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せつなときずな 26
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「せつなときずな」 26
執行猶予がつかそうもないというのは、濱田美由が和解を拒否したことを意味する。
林の代理人から様子を聞いたサキは、それを刹那に伝えた。
刹那がかつての夫に面会に行くことはなく、サキは代わりに行ってみようかと思いつつ、娘が選択しないことを自分がするのもどうかとは思う。
絆が新たな保育園に入ることができたのは、シングルマザー支援をしてきたサキの信頼があってのことだが、刹那自身の社会復帰をどうすべきなのかは未だに考えがまとまらなかった。
第一に、刹那自身が何を考えているのか測りかねるているのが、物事をあまり深刻に捉えることができないサキですら悩ましかったのだ。
仕事もなく、絆と二人で過ごす毎日に、元々朗らかとは言い難い刹那の性格に微妙な影が射していることに気付かない訳にはいかない。
かといって、何を言うべきかもわからないし、放っておくこともできない。
サキは、珍しくパートナーに助言を求めた。
若い頃はだめんず一直線だったサキは、福原興業に入った時に地元の商工会で知り合ったNPO法人の若い代表の男と付き合うことになった。
それ以来、事実婚のような関係にある。
サキの事業経営に助言し、「ハートスタッフ」の立ち上げと、一宮市の社協、子ども福祉課との繋がりを仕掛けた裏方は、貧困家庭の支援をする社会事業家だった。
サキにとってそれは、生涯で初めてまっとうな異性との付き合いで、なおかつ最も長く続く関係となっている。
「僕からは会いません」
付き合い出した頃、娘の刹那に紹介したいと言ったサキに、田辺裕道ははっきりと言った。
「サキさんと娘さんの関係には入りません。
娘さんがそれを希む時、初めて僕は挨拶できます」
田辺はサキとの同居も否定した。
「家庭」の脆さを知っているからだと言って、サキと刹那の母娘を尊重するのだ。
まるで似合わない性格の二人をサキは奇妙に思ったが、若い男は「サキさんみたいな人会ったことがないから、僕は面白いんですよ」といつも笑う。
サキは初めて、「ただ、男といい感じになりたいだけ」の恋愛ごっこではなく、人生のパートナーを得ることで、自立した女へと変貌した。
その自身の成長の最中、刹那は在学中に妊娠し、サキは刹那を支えた。
田辺との関係がなければ、自分の娘にあそこまで思いきったサポートはできなかったはずだと、いつも思い返す。
林の事件のことも話してはいた。
田辺はいつも、サキの話をじっくり聞いたが、安易な言葉は一切言わない。
いつも自分から助言しようとはしない。
「で、サキさんはどうしたい?」
田辺はどんな時も、サキの心の裡の願望を掘り下げることに時間をかける。
物事を深く考えるのが苦手なサキは、それが時には面倒くさいと感じるので、余程のことがないと仕事以外の相談はしない。
悩みは、自分と向き合うことでしか解決できない。
悩みは、自分以外の誰にも解決はできない。
それは、おそろしく労力を必要とする苦行だ。
セラピーもカウンセリングも食わず嫌いなサキの、それはきっとプライベートレッスンなのだろう。
「前から言ってるんだけど、私、刹那のことがよくわかんないし、多分理解できないんだ。
私よりきっと頭が良くて、子どもの頃からあまり懐かなくて、かといって嫌われてもいなくて…
刹那が妊娠する前ぐらいから、ちょっと大人び出した瞬間があって、その頃ぐらいから親子の関係が近くなったと思う」
「でも、今の私は以前のように、また刹那を見失っている。
どうフォローしていいかわからない」
田辺はいつものように、黙って聞いていた。
サキがひとしきり話終えた後、しばらくの間を置いて口を開いた。
「わからなくていいです。
わからないことは不安でしょう。
わからないサキさんも、サキさんがわからない刹那さん自身も、二人とも不安なんじゃないのかな。
だから、とにかく、二人でいることです。
ただそこにいてください。
それに尽きます」
何の説明にもなってない言葉なのに、「それに尽きます」のやさしい力強さが、サキには何となく伝わるものがあった。
「オッケー、ありがとう
