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1章 動き出す運命

13 . 職員会議

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(葵視点)


 今までの姫様は自分が関わることで、自分が関わった者達に迷惑をかけてしまうとお考えになっていたのでしょう。
 ……姫様をそのような考え方にさせた根源を思うと怒りがこみ上げてきます。

 主様の半身となった今、姫様の行動を咎める者は存在しません。もともと他者姫様の行動を制限する資格を持つ者など存在してはいけないのですが……

 そして、姫様自身がお気付きでなくとも、姫様は他者と関わることに喜びを感じていらっしゃるようなのです。きっと、良い学生生活を送ることが出来るでしょう。




 
「──ここまでで何かご不明な点はございますか?」

 舎内を一通り説明を受けながら見て回ることが出来たので、最初にいた部屋に戻ってきました。

「いえ、お忙しい中ありがとうございました。……不明なことはないのですが、咲空様や私共に関してのことを教員には周知しておきたいとのことでしたので、私の方から説明しても?」

「そうしていただけると助かります。古澤校長にも伝えておきますので、放課後の職員会議で説明していただければ……とは言っても、開始まであと一時間近くありますので、それまではご自由にお過ごし下さい。何か気になることがあったら職員室までお越しいただければと思います」

「ありがとうございます」

 主様は姫様に早く会いたいあまり、いくつかのことの説明を私に任せて帰ってしまわれたので、その任を果たさなければなりません。

 時間まで自由にして構わない……気を遣ってくださったのでしょう。
 さて、ご厚意に甘えてここに在籍する者達のとしましょう。
 時間は半刻、十分ですね。





* * *





 予定の時刻が迫る頃には粗方の情報が集まりました。
 情報からすると、元は歪んだ魂をしていたであろう者も見受けられたしたが、そういった者も現在では善良に転じているようです。
 
 ……魂の性質が変じる。そういった事例は少なくありませんが、そういった者が複数一つの場所に存在しているというのには違和感を覚えます。主様も気付いておられるでしょうが、改めて奏上して調べていただきましょう。……この変化も主様が仰っていたものによる効果でしょう。

 魂が善良であるぶんには問題はなく、姫様が通われる障壁とならないのは幸いです。
 姫様の希望を叶えて差し上げたいと思うのは主様だけではありませんので。


「──島崎様」

「っ、戻られましたか」

「驚かせてしまいましたか……申し訳ありません」

「いえ……やはり凄いですね」

 職員会議を行うという職員室に行き、そこにいた島崎様に声をかけたのですが、姿を消したままだったので驚かせてしまったようです。

「術を解いてもよろしいですか?」

「あー……周りに声をかけるのでその後でお願いします」

「その方がよいでしょうね。ありがとうございます」


 

 私が術を解いて見えるようになると、教員方の間に驚きが広がりました。
 ……人間は法術が使えませんものね。

「校長先生がいらっしゃったら会議が開始しますので、その前に挨拶をしておいていただけますか? 天代宮様が来校されていたことは伝わっておりますので、葵様ご自身のことを紹介をしていただけると助かります」

「承知しました。……皆様、驚かせてしまって申し訳ありませんでした。本日、天代宮麗叶様の供として参った式神の葵と申します。……職員会議にも参加させていただきますので、本日の用向きの詳細はその時に」

 自分の紹介とは言っても、姫様のことなどはこの後にまとめて説明した方が混乱を防げますし、それ以外となるとかなり内容は薄くなってしまいますね……

「ありがとうございます。葵様、教員達の紹介はどういたしますか?」

「お気遣い痛み入りますが、ちょうど古澤様がお出でになったようですのでまたの機会に」


「──遅くなりました」

 私が言い終わるのと同時にガラッという音と共にドアが開いて古澤様が入ってこられました。
 正直に言ってしまうと助かりました。
 事実であろうと『皆様のことは既に把握しております』 と言うのは少々問題がありますし、かといって四十名以上の紹介を聞くのは……と思っておりましたので。


「では、本来の会議の前に天代宮様がいらっしゃった件について私と、こちらの葵様からお話ししましょう。まず、概要については私の方から……えー、2年4組に在籍している姫野咲空さんが天代宮様の半身であったとのことです。現在姫野さんは天代宮様に保護されており、明後日からの登校を希望されています。それに伴い───」

 教員達に見られるのは安堵と不安……相対する二つの感情が感じられます。
 古澤様は姫様の精神状態については述べつつも、は話されないようですね。それを含め全員が知る必要はないであろうことは触れずに話してくださっているようです。


「───では葵様、よろしくお願いします」

「──古澤様からお話しがっあった通り、咲空様は私の主である天代宮様の半身であり、咲空様のご通学の際には私と桃という名の式神が咲空様に付き従うこととなっております。先刻のように姿は消しての任とはなりますが、そうは言っても神族の存在があり負担に感じられるでしょう。しかし、私共は咲空様に穏やかな生活を送ってほしいと願っております。咲空様はご自身が特別に扱われるのを厭われますので、他の生徒と同じように接して差し上げてほしいのです。……咲空様の心身を不当に傷付ける行いをされない限り、私共は干渉しないと誓いましょう。我が主は皆様がご存知の神狐とは違いますので、皆様方が心配されているようなことは起こらないと断言できます」

 最後の文句によってある程度の不安は払拭できたようです。
 本当、がもっと自らの責務を認識していれば姫様があのように苦労しなくても済んだでしょうに……そうだった場合、姫様と主様が出会えなかったかもしれないと思うと複雑ですが……
 主様は責任あるお立場。姫様に限ってあり得ませんが、その行いが悪であればお諌めになります。どんなに姫様のことを大切に思っていようと。


 
「さて先生方、葵様と私の説明で何か気になる点はありましたか?」

「すみません、姫野さんの担任をさせていただいている早川千紗ちさと申します。今お話しにあったことですが、姫野さんの親御さんには伝わっているのでしょうか?」

「いいえ。本日こちらに赴く前に主と共に咲空様の自宅に行きましたが、在宅であった母君は咲空様を心配するのではなく人手不足を嘆いておられました。父君の出先も窺ってきましたが、そちらも咲空様を気にする様子は見受けられず、妹君は言わずもがな。お知らせするのは悪、と判断しました」

「そうでしたか……」

 質問をなさったのは早川教諭。姫様の学級の担任ですね。26歳と若いながらも教育に対してひた向きな姿勢であるため生徒、教員どちらからの信頼も厚い女性のようです。



 ──その後も何人かからの質問に答えて、姫様に関する話は終了となったので、古澤様が用意してくださったという教材を受け取り、玄関までお見送りくださるという古澤様と島崎様を伴って職員室から退出しました。

「──葵様! こちらのプリントとノートのコピーなのですが、姫野さんに届けていただけないでしょうか?」

「早川様、もちろんお届けいたします」

 慌てて追いかけてきた様子の早川教諭の手に合ったのは、姫様のご学友が姫様にと用意していた授業の記録。

「咲空様も喜ばれるでしょう。これを用意してくださった方にも感謝の言葉をお伝えください。……それと、皆様は咲空様……私共が敬愛する姫様の師。私に対する過分な敬称は不用にございます」

「分かりました。今後は『葵さん』と呼ばせていただきましょう」

 古澤様はそう穏やかに仰った後で、自分達のこともそのようにと付け加えられました。

 ……姫様以外の人間と直接関わるのは初めてでしたが、このようなのも悪くありませんね。









  
~~~~~~~~~~

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