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ポルノグラフィアseason 2 1
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「ポルノグラフィア」season2 1
珍しく、日菜子は井上とけんかになった。
学校から、日斗志が同級生とトラブルを起こしたと連絡があった。
たまたま、日菜子が休みであったので、学校に赴いた。
日斗志が同級生に手を上げたとのことだったが、その同級生が、日斗志の友達を苛めていたのを咎めたことに、差別的な暴言でやり返されたことが原因だった。
「手を上げたことは確かに悪いですが、相手方の親御さんに謝るつもりはありません」
と、日菜子は担任に言い放って帰ってきたのだ。
たまたま打ち合わせで外に出ていた井上は、戻ってきてから日菜子の話を聞き、驚いて担任に謝るつもりで学校に連絡しようとした。
それを止めようとした日菜子と、言い争いになったのだ。
日斗志は、その様子を黙って見ていた。
かつて、井上が、妻の頼子と言い争いをする姿を、黙って見ていたのと同じように。
井上は、日斗志の視線に気が付いて、「もういい」と日菜子を拒絶した。
我慢できなかった日菜子は、上着を掴むと部屋を飛び出した。
気分が塞いだまま、名古屋に戻ってきてから、唯一の行きつけの店に足が向かう。
井上との諌いより、自分が感情に支配される敗北感の方が、日菜子にとっては惨めだった。
スチールアングルの片フラッシュに、リベットと溶接で造られた、まるで漁船に乗り込むような旧めかしい引き扉を開けると、美しいボトル棚が目に入る。
覚王山にあるバー、「遥」は、住宅展示場の同僚に連れられたのがきっかけで、時折独りで飲みに訪れていた。
「バーテンダーが美人の、珍しい店がある」と言われて来てみると、日菜子と同世代とおぼしき女性がカウンターの中にいた。
オーナーのバーテンダーは、醒めた目を持った、無口な美しい女だった。
そのオーナーは「エマ」という名前で、ハーフには見えなかったが、薄茶色のその瞳は、見る者に強い印象を残した。
いつも七分袖のブラウスを着たエマは、大企業の美人秘書のようにしか見えない。
その細く華奢な左手首に残る、おびただしいリストカットの跡を除いては。
この女は、それを隠す気がさらさら無い。
そして、醒めた瞳の女に、誰もその理由を訊く勇気が持てない。
エマは男性客には、自分から絶対話しかけない。
「男性は、自分から話す必要は無いわ。
話したいのは向こうの方だから」と、日菜子の同僚に言っていたのを聞いたことがある。
大した自信家だが、その通りだなと、日菜子も思った。
日菜子はブラッディマリーをオーダーすると、考えないようにと思うのとうらはらに、今日の出来事を反芻してしまう。
私のことではなく、日斗志にとって、私のやったことは良かったのだろうか?
日出郎が間違いだと思ったことは、日斗志にとって、どう感じたのだろうか?
私と日出郎、日斗志にとって、一体どんな存在なのだろうか?
私は、よくよく考えたら、ただの伯母にしか過ぎないのに…
「今日は、彼氏とけんかでもしたのかしら」
エマはブラッディマリーを日菜子の前に出すと、いつもと同じように、表情も変えずに声をかけてきた。
エマから、そんな普通の言葉をかけてもらったことが初めてだったので、日菜子は驚いてしどろもどろに陥った。
「えっ、ええ。そんなところです」
日菜子は反射的にそう応えたが、言ったあとで、なんてはしたないことを言ったのだろうと後悔した。
珍しく、日菜子は井上とけんかになった。
学校から、日斗志が同級生とトラブルを起こしたと連絡があった。
たまたま、日菜子が休みであったので、学校に赴いた。
日斗志が同級生に手を上げたとのことだったが、その同級生が、日斗志の友達を苛めていたのを咎めたことに、差別的な暴言でやり返されたことが原因だった。
「手を上げたことは確かに悪いですが、相手方の親御さんに謝るつもりはありません」
と、日菜子は担任に言い放って帰ってきたのだ。
たまたま打ち合わせで外に出ていた井上は、戻ってきてから日菜子の話を聞き、驚いて担任に謝るつもりで学校に連絡しようとした。
それを止めようとした日菜子と、言い争いになったのだ。
日斗志は、その様子を黙って見ていた。
かつて、井上が、妻の頼子と言い争いをする姿を、黙って見ていたのと同じように。
井上は、日斗志の視線に気が付いて、「もういい」と日菜子を拒絶した。
我慢できなかった日菜子は、上着を掴むと部屋を飛び出した。
気分が塞いだまま、名古屋に戻ってきてから、唯一の行きつけの店に足が向かう。
井上との諌いより、自分が感情に支配される敗北感の方が、日菜子にとっては惨めだった。
スチールアングルの片フラッシュに、リベットと溶接で造られた、まるで漁船に乗り込むような旧めかしい引き扉を開けると、美しいボトル棚が目に入る。
覚王山にあるバー、「遥」は、住宅展示場の同僚に連れられたのがきっかけで、時折独りで飲みに訪れていた。
「バーテンダーが美人の、珍しい店がある」と言われて来てみると、日菜子と同世代とおぼしき女性がカウンターの中にいた。
オーナーのバーテンダーは、醒めた目を持った、無口な美しい女だった。
そのオーナーは「エマ」という名前で、ハーフには見えなかったが、薄茶色のその瞳は、見る者に強い印象を残した。
いつも七分袖のブラウスを着たエマは、大企業の美人秘書のようにしか見えない。
その細く華奢な左手首に残る、おびただしいリストカットの跡を除いては。
この女は、それを隠す気がさらさら無い。
そして、醒めた瞳の女に、誰もその理由を訊く勇気が持てない。
エマは男性客には、自分から絶対話しかけない。
「男性は、自分から話す必要は無いわ。
話したいのは向こうの方だから」と、日菜子の同僚に言っていたのを聞いたことがある。
大した自信家だが、その通りだなと、日菜子も思った。
日菜子はブラッディマリーをオーダーすると、考えないようにと思うのとうらはらに、今日の出来事を反芻してしまう。
私のことではなく、日斗志にとって、私のやったことは良かったのだろうか?
日出郎が間違いだと思ったことは、日斗志にとって、どう感じたのだろうか?
私と日出郎、日斗志にとって、一体どんな存在なのだろうか?
私は、よくよく考えたら、ただの伯母にしか過ぎないのに…
「今日は、彼氏とけんかでもしたのかしら」
エマはブラッディマリーを日菜子の前に出すと、いつもと同じように、表情も変えずに声をかけてきた。
エマから、そんな普通の言葉をかけてもらったことが初めてだったので、日菜子は驚いてしどろもどろに陥った。
「えっ、ええ。そんなところです」
日菜子は反射的にそう応えたが、言ったあとで、なんてはしたないことを言ったのだろうと後悔した。
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