で、今夜は泊まってってもいいんだよね」
田辺が何も言わないから、サキは田辺の耳元にキスをした。
執行猶予がつかそうもないというのは、濱田美由が和解を拒否したことを意味する。
林の代理人から様子を聞いたサキは、それを刹那に伝えた。
刹那がかつての夫に面会に行くことはなく、サキは代わりに行ってみようかと思いつつ、娘が選択しないことを自分がするのもどうかとは思う。
絆が新たな保育園に入ることができたのは、シングルマザー支援をしてきたサキの信頼があってのことだが、刹那自身の社会復帰をどうすべきなのかは未だに考えがまとまらなかった。
第一に、刹那自身が何を考えているのか測りかねるているのが、物事をあまり深刻に捉えることができないサキですら悩ましかったのだ。
仕事もなく、絆と二人で過ごす毎日に、元々朗らかとは言い難い刹那の性格に微妙な影が射していることに気付かない訳にはいかない。
かといって、何を言うべきかもわからないし、放っておくこともできない。
サキは、珍しくパートナーに助言を求めた。
若い頃はだめんず一直線だったサキは、福原興業に入った時に地元の商工会で知り合ったNPO法人の若い代表の男と付き合うことになった。
それ以来、事実婚のような関係にある。
サキの事業経営に助言し、「ハートスタッフ」の立ち上げと、一宮市の社協、子ども福祉課との繋がりを仕掛けた裏方は、貧困家庭の支援をする社会事業家だった。
サキにとってそれは、生涯で初めてまっとうな異性との付き合いで、なおかつ最も長く続く関係となっている。
「僕からは会いません」
付き合い出した頃、娘の刹那に紹介したいと言ったサキに、田辺裕道ははっきりと言った。
「サキさんと娘さんの関係には入りません。
娘さんがそれを希む時、初めて僕は挨拶できます」
田辺はサキとの同居も否定した。
「家庭」の脆さを知っているからだと言って、サキと刹那の母娘を尊重するのだ。
まるで似合わない性格の二人をサキは奇妙に思ったが、若い男は「サキさんみたいな人会ったことがないから、僕は面白いんですよ」といつも笑う。
サキは初めて、「ただ、男といい感じになりたいだけ」の恋愛ごっこではなく、人生のパートナーを得ることで、自立した女へと変貌した。
その自身の成長の最中、刹那は在学中に妊娠し、サキは刹那を支えた。
田辺との関係がなければ、自分の娘にあそこまで思いきったサポートはできなかったはずだと、いつも思い返す。
林の事件のことも話してはいた。
田辺はいつも、サキの話をじっくり聞いたが、安易な言葉は一切言わない。
いつも自分から助言しようとはしない。
「で、サキさんはどうしたい?」
田辺はどんな時も、サキの心の裡の願望を掘り下げることに時間をかける。
物事を深く考えるのが苦手なサキは、それが時には面倒くさいと感じるので、余程のことがないと仕事以外の相談はしない。
悩みは、自分と向き合うことでしか解決できない。
悩みは、自分以外の誰にも解決はできない。
それは、おそろしく労力を必要とする苦行だ。
セラピーもカウンセリングも食わず嫌いなサキの、それはきっとプライベートレッスンなのだろう。
「前から言ってるんだけど、私、刹那のことがよくわかんないし、多分理解できないんだ。
私よりきっと頭が良くて、子どもの頃からあまり懐かなくて、かといって嫌われてもいなくて…
刹那が妊娠する前ぐらいから、ちょっと大人び出した瞬間があって、その頃ぐらいから親子の関係が近くなったと思う」
「でも、今の私は以前のように、また刹那を見失っている。
どうフォローしていいかわからない」
田辺はいつものように、黙って聞いていた。
サキがひとしきり話終えた後、しばらくの間を置いて口を開いた。
「わからなくていいです。
わからないことは不安でしょう。
わからないサキさんも、サキさんがわからない刹那さん自身も、二人とも不安なんじゃないのかな。
だから、とにかく、二人でいることです。
ただそこにいてください。
それに尽きます」
何の説明にもなってない言葉なのに、「それに尽きます」のやさしい力強さが、サキには何となく伝わるものがあった。
「オッケー、ありがとう
で、今夜は泊まってってもいいんだよね」
田辺が何も言わないから、サキは田辺の耳元にキスをした。
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