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2章 巡り逢う者達
18 . 愚者
しおりを挟む(杉野さん視点)
「ちょっと悠里、急にどうしたワケ?」
「ちょっと黙って!」
「なっ……!」
もう、いない……?
あれは何だったの……?
* * *
あの頃……中学校生活がちょうど半分終わろうとしていた頃、私は何の変化もなく繰り返される毎日に飽き飽きしていた。
入学してすぐの頃に『お腹空いたからクッキーちょうだい』って言ったのに、クッキーどころかチョコの一欠片すらくれなかった子がいたから、お兄ちゃんと友達に頼んでちょっとお仕置きしてもらったことがあったのね? だけど、その子が本当に弱っちかったワケ!
まぁ、そのお陰でみーんなが私のお願いを聞いてくれるようになったからいいんだけど、退屈で退屈で……!
そんな時に同じクラスに転入してきたのが姫野。ガッカリだったよね。みんな「転校生!?」に感じに楽しみにしてたのに来たのがアレだったんだから。
中2の秋頃だったかな? 急にウチの学校に転入してきたの。1コ下の妹と一緒にね。
いっつも自分の席でポツンと座ってて、陰気な空気を振り撒いて……『暗くて性格が合わなそーっ』ていうのはモチロンだったんだけど、なーんかムカついたんだよね。
アイツが傍にいると原因不明なイライラに襲われるワケ。たぶん、私だけじゃなくてみんながそうだったと思うんよ。みんな、アイツと接する時は気が立ってたから。
で、そんな不気味なやつだったんだけど、私は教室以外でも接点があったの。部活なんだけど、いやぁ、本当に助かったわ。
私、絵を描くのは結構好きなのね? 自分の世界観を表現できるって感じがあるから。
だけど、用意とか片付けがダルいんよ……。屋外で絵を描く時は絵画スタンドとか運ばなきゃだし、終わったら終わったで筆洗ったり、使った道具片付けたりとかあるし……
アイツが来てくれたお陰で準備と片付けの時間まで楽しくなった。私にビクビクしてるのも面白いし、アイツなら使っても先生が何も言わなかったから。
私の場合、片付けとかは頼めば他の部員達でもやってくれた。実際、アイツが来るまではそうしてたし。
だけど、あんまり他の部員にやらせ過ぎると先生から『杉野さん、自分でやろっか~』とか言われちゃって……マジでウザ過ぎでしょ。
その点、アイツなら使っても先生は何にも言わないどころか、先生自身も自分の仕事の雑用やらせてたりしたし。あっ、バケツの水浴びせた時も何も言われなかったな。
いや、あれはケッサク!汚れた水被ったくせに無反応で、少しの沈黙の後で謝ってくるんだもん。
その後も普通に学校来てたからつまらなくて、いつになったら反応するかな~って何回も繰り返した。
……ま、何回繰り返しても、反応を示すことなんてなくて、最終的には慣れたのか、何も映さない目で苦笑するようになった。……あれは不気味だったな~
とまぁ、私から見たアイツはそんなヤツ。
暗くて無表情で何考えてるのかまったく分からない、教室でも浮いてて、ある日からは顔に大きな怪我をして前髪を伸ばし始めた。さらに陰気になったアイツにどんな目的であれ話しかけるヤツはいなくなった。
……なんか呪われそうだったんだもん。
妹ちゃんは“明るくて元気!”って感じで何もしなくても人から好かれてたのに、アイツは何もしなくても人から嫌われていた。
しかも妹ちゃんは神族の半身! 神族ってリアルにいたんだって思ったし、仲良くなる他ないでしょ?
