妹しか見ない家族と全てを諦めた私 ~全てを捨てようとした私が神族の半身だった~

夜野ヒカリ

文字の大きさ
上 下
88 / 107
4章 始まりの乙女

17 . 姫野颯斗の追憶⑨

しおりを挟む


 先週は投稿できなくてすみませんでしたorz
 駆け抜けてしまったので話が薄っいですし、颯斗君の気持ちも表現しきれていませんが、過去軸はこれでラストになりますm(__)m

~~~~~~~~~~



 祖母ちゃんが死んだ。

 祖母ちゃんが亡くなったのは俺が大学1年生の秋……6年前らしいけど、俺がそれを知ったのはその半年後のことだった。祖母ちゃんに会ったあの日から3年後ことだ。

 結局、俺が隠れて家族の様子を見に行っていることは祖母ちゃんに会ったすぐ後、師匠にばれてしまった。
 すごく怒られたけど、師匠の話を聴いて軽率で、みんなを危険に晒す行為だと反省している。

 ……そして、師匠と約束して家族の様子を見に行くのは1年に1回と約束した。

 回数が減ったのは、美緒─件の妖が警戒を強めたからだ。
 ……弱っている力を取り戻し始めているのかもしれないというのが師匠の推察だったが、陰陽師が傍で監視しているということがばれてしまっては刺激を与えることになるという判断から、常時ついていた監視は取り払われ、週に1回様子を見るだけになった。
 最も警戒されるであろう俺に許されたのは年に1回、それでも自分の目で家族の様子を確認できるのはありがたかった。

 ……常時監視がついていた頃には祖母ちゃんがい尋ねてくる様子も確認できたが、週に1回少し様子を窺う程度では、妖の現状を確認する程度しかできない。ある時から咲空の元気がなくなったということは分かったらしいが、対して調べられなっかったためにその原因はわからなかった。


『本当にどうしてかしらね……貴方のことは信じていいと感じるの』


 俺にそう言ってくれた祖母ちゃんは、咲空の心の拠り所になってくれていた祖母ちゃんなもういない。
 唯一の理解者を失った咲空のは、1年で様変わりしてしまった。式を介して見ただけでも、表情が抜け落ちて何も映していない瞳になってしまったということがわかった。

 ……1つ幸いだったのは、祖母ちゃんは自分の宝物であるエメラルドのネックレスのチェーンを俺が渡したものに付け替えて咲空に渡してくれたことだ。あれは何かあったらあの御守りが咲空を護ってくれるだろうし、咲空の心が完全に壊れないようにしてくれると思う。エメラルド自体にも特別な力が宿っているように見受けられたから、何らかの守護があるかもしれない。

 ……考えようによっては、 心が壊れない状態で縛り付けられるというのは酷なことなのかもしれない。苦しみから逃げることが許されないということなのだから。

 その現状に焦った俺は、咲空を誘拐してでも連れ出そうとしたこともあった。
 しかし、その考えは阻止されてしまった。
 ……妖の大群が現れたのだ。本来妖は群れたりしないはずの妖が大量に。

 わかる範囲では美緒の動きに変化はなかったらしいから、ただの偶然だったのかもしれないけど、街一帯が穢れに塗れるというのはどう考えても異常だった。

 そして、下手な行動は咲空を危険に晒す行為に他ならない、そう悟った。

 ……正解がわからない。今の現状は事態を悪化させることはなくても苦しんでいる咲空を見守ってるだけで、何も変えることができない。かと言って咲空の命を危険に陥る恐れがある行動を侵すというのも問題がある。



 事態がが急変したのは、祖母の死を知ってから3か月後だ。不測の事態が起きた。

 毎週のように担当陰陽師が確認に行ったら、1週間前まで一家が暮らしていたはずの家はもぬけの殻になってしまっていたのである。

 1週間前には引っ越すという気配なんて全くなかったというのに、突然消えてしまったのである。
 聞き込みをしても何も分からない。役所に聞いても分からない。
 陰陽師の権力を使ってもだ。

 何とか引き出せたのは『次女が神族の半身と判明したため、安全を考慮して引っ越した』それだけだった。
 変に納得してしまった。強大な力を有する神族の一番の弱点は半身だ。その弱点を陰陽師とはいえ不特定多数の者達に漏らすということはできないのだろうと。

 ……『次女』ということは、神族の半身になったのは美緒だ。
 その神族何者なのか、どこに引っ越したのかはわからなかったが、神族ならば美緒の中にいる者の存在に気が付いてくれるだろうと期待した。




* * *




 家族の行方が分からなくなってから不安とやるせなさを感じながらも、俺を突き動かす声に従って大学で勉学に励み、いつか再会できることを願って陰に日向に妖を祓い続けた。

 そうして4年が経とうとしていた頃、俺に辞令が下った。
 去年は大学を卒業して、順調に教員になる予定だったものの急に妖の動きが活発化したために断念した。陰陽師があまりに不足していたため、普段は別の職に就いている人達もみんな妖祓いに当たったのだ。
 
