せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 6

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「せつなときずな」 6

「白猫」の店員は、それは多分20代半ばかと思える明るくて清楚な女性なのだが、いつも放課後に学生服で訪れる刹那とは別人が来たと思った。

「こんにちは。今日は学校は休みなんで」
このカフェで刹那は初めて自分から口を開き、二重の意味で店員は目を丸くした。

「ごめんなさい、わかりませんでした。あんまりにいつもと違うので…
綺麗ですね。びっくりしました」

誰だって、そんな風に言われたら嬉しくない訳がないなと、刹那は思った。
頭の中で倖田來未の「butterfly」が流れたのは安直だなと、自分のイマジネイションの貧相さに苦笑しつつ、どんな因果にしても過去を風化できるだけの変容ができるのは悪くないなとも考えたりする。

これからは時折、「現在」を粉飾しよう。
意味なんかない。
空虚な内実を捨てて、虚構の外見に生きる感じか。

それはもしかしたら、お母さんと一緒なのかもしれない。
その違いは、無自覚か意図的かというだけで、内実を必要としないのなら、どちらだって変わりはしない。

今日の格好でココアは無いなと思った刹那は、飲みたくもないのにホットをオーダーして、ブラックで飲んだ。
店員は黙ってその様を見ている。
人から見られる体験があまり無い刹那には、それはどうにも奇妙な感覚であった。

「ごちそうさまでした」

刹那は、これといった宛てもなく、いつものように街を流すことにした。

風の強い木曽川沿いを、旧街道の美濃路を南に歩いていく。
寒いし、人通りもまばらだ。
黒いコートを羽織り、ヒールの音を立てて歩く刹那の出で立ちは、古い街並みには全くそぐわない。

まるでカラスだなと、刹那は思う。
人から好かれもせず、日がな黒く邪悪な姿をさらけて生きていくのに、当たり前だが当のカラスは、自分の黒さを嘆いている訳ではない。
蓼食う虫も好き好きだ。

私は、一体何を考えているのだろ?…

自らそんな姿をしながら、それでいて刹那は知ってる人間とは会いたくなかった。
無論そのほとんどは、学校の同級生だ。
見違えるように変貌した刹那に気付くかどうかはわからないとも思えるが、気付かれたら気付かれたで後々面倒だなとも思う。

平凡でつまらない学園生活に話題を投下するようなものか。
それはあらかじめり織り込み済みで、家を出てきたのではなかったのか。

いくつかの景色を携帯で写真に撮りながら、家まであと少しというところで、刹那の希望は叶わなかった。

声をかけられた刹那は、やましいことは何もないのに、わずかに動揺した。
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