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アンチ・リアル 15
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「アンチ・リアル」 15
日斗志を風呂に入れたあと、日出郎は風呂上がりにその夜2本目のビールを開けた。
頼子が「また飲むの?」という顔で見ている。
たまに早く家にいると、こんなものかとでも思っているのかもしれない。
アルコールを嗜む習慣がない頼子は、日出郎のそんなところが好きではない。
しかし、好きではないことを、無理に理解してもらおうとは、日出郎はもう思わない。
頼子は変わらない。
変わらない人間に変化を強要するのは、暴力と変わらない。
日出郎は、ビールを持って部屋に移動した。
ドラフターには、藤田邸の図面が置いてある。
仕様書の無い図面のため、自分の覚えのために、各所の仕様を抜き出してまとめるつもりでいたが、それにしても記載が足りていない。
外部はRC打ち放しで、屋根はなく防水だけなので仕様は特に無い。
それは、住戸をテントで覆うため、塗装やタイルなどの仕上げを必要としないためかもしれない。
問題は屋内だ。
天井と外壁周りの壁は、そのまま打ち放しの躯体を使う。
これは、断熱層が無いことを意味する。
冬は大変熱効率が悪く、光熱費がかさむ。
まるで駐車場である。
内天井もふかし壁もないため、照明、換気空調設備は、全てむき出しで、配線の配管も露出となる。
まるで工場である。
一番驚かされるのは床だ。
普通は、基礎の上に木軸で床組し、断熱材を入れ、ベニヤを伏せる。
その上に、フローリングなりカーペットなり、クッションフロアなりを貼る。
石やタイルの場合は、最近では床暖房を仕込んでモルタルを用いて敷くのが一般的だ。
この家は、床暖房システムも入れず、シンダーコンクリートを打設した土間に、モルタルを金ごて押さえしてそのままなのだ。
床も、工場と同じである。
住宅ではない。
硬く冷たい床の上で、藤田は生活するつもりなのか?
欧米の生活習慣と同じく、靴を履いて暮らすのか?
このコンクリートの箱では、建築申請は通らない。
何故なら、建築物には、換気採光のために開口部を容積に応じて設けなくてはならないからだ。
藤田は設計士の癖に、大胆な違法建築に手を染めるつもりだ。
おそらく、きちんとした申請図は作成されている。
そこには、大きなはき出し窓が存在しているだろう。
この家は、窓を併設した建築として検査を受けた後、窓を撤去してコンクリートで塞ぐに違いない。
法を犯してまで実現したい意味がわからない。
法を犯してまで実現したいデザインですらない。
藤田は本当に、こんなクレイジーな家に住むつもりなのか…
便器まみれの壁や天井も問題だ。
この世に、壁や天井に取り付けるための便器など存在しない。
洋便器はボルトで固定するようになっているが、和便器は、床に据えてモルタルを詰めて固定する。
天井や壁に、どうやって取り付けるというのだ?
カラフルなラインを見ていると目が疲れてしまうが、それ以上に、この狂った住居と意味不明な書き込みが、日出郎の神経を容赦なくいたぶる。
地獄とは、それを目にした者にだけリアルなものとなるだ。
日斗志を風呂に入れたあと、日出郎は風呂上がりにその夜2本目のビールを開けた。
頼子が「また飲むの?」という顔で見ている。
たまに早く家にいると、こんなものかとでも思っているのかもしれない。
アルコールを嗜む習慣がない頼子は、日出郎のそんなところが好きではない。
しかし、好きではないことを、無理に理解してもらおうとは、日出郎はもう思わない。
頼子は変わらない。
変わらない人間に変化を強要するのは、暴力と変わらない。
日出郎は、ビールを持って部屋に移動した。
ドラフターには、藤田邸の図面が置いてある。
仕様書の無い図面のため、自分の覚えのために、各所の仕様を抜き出してまとめるつもりでいたが、それにしても記載が足りていない。
外部はRC打ち放しで、屋根はなく防水だけなので仕様は特に無い。
それは、住戸をテントで覆うため、塗装やタイルなどの仕上げを必要としないためかもしれない。
問題は屋内だ。
天井と外壁周りの壁は、そのまま打ち放しの躯体を使う。
これは、断熱層が無いことを意味する。
冬は大変熱効率が悪く、光熱費がかさむ。
まるで駐車場である。
内天井もふかし壁もないため、照明、換気空調設備は、全てむき出しで、配線の配管も露出となる。
まるで工場である。
一番驚かされるのは床だ。
普通は、基礎の上に木軸で床組し、断熱材を入れ、ベニヤを伏せる。
その上に、フローリングなりカーペットなり、クッションフロアなりを貼る。
石やタイルの場合は、最近では床暖房を仕込んでモルタルを用いて敷くのが一般的だ。
この家は、床暖房システムも入れず、シンダーコンクリートを打設した土間に、モルタルを金ごて押さえしてそのままなのだ。
床も、工場と同じである。
住宅ではない。
硬く冷たい床の上で、藤田は生活するつもりなのか?
欧米の生活習慣と同じく、靴を履いて暮らすのか?
このコンクリートの箱では、建築申請は通らない。
何故なら、建築物には、換気採光のために開口部を容積に応じて設けなくてはならないからだ。
藤田は設計士の癖に、大胆な違法建築に手を染めるつもりだ。
おそらく、きちんとした申請図は作成されている。
そこには、大きなはき出し窓が存在しているだろう。
この家は、窓を併設した建築として検査を受けた後、窓を撤去してコンクリートで塞ぐに違いない。
法を犯してまで実現したい意味がわからない。
法を犯してまで実現したいデザインですらない。
藤田は本当に、こんなクレイジーな家に住むつもりなのか…
便器まみれの壁や天井も問題だ。
この世に、壁や天井に取り付けるための便器など存在しない。
洋便器はボルトで固定するようになっているが、和便器は、床に据えてモルタルを詰めて固定する。
天井や壁に、どうやって取り付けるというのだ?
カラフルなラインを見ていると目が疲れてしまうが、それ以上に、この狂った住居と意味不明な書き込みが、日出郎の神経を容赦なくいたぶる。
地獄とは、それを目にした者にだけリアルなものとなるだ。
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