 そんな限界状態の中で、俺に下された辞令はとある高校の調査。 俺が教員を志望していて、教員採用試験には合格していたことから抜擢されたのである。……実は俺が受けたのは中学校教員の募集区分だったから、ちゃんと高校で教鞭をとれるだけの力があるかなどは審査された。
 それを突破したわけではあるけど、自分自身でも若すぎるし経験不足だと思う。

 ……まぁ、適任が俺しかいなかったし、こんな時だけど念願がった教員になれるのだ、陰陽師としても教員としてもしかっりやろう。

 俺がその高校に行くことになったのは、全国で妖が大量に出現し、生命力が豊富な子供たちが集まっている学校という環境は穢れの被害に合っているというのに、その学校では妖はおろか穢れさえないというからだ。
 良いことなんだろうけど流石におかしいし、何かあるのかもしれない。


 赴任先の学校に行ったとき、まず驚いたのはその空間の清浄さだ。
 掃除が行き届いているという意味ではない。不浄なものを寄せ付けない、言うなれば聖域のような場所だった。


 そして迎えた職員会議で俺はそれ以上に驚くことになる。


 ……思ってもいなかった。まさか、ここで咲空に再会できるなんて。
 職員会議で咲空の名前を聞いたときは驚いたし、同姓同名の別人ではないかと疑った。

 さらに驚いたのは、咲空が神族の……それも天代宮様の半身になっていたことだ。
 俺が知っていたのは『次女が神族の半身と判明した』という話だけだったけど、まさか咲空も神族の半身だったなんて……

 ただし、家族の問題は相変わらずのようだった。咲空は雲上眩界にある天代宮様の邸から通学しており、そのことを家族は知らないという。
 副担任として資料を見ると、美緒や父さん、母さんの名前があったが、住所の欄は空欄になっていた。担任の早川先生に確認したら「姫野さんは妹さんも神族の半身なので情報保護のために記載していないんです」とのこと。早川先生は昨年度も咲空の担任だったらしく、教えられる範囲で色々なことを教えてくれた。

 天代宮様がそばにるのなら、俺が自分のことを明かしても、兄として接しても大丈夫なのかもしれない、そう浅ましく期待して迎えた始業式の日、咲空の表情は4年前最後に見た時よりもずっと明るくなっていた。
 ……きっと、半身である天代宮様が咲空の凍り付いた心を解かしてくれたのだと思う。……兄なのに結局は何もできなかった自分が情けない。
 兄なのに、咲空が一番辛い時に傍にいてやることができなかった。

 咲空とは目が合ったものの、兄と名乗ることなどできなかった。

 そして、咲空を見て悟ったことがある。
 この学校の異常なまでの清らかさは咲空によるものだ。穢れのように見えるわけではないから確証はないけど、咲空が発する空気が他とは違うように感じた。













しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

自分こそは妹だと言い張る、私の姉

神楽ゆきな
恋愛
地味で大人しいカトリーヌと、可愛らしく社交的なレイラは、見た目も性格も対照的な姉妹。 本当はレイラの方が姉なのだが、『妹の方が甘えられるから』という、どうでも良い理由で、幼い頃からレイラが妹を自称していたのである。 誰も否定しないせいで、いつしか、友人知人はもちろん、両親やカトリーヌ自身でさえも、レイラが妹だと思い込むようになっていた。 そんなある日のこと、『妹の方を花嫁として迎えたい』と、スチュアートから申し出を受ける。 しかしこの男、無愛想な乱暴者と評判が悪い。 レイラはもちろん 「こんな人のところにお嫁に行くのなんて、ごめんだわ!」 と駄々をこね、何年かぶりに 「だって本当の『妹』はカトリーヌのほうでしょう! だったらカトリーヌがお嫁に行くべきだわ!」 と言い放ったのである。 スチュアートが求めているのは明らかに可愛いレイラの方だろう、とカトリーヌは思ったが、 「実は求婚してくれている男性がいるの。 私も結婚するつもりでいるのよ」 と泣き出すレイラを見て、自分が嫁に行くことを決意する。 しかし思った通り、スチュアートが求めていたのはレイラの方だったらしい。 カトリーヌを一目見るなり、みるみる険しい顔になり、思い切り壁を殴りつけたのである。 これではとても幸せな結婚など望めそうにない。 しかし、自分が行くと言ってしまった以上、もう実家には戻れない。 カトリーヌは底なし沼に沈んでいくような気分だったが、時が経つにつれ、少しずつスチュアートとの距離が縮まり始めて……?

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました

来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」 突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・ サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...