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6章 全ての始まりと終わり

54 終わりへのカウント

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「ラストル様、こんばんは、、とても素敵ですわね」

 後ろから掛けられた声に振り返ると、仮面のような笑顔を張りつけたレイラ様とカイル兄様が立っていた。
 いつ会場に入ってきたんだろう?

「こんばんはレイラ様、、カイル兄様もお久しぶりです」

 さりげなくイルを背中に隠しながらにこやかに挨拶する。

「それにしても、、ラストル様がイリスと一緒だなんて驚きましたわ!」

「あれ、ご存知なかったのですね? 僕とイリス嬢は数日前に婚約しまして」

「実の姉に教えてくれてくれないなんて意地が悪いですわね。カイルは知っていましたの?」

「私も知らなかったよ……。ラストル、なぜ教えてくれなかったんだ?」

 カイル兄様が僕を睨み付けながら穏やかに問いかける。
 今日の解術が失敗したらどうしよう……。

「………申し訳ありません、ご存知のこととばかり思っておりまして」

「ラストル、以前はわたくしが最優先だといってくれましたわよね!?」

「何分、記憶力が悪いもので」

「っっアンタも隠れてないで何かありませんの!?」

 うわぁ、レイラ様の形相が人に見せられないレベルになってきた……。
 僕の背中でイルがビクッと震えた。
 アルが早く〈光〉の魔術を使ってくれないと危ないかもな………。明らかにレイラ様の信者魔術にかかっているだろう貴族たちが周りに集まってきたし。
 一端、二人から離れるか……。


 ───パッパーッパパパパー


 国王一家入場の合図があったのでレイラ様以外全員が頭を下げた。

「イル、この隙に魔術で物陰に!」

「え、えぇ」

「あっっ、逃げるなんて許しませんわ!───」



―――――――――――――



 イルの魔術で目の前の景色が変わった。
 ここは、、えっ?
 移動した場所に思い当たってそっとイルを振り返る。

「イ、イルここって……」

「えぇ、王族の方々のお席の後ろにあるカーテンの陰よ。アルバート様が何かあったらここに隠れていいって仰っていて、、」

 えぇ、僕知らなかったんだけど。
 まぁ、〈空間〉属性の瞬間移動は場所を知らないとできないから、王城に来たことがないイルが移動できるのはこのパーティー会場とここに来るまでの廊下だけか……。
 今日は王城にいなきゃで、レイ伯爵家の屋敷に移動するわけにはいかないしね。

「バレないかな?」

「アルバート様は大丈夫だって言っていたわ」

 アルが言うなら大丈夫だろうけど、王族が入場した今、一番注目されちゃう場所なんだよな………。
 王族の席は会場の一番前にあって、三段くらい高くなっている。
 それで、国王、王妃、王子アルの椅子が置かれている後ろにある赤い幕の陰に僕たちがいると、、
 ………まぁ、かなり厚い生地だし大丈夫か。
 会場にいる貴族たちにバレないよう、小声でイルと話す。

「イル、アルはここに来た後どうすればいいとか言ってた?」

「いいえ、でも待ってればどうすればいいか分かるだろうって」

 うん、すごく想像できる。
 まぁ、、信用はしてるんだけどそのセリフ行った時、不敵な笑みを浮かべてたんだろうな……。   
 色々考えているうちにすぐそばに人が来た気配を感じた。
 陛下たちが席に到着されたんだろうな。


「───皆、建国記念パーティーに来てくれたこと感謝する。この記念日を皆で祝い、よき時間を過ごしてほしい」

 公の場で陛下を見たことがなかったけど、すごい威厳がある。今まで見てた人とは別人みたいだ……。
 ………予定ではこの後にアルが解術の魔術を使うんだよな。さて、どうなるか──

「───アルバート!」

「はい!」

 次の瞬間、広いパーティー会場全体がまばゆい光に包まれた───




「──ちょっと! 何をしているんですの!? 侯爵令嬢のわたくしに対して無礼ですわ!!」

「くっ、レイラを放せ!!」

 光が弱まっていくのと同時にレイラ様とカイル兄様の叫ぶ声が響いた。

「その者達を前へ」

「「「はっ」」」

 陛下の命令に従った衛兵が移動してくる音と2つの声だけが響いた。


「さて、ラストルとイリス嬢もこちらへ」

 アルに呼ばれて戸惑いながらもイルと一緒に幕の陰から出る。

「イリス! そこにいましたの!? 王太子殿下に変なことを吹き込みましたのね? 許しませんわ!」

 僕の隣でイルがビクッの震える。

「サン侯爵令嬢、場をわきまえろ」

 いつも親しみやすい雰囲気をもっているアルだけど、今は王太子としての威厳が溢れていて、アルも王族だったんだななんて場違いなことを考えてしまう。

「レイラ、これは何事!?……国王陛下、王太子殿下、、娘が何か粗相を致しましたか?」

「ちょうど良いそなた達も呼ぼうと思っていたところだ。サン侯爵ならびにサン侯爵夫人」

 群衆の中で声を上げたのはサン侯爵夫妻だった。
 こんな中で娘を庇おうとするのは魔術の有無はともかくとして親らしいと言えるのかな?
 
 ………あれ? サン侯爵、、初めて見たけど、魔術に掛かってる感じはしがしないな……。
 夫人には強い魔術が掛かっていそうなのに。

「──そなた達の娘には国家反逆の容疑がかかっている。何か知っていることがあればこの場で証言せよ」

「……はい、私は我が娘レイラが魔術と思われる術を用いて周囲の心を操っているのを知っておりました」

「あなた!? 何を言うんです!? レイラがそんなことをするわけがありません、するとしたら……」

 サン侯爵夫人がイルを睨み付ける。
 それにしても、侯爵は気付いていたのか、、“侯爵”
という地位にあるから魔術の存在を知っているのはいいとして、何もしなかったのは?

「ふむ、侯爵は知っていて何もしなかったと?」

「はい、申し訳ございません」

「詳しくは別室で聞くとしよう、、その者達を連れていけ」

 陛下に命じられた兵が、イルを除くサン侯爵家の3人とカイル兄様を連れていこうとする。





「いつも、いつもいつもいつもっ! 何でアンタばっかり………許さないっ!」





 兵が座り込んだままうつむいていたレイラ様の腕を取ろうとした瞬間、、時の流れが遅くなったように感じた───





 


    
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