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4章 始まりの乙女
25 . 想いが眠る地
しおりを挟む翌日、いつもと同じように登校する。
結華ちゃんはいつも、私が教室についてから15分経った頃に教室に入ってくる。
私は登校する様子を見られるわけにはいかないから、始業時間よりもだいぶ早く登校しているけど、結華ちゃんも他の生徒と比べるとかなり早い時間に登校してくる。
私と同じく最近の結華ちゃんの様子を心配している加奈ちゃんや晴海ちゃんには申し訳ないけど、2人がいないうちに……他の生徒が少ないうちに確認したいことがある。
……私は“始まりの乙女”はかつての結華ちゃんだと確信している。
月読様が『過去を取り戻しつつある』って仰っていたから、結華ちゃんが現時点でどのくらい当時のことを思い出しているのかを確認しておきたい。
それに、“想いが眠る地”というのを見つけなきゃいけない。
……“始まりの乙女”としての記憶を完全なものとするために。
その場所にどんな想いが眠っているのかは分からないけど、千年以上の気が遠くなるような永い時が流れても色褪せない、強い想いなのだと思う。
きっと、何も知らない私よりも過去を取り戻しつつあるという結華ちゃんの方が、気が付くことが……感じるものがあるはず。
「──咲空ちゃん、おはよ。ふふっ、今日も早いね」
日本史の問題を解きながら結華ちゃんが来るのを待っていると、10分も経たないうちに結華ちゃんが登校してきた。
「おはよう、結華ちゃん」
……教室には私たち以外いないし、このまま話しちゃおう。
「ねぇ、結華ちゃん。結華ちゃんに思い出の場所ってある?」
「思い出の場所?」
「うん」
「思い出の場所かぁ……うちの近くの公園かな? ふふっ、突然どうしたの?」
「ん~、なんとなく気になっちゃって」
「そっか?」
「うん」
唐突な話題だったから首を傾げられてしまったけど、このくらいなら大丈夫だよね……?
変に過去世の記憶を刺激してしまったらどうしようという不安はあるけど、“想いの眠る地”を見つけるための一番の近道になるのは、本人に直接尋ねることだろうし、月読様があの啓示を私にも聴かせた理由は、麗叶さんでは難しいことがあるからだと思う。
そして、私にできて麗叶さんがするのは難しいのは人間との直接の対話。
……全能である麗叶さんは大抵のことは出来てしまうから、麗叶さんが為すのが難しくて私にできることと言われると、これくらいしか思いつかない。
「他には? 気になる場所とかでもいいんだけど……」
「気になる場所は……駅前に新しくできたケーキ屋さんかな。あっ、あとは進学する大学!」
パンッと手を打って答える結華ちゃん。
結華ちゃんが進学する大学……
……そういえば、結華ちゃんの進路決定はなかなかに特殊で、『なんとなく』で志望校を決めたと言っていた。
大学調べをしている時に突然『ここに行きたい』ってなったって……
「っ、オープンキャンパスとか入試で実際に行った時はどんな感じだったの?」
「? そうだな……おかしいんだけど、懐かしい感じだった。大学調べで写真見た時からなんとなく気になってたんだけど、実際に行ってみたら不思議な感じがしたんだ」
「……」
「私の行く大学、古い石碑があってね」
「石碑……?」
「うん。キャンパスの奥の方にあるからまだ直接は見られてないんだけど、気になって」
物静かで慎重な結華ちゃんらしくない受験の動機。
それは、結華ちゃん自身もよくわからないという衝動に基づいたものだった。
「学校ができるずっと前からある石碑で、パワースポットにもなってるみたい」
まるで、魂に導かれているかのような……──
「楽しみだなぁ」
──……あぁ、彼女はそこにいるんだ。
永い時が流れてその身が地に還っても、想いだけは潰えることなく……その地に。
きっと、彼を待ち続けているのだろう。
いつかの世で終ぞ叶わなかった彼との再会を夢見て、天に昇らなかった魂の欠片がその地に留まり続けている。
……それは、どれほど強い想いがあれば成し得ることなのだろう?
「……私も行ってみたいな」
「ふふっ、今度一緒に行く?」
「部外者が入ってもいいの?」
「うん。一般にも開放されてるから」
「本当? なら一緒に行きたい」
「よかった~ 近いうちに行きたいなって思ってたんだけど、一人で行くのもなって思ってたんだ」
「そうなの?」
「うん。急にはなっちゃうんだけど、今週の土曜日って空いてる?」
土曜日はなんの予定もない。
日曜日は琴さんと水上先生と会う予定だったけど。
「うん。1日空いてるよ」
「じゃあ、その日に一緒に来てもらってもいい? 来週の修業式が終わったら冬休みに入っちゃって家の用事があるだろうし、3学期になったら休みの日も勉強で忙しいだろうから」
「ふふっ、楽しみだね。……それにしても、もう2学期も終わりなんだね」
「ね。あっという間だったなぁ」
「それで、咲空ちゃんは?」
「私?」
「咲空ちゃんは思い出の場所とかあるの?」
「私は……この学校かな。まだ通ってるから“思い出”にはなってないかもしれないけど」
「学校か! 私も高校生活にはいろんな思い出があるなぁ。卒業までにもっと思い出を増やして、素敵な思い出の場所にしたいね」
「うん」
「──おはよ~!」
「晴海ちゃん! おはよう」
「おはよ。……あれ、加奈ちゃんは?」
「加奈は寝坊。待ってたらアタシも遅刻しそうだったから置いてきちゃった」
「加奈ちゃんらしいな」
「ね。でも、なんだかんだで間に合うことが多いし、今日も間に合うんじゃない?」
「間に合わないこともあるけど、加奈の本気はすごいからね~」
「あと3分……間に合うかな?」
「さぁ?」
3分後、チャイムと同時に勢いよく開かれるドアの音。
今日も穏やかな時間が流れていく。
……過去世の記憶が、彼との再会が、結華ちゃんにとってどんな意味を持つものなのか私には想像もつかない。
“過去を取り戻す”ことで結華ちゃんがどうなるのかもわからない。
……でも、どうか……その過去が、優しい彼女を苦しめるだけのものではありませんように。
~~~~~~~~~
読んでくださりありがとうございます(*^^*)
展開早くね? というツッコミはなしの方向でお願いしますm(。_。)m
謎に最終話っぽい雰囲気になってましたが、それも『穏やかな日々だな』と流していただければ……
そして、やらかしました。
自分でも時系列がごちゃついてるなって思ってたんですけど、スポーツ大会編(9月下旬)のあとバビュンと時間を進めたので、決戦は11月末、この話は12月の中旬(クリスマスの前週)のイメージなんですよね……
ハロウィンも推薦入試の時期終わってるやんorz
と、いうことで捕捉です。
結華ちゃんと晴海ちゃんは推薦試験でそれぞれ合格しており、進学先が決定しています!
(晴海ちゃんは地元の国立大学の教育学部、結華ちゃんは音大の声楽コース)
2人とも合格おめでとう&お疲れ様~!
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