上 下
5 / 93

第4話 糞女神

しおりを挟む
 やっと死ねた。もう痛みはない、解放された。あの兵士は私を苦しみから解放してくれたのだ。確かに意識が途切れたのだ、きっと死んだに違いない。そしてここは死後の世界という奴だろう、やけに明るいのが気になるが。

「もう大丈夫、これで※※※※※※」

 ……おかしい、あの女の声がする。

「※※※※※※※※※※」

 やっぱりあの声だ。そこで完全に覚醒した。

 湯にいる。湯気や体を包むお湯の感触が分かる。椿は広い湯船に浸かっていた。傍らには何やら光る柱があった。目を凝らすと、人のように見えなくもない。これか? これが声の主だろうか。

「※※※? ※※※※※※※」

 間違いなく、教会のような場所からずっと続く声の主のようだ。放っておこうと思ったが、何やらこちらを見つめている気がするので声をかけてみた。

「申し訳ないのですが、何を仰っているのか解かりません、うるせーよハゲ」

「※※※! ※※※※※※※……」

 光る柱を<言葉を話すもの>と認識した時点で、それが人の形を取った。まるでテンプレのようなローマ神話的な女神様が現れる。薄着が色っぽい。自分が話しかけたことに安堵したのか、表情が和らいだのが分かった。

 解らないとは伝えた。が、あちらも椿の言葉が分からないのではないか? この女神っぽい女性はお構いなしに話し続けている。話すたびに、怒ったり、しょんぼりしたり、と百面相を見せてくれる。取り敢えず放っておいて、椿は周囲の状況を確認した。

 これまたローマ調の神殿のような場所にいた。パルテノン神殿の外枠だけ真似たような感じだ。周囲は海のようだが水平線の彼方に陸地は見当たらない。まるで天守の最上階のように、パノラマに空が広がる空間を湯船が占めていた。女神の他には、似たような格好の美形が何人か居る。皆、視線を伏せて表情は伺いしれない。中性的な顔立ちから、天使なのかなと思わなくもない。日本人の想像力の範疇に収まっているあたり、この世界(?)とやらを作った中の人は地球に居るのかもしれない。

「※※※※※※?」

 女神はまだ、何かを語っているが取り敢えず無視しておく。



 椿は自分の右腕が繋がっていることに気づいた。体を見下ろすと、金髪の王子に斬り下げられた傷も塞がっている。しかし、腹から足にかけて、酷い事になっていた。某無免許医師のような継ぎ接ぎだ。流石に自分の皮膚の色と変わりはないが。よく見ると、左腕や肩にも爪で付けられたように平行に走る傷跡が無数にあった。

 なんせ、林に捨てられたのだ、獣に食われたのかもしれない。熊でも居たのだろうか、傷跡から腹を裂いて拡げられて食われたのだろうと想像をする。ますます、あの兵士に感謝しなければ。なんせ、致命傷でも死ねなかったのだ。あのまま放置されていたら、文字通り生きたまま獣に食われた可能性がある。

 落ち着くと、色々と疑問が湧いてきた。
 この女は、見たまんま女神なのだろうか?
 なぜ自分をこの場に回収したのだろうか?

 いや、どうやって回収したんだ?
 できるなら、斬りつけられる前にしてくれたらよかったんだが。

 アレはやっぱり勇者やら聖女やらを召喚するモノだったのだろうか。
 言葉が分かれば、今まさにそのことを説明しているかもしれない女が、この疑問を解決してくれただろうに。

「だから、何を言っているか分からないって!」

 その時だった、見覚えのある白い光が湯船の底から溢れてきた。

「※※※! ※※※※※※※!!!」

 女神が慌てているところを見ると、意図するものではないらしい。天使たちが駆け寄ってきて、手にしたものを渡そうとしている。受け取る間もなく、立ちくらみのような感覚とともに視界が変わる。

 また召喚なのか?
 あぁ……、そう言えば今、裸じゃないか……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

婚約破棄された王女は最強

紅 蓮也
ファンタジー
世界で一、二を争う大国であるローズナイト王国の第一王女であるマリン・ローズナイトは留学先である隣国の学院を卒業式したので帰国し、王城でのパーティーで婚約者となった際の顔見せで一度のだけ会ったことのあるマルベール公爵令息に突然、身に覚えのないことを理由に婚約破棄だと言われた。 マリンとしても会ったのも一度だけだし、国王陛下である父に言われて婚約しただけで、恋愛感情皆無だったので、身に覚えのない噂が広がるのはよくないので婚約破棄の理由を看破した上で婚約破棄に応じた。 マリンは父である国王陛下に謝られたので、王族籍から抜けて冒険者になる許しをもらうことにした。 王位は王太子である兄がいるし、ローズナイト王国は女王も認めているけどマリンは興味がなかったし、兄にもしものことがあっても第二王子である弟がいるから大丈夫だろうと思っている。 国王の父、王妃の母、王太子の兄、第二王子の弟、王弟で宰相の叔父から反対されたがなんとか王族籍を残したまま冒険者をするならと認めてもらった。 翌日、冒険者ギルドに出向き冒険者登録を済まし、マリンの冒険者としての第一歩がスタートした。 不定期連載

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

処理中です...