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2章 謎の記憶
6 異変
しおりを挟むラストル視点に戻ります
~~~~~~~~~~~~~
あの日、しばらくしたらイルはサン侯爵家の方々と帰って行きました。
馬車に乗り込むときのレイラ様のイルと僕を見る目が気になりましたし、イルの少し強張った表情も心配でしたが、イルはどこか吹っ切れたようにも見えました。
―――――――――――――
さて、イルたちがやって来た日から半年、僕は自分に違和感を覚えているんだよね。
………誰かの思考が自分の頭の中に入り込んでくるように感じることがあるんだ。
自分の頭の中での考え方も変わった。
兄様とオパールからは「口調、変わってないか?」と言われてしまったので気を付けないと………
イルとは文通を始めて、3日に1通ほどのペースでやり取りしている。
その中で、あの日イルに感じた疑問のいくつかが解消したんだけど……やっぱり───
イルによると、サン侯爵家の人たちは長女のレイラ様を溺愛して、イルのことは「陰気で地味な容姿」ってバカにしてるんだって。
イルはレイラ様みたいな派手な美しさがないだけで、可愛いらしい容姿と聡明さを持っているのに……!
イルの手紙には頼んでもサン侯爵家の屋敷から出してもらえないって書いてあった、、
イルのお母様のフィアナ様も、お父様のキース様もイルには必要最低限の感情しかもってなくて、嫌味ばっかり言われるんだって…………
────酷いな……………
辛いだろうにイルの手紙には絶望が見られない。イルは強いな………僕も支えてあげないとね!
そうそう、カイル兄様とオパールも様子がおかしいんだ。
………いや、2人だけじゃないね、ローズ母様と屋敷の使用人たちもどこかおかしい。
あの日から、レイラ様はこの屋敷に3回来てるんだけど、あの日、レイラ様の突然の来訪に困惑し、迷惑そうにしていた使用人たちが今ではどんなに突然の来訪であっても大喜びでレイラ様に熱い視線を送っているんだ………
カイル兄様はレイラ様をレイラと呼び捨てにするようになって、何があってもレイラ様が正しいと思ってるみたいだ。
「イリス様の我が儘に付き合う必要なんてないよ、レイラ」ってイルその場にいないイルを〝我が儘〟なんて言っていたし、
オパールは「レイラお姉さま、さすがです」とか「レイラお姉さまキレイです」が口癖になっちゃった………
母様は「イリスちゃんのお世話、大変じゃない?」、「レイラちゃんは優しいのね!」なんて言っている。
皆がみんなレイラ様を褒め称え、イルを貶す……
こんなのおかしい!
それに、カイル兄様も、オパールも、母様も、使用人たちも………寝ぼけているような、ぼぅっとしているような虚ろな目なんだ。
明らかに変だろう………
僕もレイラ様から「レイラと呼び捨てで呼んでくださいませ」とか、「愚妹のイリスと文通してくださりありがたいですわ」とか言われたが、それぞれ「お美しい侯爵令嬢を呼び捨てにするなんて、畏れ多いですっ」、「イリス様は聡明な方で、楽しいですよ?」って返したらポカーンとされた。
イルを聡明って言ったら、一瞬顔をしかめたけど……
そもそも呼び捨てって………僕は4歳年下の異性なんだから、、呼びづらいって!!
───まぁ、ライル父様はレイラ様にもイルにも会っていないし、僕も普段は会わないからわからないけど。
---------------
「ラストル、ちょっといいか?」
「!!父様、どうかなさいましたか?」
屋敷の廊下を歩いていたら、不意に父様の声がかかった。
父様は普段、伯爵家当主としての仕事で忙しくって、日中は執務室か自室に籠られて仕事をしているのに………
「ちょっと聞きたいことがあってな」
父様は苦笑しながら言った、、僕がびっくりしていたからだろうな……
「わかりました」
-------------
2人で父様の執務室に移動した。
執務室には父様付きの執事グレンがいた。
グレンは初老の優しげな人だが、実際は───
ナンデモアリマセン
5歳くらいの頃にグレンにいたずらをして叱られた時のことを思い出していたら、ニッコリと、それはもういい笑顔で微笑まれちゃいました。
「さて、ラストル最近、屋敷の者たちの様子が変なんだが、心当たりはないか? 私は普段、グレン以外との関わりがあまりなくて現状が分からないのだ」
………なぜ僕に聞くんだ?
「グレンがラストルだけがまともだと言っていてね」
………さすが父様、僕の考えが読めるのか?
父様はいつもと変わらない、紫の知性の瞳で僕の紫の瞳を見つめている。
「はい、父様……半年程前から、この屋敷の者たちは、サン侯爵家のレイラ様を褒め称え、イリス様を悪しように言っております」
「やはりか……………」
「私は普段、旦那様に付いておりますのでラストル様程正確には把握できていないかもしれまれんが、おかしくなっていないのは旦那様とラストル様、私だけでしょう。それ以外の者はレイラ嬢が中心の世界を生きているようにさえ見えます。私では、原因まではわかりませんでしたが、、、、」
……………グレン、結構把握できてね?
「ラストル、お前は原因がわかるか?」
「憶測でしかありませんが………」
「憶測でもいいから教えてくれるか?」
僕は一つ頷いて、自分が思っていたことを口にする。
「レイラ様が何らかの細工をしているのだと思います。」
「そうか…………」
父様はため息をついた。
「具体的にはわかるか?」
「それは───────」
何だ?これは。
また誰かの思考が入ってくる…………
「ま、じゅつ?」
〝まじゅつ〟って何だ?
──────ピクッ
「魔術だと?なぜお前が魔術を知っているんだ?」
えっ?
っ!───しまった、声に出ていたか………
でも、父様は〝まじゅつ〟が何か知っているっぽいな。
「き、急に言葉が浮かんできてっ!〝まじゅつ〟?とは何ですか?」
「フム……まぁ、いい。魔術というのはな、別世界に存在する不可思議な力のことだ。昔、シャイン王国には、魔術の存在した世界から〝飛ばされて〟きた人がいてな、その記録が残っているのだ」
べ、別世界?よくわからないのに、知っている気がする………
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自分で言っておいて、「何ですか?」っておかしいだろ、、、
「魔術に関する記録はシャイン王国の伯爵以上の家の当主と当主の信頼する人物だけが認知しているはずなのだがなぁ」
そ、そうだったのかっ!
この屋敷で知っているのは、父様とグレンだけってことか!?
「……まぁ、参考になった。今後も何か分かったら、教えてくれ。私とグレンでは、わからないことが多いからな」
父様は、少し考え込むような表情をした後で笑顔に戻った。
つ、追及はされないっぽい?
「はい、失礼します」
僕は自分の部屋に帰った後、すぐに寝てしまった。
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