム様は私に話しかけてくださいました。

 ウィリアム様は黒髪に緑金の瞳の容姿端麗な方で、女子生徒に大変な人気でした。

 今、彼はどうしているでしょうか……?


「─── あら、お姉様どうかされたのですか?」

 荷物をまとめるために自室に向かっていたら、鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえました。

 ……ミラ、、正直、会いたくはありませんでしたが、別れの挨拶くらいした方が良いでしょうか?

「………今日でこの屋敷を出ていくことにしたの」

「まぁ、そうなんですか!? ……お姉様は醜いお顔のせいで婚約者にも捨てられてしまったのですねぇ…。もう、貴族令嬢として生きていくのは厳しいのですか? 婚約者に捨てられたから平民になるしかないのでしょう?」

 ………婚約者??
 
 ─── あっ! いましたね!!
 随分お会いしていないので、お顔が朧気ですが、、

 レクト公爵家の次男で、入り婿という形で私と婚姻する予定だったと思います。お名前は……確か、リック様だったでしょうか? 私が6歳の頃に婚約を結んだのですが、以降顔を会わせておりませんでしたので、、
 最近は、ミラと仲が良いみたいですね。頻繁にお会いしていると侍女が噂話をしているのを聞いたような覚えがあります。

 ………ミラは私が婚約者に捨てられたから出ていくのだと思っているのですね。
 まぁ、それでもいいです。

「えぇ、ミラ、元気でね」

「お姉様……いえ、?もう貴族じゃないんでしょう? 礼儀は守ってくださいな」

「………そう、、ですね。ミラ様、お元気にお過ごし下さい」

 早く出ていきたいです。



* * *


 お父様……カトル公爵様にお話ししてから1時間後、私は公爵家の門を出ました。

 時間はまだ10時です。

 やっっっと、自由です!!

 使用人たちは私を引き留めようとしていたので申し訳ないですが、長年の願いが叶いました!

 あぁ、そういえば、今後の公爵家の運営は大丈夫でしょうか?
 ここ2年くらいは公爵領の管理、財政管理、他家との関係の保持……もろもろ私がやっていたのですが、、

 まぁ、もう関係ありませんが。

 さて、これからどうしましょう?
 実は何も計画を立てていないのです……。
 正確に言うと立てられなかったと申しますか、、一応は公爵家の長女でしたので人目がありましたし、あの屋敷に私を手伝ってくれる人もいませんでしたから。
 気遣ってくださる方はいるのですが、お母様を恐れているみたいで……。
 一応、普通に過ごせば一年は生活できる程度の金銭は持ってきました。


 ……朝食を食べていないのでお腹が空いてしまいました、、まずはどこかで食事をしましょう。

 その後は、泊まる場所と仕事を探して、、
 やることは山積みですが、これからの生活が楽しみです!











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