せつなときずな

岡田泰紀

文字の大きさ
上 下
11 / 55

せつなときずな 11

しおりを挟む
「せつなときずな」 11

刹那は、一杯いやらしことをされた。

どうして、そうなってしまったんだろう…

もうすぐ未成年が終わる今に至るまで、異性を好きになることはあまりなかった。
恋という感情が、どこから来るものかもよくわからなかった。
母親のサキは恋多き女だったが、その姿からは恋愛感情とは何なのかと想像はできなかった。
男子に告られたことも、自分がそんな対象だという噂も耳にしたことは無かった。

そもそも、自分の中の女性性に向き合ってこなかった。
幼くして父親が不在となったためか、サキに母性を感じなかったためか、学校に居場所を確保できなかったためか、いや、そんなことが理由ではなくても、女性というジェンダーを曖昧なまま生きてきて、居心地は悪かったけど、そんなものなのだと無関心を装っていた。

クラスのみんなが、刹那を見るようになった。
もちろん、学校にいる時は今までと変わらないのに。
でもある日、クラスメイトから「刹那、変わったよね」と言われた。
「えっ、何が?」
「なんかキレイになった気がする」

そんな頃、下校しようと下駄箱から下履きに履き替えていた放課後、やはりクラスメイトの濱田美由が突然声をかけてきた。
「福原さん」
刹那は濱田と話したことがないので、ちょっと気が引けた。
「公彦と付き合っているの?」

刹那は何か言いたかったけど、声が出ない。

「気を付けた方がいいよ。あいつはね」

その含み笑いに、林が付き合っていたのは美由だと知った。

何故か、気持ちが焦れた。
嫉妬ではない何か、それが掴みきれない。

走ってバス停まで行ったが、バスには間に合わなかった。
携帯で、林にメールする。
「バスに乗り遅れた」

返信はない。
それが気持ちを、一層不確かなものにする。

待ち合わせのビデオレンタルに、林はいなかった。
大体、制服姿で会いたくはなかった。だから少しだけほっとした。

そのまま家に帰ろうと、国道を逸れて独り歩いていると、後ろから声がした。
その声に、自分は本当は待っていたんじゃないかという疑念を覚えるのだが、一体何を気にしているのか、刹那はもうわからなくなった。

林は刹那の手を取った。
「勝手に握らないでよ」
「でも、刹那、握り返してるよ」
なんだか自然と笑みがこぼれてしまった。
サキは「あんた、男を泣かす女になるよ」と言った。
私は、もうそうは思えない。

恋愛感情はそこに無いのだ。
そうじゃない。
名前で呼び合ったり
手を触れたり
温もりのような何か
きっと、感覚や感触が、距離を置かずに自分を侵食してきたことに、私は無防備過ぎたんだ。

そのまま、林の部屋に行くことは当然のように思えた。
林が何も言わなくても。
部屋のドアを閉めると、林は刹那の首筋にキスをした。
濱田美由は「気を付けた方がいいよ」と言った。
今さら、何を?
ああ、そういえば、
今日はたまたま、お母さんが通販で買ったピーチ・ジョンの薄いピンクのインナーを着けてて良かったな…

こんなものなんだ。

ああ、女なんて弱いものよ、つかみどころがなくて。
水みたいな…

刹那は、パティ・スミスの「POPPIES」の歌詞を脳裏で反芻した。

「濱田さんと同じことを私にするの?」

「だとしたら?」林は、刹那の瞼をやさしくおろした。

「その覚悟があるのなら。

いい? 私は男を知らないんだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

処理中です...