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第18話 脱出
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門には兵士達が集まっている。慌ただしくあるが、殺気立っている雰囲気はない。そろそろ夕方に近付いているため、街に入ってくる人が多い。
いつでも走り出せるように、歩いて門に近づく。この時間に外に出る人は居ない、門に近づく椿はさぞや目立ったろう。すぐに兵士達の視線が集まった。その様子に、商人の護衛で街に入った冒険者達も、何事かと興味の視線を投げてくる。
「※※※、※※※※※※※?」
周りより少し身なりの良い兵士が声を掛けてきた。
生活用品の単語くらいしか覚えていないので、やっぱり何を言っているのか分からない。
バリケードもないし、兵士達が門を出る動線を塞いでも居ない。もう、このまま突破してしまおうか? たたっと駆け出した椿は、あっさりと門を突破する事ができた。
捕まえに来たのではないのだろうか? 兵士達にはどうも緊迫感がなかった。むしろ、門を飛び出した今になって初めて、焦ったような色の声が飛び交っている。
追いかけてくるかな? 夜の野外行動は命取りに成りかねないが、幸いまだ夕方も早い。まずは走り続けることにする。宿場町とか、馬の休憩場所があるのでは、と踏んでいるのだ。
椿はフルマラソンを5時間で完走できる。薙刀をやっていた体育会系の習慣は、社会人になっても維持できた。祖父に叱られると言うのもあるが、祖母の応援があるのが大きい。祖母が見せてくれる薙刀の形は綺麗で、歳による衰えを感じさせない。円熟のそれは、まさに心中が現れる様子で、憧れなのだ。
話が逸れたが、椿の皮算用はこうだ。
古代においては海外でも、日本でも、主要な街道には約15km間隔で駅が置かれていたと言う。急ぎの連絡で馬を走らせる場合は、潰さないように駅毎で乗り換えるのだ。替えの馬を管理する役人や、一般の人が休憩に使ったりもする。宿屋だってあるかもしれない。
……魔法がある世界なので、連絡手段に馬が使われていない可能性もある。これが皮算用と表現した理由だ。
まあ、あるとしよう。でないと救われない。
で、5時間で42km走れるとすると、馬の休憩場所が2~3箇所は見込める。この世界の馬がやたら健脚でなければ、同じように駅があるのでは、という目論見なのだ。日が落ちる2時間後には、1つ目の休憩所に着くんじゃないかな。
・・・・・
走り続けるも、ここのところの忙しかった3ヶ月間と言うブランクが重く伸し掛かる。ペースが上がらない。確認しようと思ったが、腕時計がなくなっている事に気付く。糞女神に没収されたか、獣の腹の中か……
それでも久々に全力で体を使う走行に、段々と清々しい気持ちになってきた。
走る街道の右手に林が遠ざかっていく。そして左手には丘が迫ってきており、道は迂回するようにその丘の向こうへと消えていく。木々が街道の側に点々と生えており、まるで木々に沿って街道を作ったような、ジグザグの進路に歴史を伺える。
1時間ほど経っただろうか、疲労が濃くなってきた。そう言えば、スカートで走るなんて馬鹿なことをしている。椿の背丈では、踝まであるはずの裾は、僅かに膝下となっていた。足の運びをそれほど邪魔するものではないが、風をはらんで大層な抵抗を生んでいる。外套は縛って肩掛けカバンと一緒に背中に垂らしているため、走りにくい以外の悪影響はない。
このままでは道中で日が落ちると考えた椿は、予てよりの試みを実践することにした。
魔法だ。
魔力という出鱈目なチカラを上手く使えるようになっておきたい。なぜならこの異世界は、椿を歓迎していないように思う。この先、敵は幾らでも湧いてくるだろう。獣も、ゴブさん達も、人間も。ひょっとして、人間が敵とみなす魔族(?)とやらでさえ、椿に襲いかかるかもしれない。
魔法といっても手から火が出るとか、そう言うものは考えていない。身体強化だ! ヨモギの煮汁を薬に変質させられるくらいだ。さぞや身体に良いに違いない。実際にポーションを作っていると、魔力を込める際に全身を巡らす様が、まるで気功のようだと思っていたのだ。
漫画的にもあるだろ? 爺さんの健康なんか絶対に気功だ、でなければ妖怪か何かだ。今なら気功を信じられる。爺さんが長い研鑽の果てに辿り着いただろう境地に、異世界パワーで追いついてしまえ!
ポーションづくりの際は上半身しか循環させなかった魔力を、全身を巡るように意識してみる。消えろ乳酸! そして筋肉を助け給え!
「おぉ……?」
魔力が全身を巡っていることを認知できるようになった頃、疲れが消えた?!
ような気がする。いや、消えた。やはり効果はあるのだ!
