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2章 巡り逢う者達
7 . 神術
しおりを挟む「そして契りの儀式ですが、何をするのかはご存知ですか?」
「はい、契りの泉という場所で泉の水に神族の血を垂らし、それをその神族の半身の人間が飲むと聞きました」
「聞いたのはそこまでですの?」
「? はい……」
それ以外にも何かあるのだろうか?
私としては血を垂らした水を飲むというだけでも衝撃的だったんだけど……
「儀式はそこまでですわ」
「は?」
「人の理を外れた後に半身の額へ接吻し、自分の内を巡らした神力による印を付けると、それを受けた神族の力がより強力になりますの」
「ちょ、琴さん!」
水上先生の声にハッとした様子の琴さん。
せ、接吻ってキスのことだよね?……麗叶さんは私に気を遣ってこの事を言わなかったのかもしれない。
……それで相手の神族の力が強くなるんだ……
「ええと……天代宮様は元来の力がお強くていらっしゃいますので、こちらについても話し合いをしてくださいませ」
「は、はい……」
「ぼ、僕はさっき話した通り意識が朦朧とした状態で儀式をしたから、人間の理を外れるとかの覚悟もなにもなかったんだけど、今はよかったと思っているよ」
「奏斗殿はかなりのイレギュラーでしたわね。私も悠様と契ったことを後悔したことはございませんわ……先程申しました通り悩むことはありますけれど」
『よかった』という言葉の通り自分の幸運を噛み締めている様子の水上先生と、苦笑を浮かべながらも幸せそうな琴さん。
「姫野さん、不安なこととか気になることとか何でも聞いてくれて大丈夫だよ」
水上先生の言葉に琴さんもうなずいている。
「では……麗叶さんから契りを結ぶと神術を使えるようになると聞いたのですが、どのような感じでしょうか?」
「そうだな……僕の場合は水を作ったり、汚れた水を綺麗にしたりできるようになったよ。清香さんが水神族だからね」
「私の場合は悠様が龍神族ですので、天候を操れるようになりましたわ」
以前、麗叶さんから神族それぞれの一族が司る領域や、使う神術がどのようなものなのか聞いたことがある。
龍神族は天候を司っていて、雷や水を生み出したり操ったりできるらしい。水神族は水を司っていて水を浄化や生成し、操ることができるらしい。
……ちなみに神狐族は人間以外の動物の管理を司っていて、炎を生み出し、操ることができるみたい。
それを聞いた時『なぜ動物を司っているのに使うことができる神術は火なのだろう?』と思ったけど、それは神狐族が誕生した経緯に関係しているらしい。……詳しくは教えてもらえなかったけど。
と、思考がそれてしまった。
「やっぱり、相手の神族と同じ力を使えるようになるんですね」
「そうですわ。天代宮様は癒しの力をお持ちで、全ての一族の術をお使いになるのでしょう?」
「はい」
「ここで一つ問題なのは、歴代の天代宮様に半身を得られた方がおいでになりませんので、咲空様が契りを結ばれた際に天代宮様特有の癒しの力だけをえられるのか、その他の力も使えるようになられるのかはわかりませんの」
「!私以外にいなかったんですか?」
「私や悠様の知る限りは……」
申し訳なさそうに眉を下げる琴さん。
そうなんだ……でも、天代宮は他の神族の一族と違って一世代に一人しかいないから、必然的にそうなってしまうのかもしれない。
「ですが、癒しの力は確実に得られると思いますわ」
「そうですか……」
ずっとコンプレックスになっていた私の火傷を治してくれた、優しい力。それが使えるようになるのは嬉しいかもしれない。
「琴さん、実際に見てもらった方が分かりやすいと思いますよ」
「そうですわね。では私から」
そう言って胸の前で手を合わせ、その手をそっと離していく琴さん。
手と手の間には青白い電気……雷が、パチパチと音を立てながら踊るように光っていた。
「すごい……」
「今はこのような感じですが、もう少し大きくもできますのよ。……悠様や他の神族の方々と比べたら小さなものですけれど」
「十分にすごかったです!」
「そう言っていただけて嬉しいですわ。あと私にできるのは、地上の狭い範囲に雨を降らすなどでしょうか?」
人間が神術を使えるようになるとは聞いていたけど、実際に目の前で使われると感嘆してしまう。
「次は僕だね」
水上先生は片手の手のひらを上に向けて目を閉じた。
何をするのだろうと思ったつぎの瞬間、水上先生の手の上に握り拳くらいの大きさの水球が現れた。
「わぁ……」
琴さんもそうだったけど、何もない所に突然雷や水が現れるのは不思議な光景だ。
水球を見ていると、少しずつ形を変えていって小さな魚になった。
「っと」
「まぁ、こんなことも出来ましたのね」
「可愛い……」
水で創られた透明な魚が部屋の中を泳いでいく。
すごい……水を操るってこういうことも出来るんだ。
「こんな感じかな? ……僕は神力が少ないから派手なことは出来ないけどね」
「そんな、とても綺麗でした」
「ありがとう」
「私も見惚れてしまいましたわ。今まで隠していたなんて……」
「隠してたわけじゃないけど、使う機会がないじゃないですか」
「ふふっ、それもそうですわね」
琴さんが言うには、神術を使えるようになったとは言っても神族に比べたら小さなものだから普段使うことはないらしい。
「初めて神術を使った時はどんな感じでしたか?」
「不思議な感覚でしたわ。契りを結ぶと感覚的に神術を使えるようになったのですけど、自分の中を神力……それ以前はなかった力が巡っていくのです」
「僕もそんな風に感じたよ。僕が最初に神術を使ったのは清香さんの屋敷にある花の水やりだったな~神術の使い方とか注意点を教えてもらいながら二人で一緒に水やりをして…楽しかったよ」
「あら、惚気ですの?」
「い、いや~」
「ふふっ」
つい、笑いがもれてしまう。
……人間の理を外れるということを難しく考える必要はないのかもしれない。そこに気持ちがあるのなら。
簡単な問題ではないのは確かだけど、今を楽しそうに過ごしている二人を見ていたら、そんな風に感じた。
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読んでくださりありがとうございます(*^^*)
次話は学校に戻ります!!
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