親切にしてれば恩恵を受けられるかもしれないし、そうでなくても、あんなイケメンと話す機会があるかもしれないんだから。
毎日妹ちゃんのお迎えに来てたけど、女子は見かける度にキャアキャア言ってた。
あっ、中3の時に担任だった水上はアイツに優しかったかも? アイツへの当たり方が他と違ってたし、クラスの連中が嫌がらせするのを止めようとしてたから。
それで行動変えるヤツなんていなかったけどね。
今日、いつもツルんでる子達とショッピングモールに来ていたら、アイツかもしれないってヤツがいた。
ホント、大分変わってたし雰囲気も違うしで確証なかったけどね。一人じゃなくて、友達っぽい人といたし。私が知ってるアイツはいつも一人だったからね~
でも、どことなく妹ちゃんに似た顔立ちだったし、声に聞き覚えがあったから一応確認してみたってワケ。まさかの本人だったけどね。いやぁ、もしかしてとは思ってたけどビビったわ。
『あれ~? もしかして、姫野ちゃん?』
『えっ……?』
『うわ、ガチで!? 変わりすぎててパッと見じゃ分かんなかったわ~』
『す、杉野、さん……』
『お~、よく覚えてたね? ……ま、忘れてたら思い出させてあげようと思ってたけど?』
アイツがあんなに反応してくれたのは初めてかもしれない。私が声掛けたら明らかに顔が強張ってたもん。
だけど全っ然面白くなかった。私よりもはるかに下の人間が、下にいなきゃいけない人間が自分が着てる服よりも高そうな服を着て楽しそうに笑って……許せるはずがないでしょ?
中学時代はぼっちだったくせに友達っぽい人に庇われてたのもムカついた。
だから、お仕置きしてあげようと思った。連れ出そうとしたんだけど、最初は動こうとしなかった。
それでも、強めにお願いすれば、言う通りに動こうとしていた……んだけど……
《──人間、貴様は何をしようとしている》
《貴様が手を出そうとしているのは至高の存在、貴様が如き人間は話すも無礼に値するぞ》
『っ! なに!?……えっ?』
マジで怖かった。背筋が凍りつくみたいな感覚があって、冷や汗まで流れてきた。
急に頭の中で2人の女の声が響いたんだ。威厳のある女の声が。
慌てて周りを見渡したけど、誰もいなくて、声だけが聞こえていた。
私以外は何も聞こえてないし 、感じてもいないみたいで、アイツは首を傾げてるし、私と一緒にいた二人も私の様子に戸惑いながらも笑っていた。
笑い事じゃないのに笑うとか信じられなくない?
『どーした?』
『なに、怖いんだけど?』
私の取り巻きのくせに本当に空気読めてなかった。マジありえないんだけど。
声はその後も聞こえ続けた。
《立ち去れ》
《そして、二度と現れるでない》
《万が一にも再び我らが姫の面前に現れたならば、その時は天罰が下るであろう》
《此度貴様を見逃すのは温情である》
《我らが姫の優しさに感謝せよ》
姿の見えない人外の存在に恐れを感じつつも、天罰っていうのは流石に冗談だと思った。……普段ならね。
その時ばかりは、そんな事あるはずないって思いながらも直感が告げていた。出任せの冗談じゃないって。
すぐにその場から離れた。
その時に姫野を気にしている余裕なんてなかったし、一刻も早くその場から離れたかったから。
* * *
っ、この私がアイツから逃げ出すなんてっ……!
「悠里、マジで何があったの?」
「大丈夫?」
「……そんなことはいいの。……さっき、アンタ達何で笑ってたワケ?」
「えっ? ご、ごめん……悠里が急に変な感じになっちゃったから……」
「ごめん、悪気があった訳じゃ……」
「……へぇ? 2人して私を笑ってたんだ?」
「ち、違!」
「そんな事はっ」
「ふ~ん?」
……マジでムカつく。アイツのせいでこの2人にまで笑われた。
……てか、“我らが姫”ってアイツのことだよね?マジで何なワケ?
今頃アイツが勝ち誇っているのかと思うとイライラする。
っ、このままじゃ済まさない。
必ず、私の方が上だってことを思い出させてやる………!
そう、その時の私は知らなかったんだ。
その様子を見られていたなんて。
~~~~~~~~
【補足】
美緒が朋夜と出会ってから引っ越しをした的なことを以前(2話)にチラッと記述したかと思いますが、その引っ越しに伴って咲空と美緒は転校をしております。
咲空が美緒と同じ学校なのは、朋夜が美緒と出会ってすぐに手続きをしたため、まだ咲空に嫌悪感を抱いていなかった(美緒に洗脳されていなかった)からです。
その後、朋夜は咲空を転校させようとしましたが、『お姉ちゃんを転校させないでほしい』というお願いにより、渋々二人を同じ学校に通わせておりました。
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