その後も夢中になって魔力の循環の仕方を替えて、効果の程を検証した。具体的に脚に魔力を集めてみると、ストライド(足幅)が広くなった。脚力の向上を体感できる程の効果だ。胸に、つまり肺に魔力を集めて呼吸を深くすれば、酸素と共に魔力が全身を巡る。力が漲ると言う奴だ。血液に絡めると、魔力を身体に行き渡らせるイメージがしやすい。魔力を身体に巡らすと、筋力が向上したり、体の老廃物を消し去って疲れを癒やす効果が見込めるようだ。
時計が欲しい、どれだけペースが上がったのか測りたいな。
そのまま、体感で2時間ほど走り続けると、果たして目論見通りに駅らしきものが見えてきた。
いつでも走り出せるように、歩いて門に近づく。この時間に外に出る人は居ない、門に近づく椿はさぞや目立ったろう。すぐに兵士達の視線が集まった。その様子に、商人の護衛で街に入った冒険者達も、何事かと興味の視線を投げてくる。
「※※※、※※※※※※※?」
周りより少し身なりの良い兵士が声を掛けてきた。
生活用品の単語くらいしか覚えていないので、やっぱり何を言っているのか分からない。
バリケードもないし、兵士達が門を出る動線を塞いでも居ない。もう、このまま突破してしまおうか? たたっと駆け出した椿は、あっさりと門を突破する事ができた。
捕まえに来たのではないのだろうか? 兵士達にはどうも緊迫感がなかった。むしろ、門を飛び出した今になって初めて、焦ったような色の声が飛び交っている。
追いかけてくるかな? 夜の野外行動は命取りに成りかねないが、幸いまだ夕方も早い。まずは走り続けることにする。宿場町とか、馬の休憩場所があるのでは、と踏んでいるのだ。
椿はフルマラソンを5時間で完走できる。薙刀をやっていた体育会系の習慣は、社会人になっても維持できた。祖父に叱られると言うのもあるが、祖母の応援があるのが大きい。祖母が見せてくれる薙刀の形は綺麗で、歳による衰えを感じさせない。円熟のそれは、まさに心中が現れる様子で、憧れなのだ。
話が逸れたが、椿の皮算用はこうだ。
古代においては海外でも、日本でも、主要な街道には約15km間隔で駅が置かれていたと言う。急ぎの連絡で馬を走らせる場合は、潰さないように駅毎で乗り換えるのだ。替えの馬を管理する役人や、一般の人が休憩に使ったりもする。宿屋だってあるかもしれない。
……魔法がある世界なので、連絡手段に馬が使われていない可能性もある。これが皮算用と表現した理由だ。
まあ、あるとしよう。でないと救われない。
で、5時間で42km走れるとすると、馬の休憩場所が2~3箇所は見込める。この世界の馬がやたら健脚でなければ、同じように駅があるのでは、という目論見なのだ。日が落ちる2時間後には、1つ目の休憩所に着くんじゃないかな。
・・・・・
走り続けるも、ここのところの忙しかった3ヶ月間と言うブランクが重く伸し掛かる。ペースが上がらない。確認しようと思ったが、腕時計がなくなっている事に気付く。糞女神に没収されたか、獣の腹の中か……
それでも久々に全力で体を使う走行に、段々と清々しい気持ちになってきた。
走る街道の右手に林が遠ざかっていく。そして左手には丘が迫ってきており、道は迂回するようにその丘の向こうへと消えていく。木々が街道の側に点々と生えており、まるで木々に沿って街道を作ったような、ジグザグの進路に歴史を伺える。
1時間ほど経っただろうか、疲労が濃くなってきた。そう言えば、スカートで走るなんて馬鹿なことをしている。椿の背丈では、踝まであるはずの裾は、僅かに膝下となっていた。足の運びをそれほど邪魔するものではないが、風をはらんで大層な抵抗を生んでいる。外套は縛って肩掛けカバンと一緒に背中に垂らしているため、走りにくい以外の悪影響はない。
このままでは道中で日が落ちると考えた椿は、予てよりの試みを実践することにした。
魔法だ。
魔力という出鱈目なチカラを上手く使えるようになっておきたい。なぜならこの異世界は、椿を歓迎していないように思う。この先、敵は幾らでも湧いてくるだろう。獣も、ゴブさん達も、人間も。ひょっとして、人間が敵とみなす魔族(?)とやらでさえ、椿に襲いかかるかもしれない。
魔法といっても手から火が出るとか、そう言うものは考えていない。身体強化だ! ヨモギの煮汁を薬に変質させられるくらいだ。さぞや身体に良いに違いない。実際にポーションを作っていると、魔力を込める際に全身を巡らす様が、まるで気功のようだと思っていたのだ。
漫画的にもあるだろ? 爺さんの健康なんか絶対に気功だ、でなければ妖怪か何かだ。今なら気功を信じられる。爺さんが長い研鑽の果てに辿り着いただろう境地に、異世界パワーで追いついてしまえ!
ポーションづくりの際は上半身しか循環させなかった魔力を、全身を巡るように意識してみる。消えろ乳酸! そして筋肉を助け給え!
「おぉ……?」
魔力が全身を巡っていることを認知できるようになった頃、疲れが消えた?!
ような気がする。いや、消えた。やはり効果はあるのだ!
その後も夢中になって魔力の循環の仕方を替えて、効果の程を検証した。具体的に脚に魔力を集めてみると、ストライド(足幅)が広くなった。脚力の向上を体感できる程の効果だ。胸に、つまり肺に魔力を集めて呼吸を深くすれば、酸素と共に魔力が全身を巡る。力が漲ると言う奴だ。血液に絡めると、魔力を身体に行き渡らせるイメージがしやすい。魔力を身体に巡らすと、筋力が向上したり、体の老廃物を消し去って疲れを癒やす効果が見込めるようだ。
時計が欲しい、どれだけペースが上がったのか測りたいな。
そのまま、体感で2時間ほど走り続けると、果たして目論見通りに駅らしきものが見えてきた。
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