ポルノグラフィア

岡田泰紀

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ポルノグラフィア 4

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「ポルノグラフィア」4

井上が帰宅すると、日菜子が夕食の段取りをしていた。
その日は鰊の燻製と、小松菜と馬鈴薯を、刻みチーズと粗塩と胡椒で整えたパスタだった。

10歳の日斗志には酷とも思える大人のレシピだが、日菜子は躊躇しない。
あえていうなら、日斗志のために馬鈴薯を入れたぐらいに思っているのだろう。

案の定、日斗志は半分も食べずに顔をしかめて終わった。
日菜子はわかっていたので、スクランブルエッグで卵トーストを作って出した。

この家では家族は対等に扱われる。
イヤなものはイヤと言えるが、自分でできることは自分でしなくてはいけない。

井上と日菜子は、パスタとバケットを食べながらビールを飲んでいた。
それを横目に日斗志は、食べた食器をキッチンに運ぶと、その日は自分の食器を洗った。
食べられない時は、片付けまで自分でやるのがこの家のルールになっている。

日菜子はルールについて、ペナルティではなく、食べられなかった食材に謝りましょうと説明していた。
きっと日斗志にはわかっていないが、言われたことは守っている。

親権を話しあった時、井上は自分が持つと主張した。
調停離婚は避けたかった。
日本では、父親が親権を認められるのはかなり厳しいことを理解していたからだ。

妻が折れてくれるまで、本当に長い時間を要した。
面会に関して、妻の望む条件は全て認め、費用までも負担すると粘り強く説得したが、これほどの労力を厭わないなら、何故離婚しなくてはならないのかとすら思えた。

「離婚したのは、セックスレスだからでした。

愛する女と暮らしていて、抱くことが叶わないのは、地獄です」

井上は、先頃まで「茨」で一緒だった山田の言葉を脳裏に反芻していた。
それは、ショックだった。
山田の身の上話は、井上の夫婦の破綻そのものだった。

オレは妻を捨てたのだ…

ビールは腹が張るが、やはり飲み足りなくて、井上はジンのロックを自分で作った。
「お前は?」
「私は日本酒にするから、日出郎は自分の分でいいよ」

日菜子は本当はワインを飲みたいのだろうが、一人で空けるのはきついので日本酒にしたのだろう。
日菜子は発酵酒を好み、井上は蒸留酒を好んだ。
ただ、日菜子は、アルコールは何でもOKだったが。

テーブルに、借りてきた山田の本を置いていた。

「これ、どうしたの?」

「今日、秋さんに紹介された人が、自分で書いて、自分で製本した本なんだ。
これ一冊しかない貴重なやつを借りてきた」

「日出郎は、その人、気になったんでしょ?」

日菜子はよくわかっている。まるで双子のようで、その感覚は、とても心地良いものだった。

「ああ、ちょっとね。

今日のパスタ、美味しかったよ」
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