せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 5

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「せつなときずな」 5

自らが、名古屋の名門私学女子高の出だったサキは、自分の娘にもそれを希んだが、刹那は全く取り合わなかった。

そもそも中学受験など真っ平ごめんだったし、何より女しかいない世界など地獄としか思えなかった。
それも中高一貫校など。

別に共学がよかった訳ではない。
男子に興味があった訳でもない。
それは、消去法だ。
男がいようがいまいが、女が50%しかいないなら、まだマシだ。
もう同性の同級生など、可能な限り存在して欲しくはないのだ。

刹那は、自分がタフだったとは思わないが、多感な時期に自分の全てを否定され続けた数年をサバイブしたことには満足している。
おかしいのはあいつらで、私ではない。
だから、私が負け犬のままでこの世界から消える選択肢など、一ミリとして有りはしない。
この世界がクソだとしても。

お母さんにはわからないだろう。
綺麗な女だけど、心の拠り所がない。
私にとってのという意味じゃなくて、お母さん自身が空虚なのだ。

嫌いではないけど、期待はない。

西尾張の片隅で、この地が好きでもなけば、拘ってもいない。
地元の中学を卒業して、一番近所の高校を選んだ。
もっといい学校を受けるようにしつこく勧められたが、刹那にはそんなつもりは微塵もなかった。
内心誰のためなんだと思いつつ、サキや進路指導の教員にほぼ無言で通した。
希望もなければ絶望もないのだから。
未来の姿をイメージできなかったけど、だから何だというのだろう。

刹那は、何にも依りたくなかった。
いつも注意深く人を見て、注意深く言葉を聞いて、可能な限り発言を控えた。
誰にも構って欲しくなかったし、私は独りで構わない。

中途半端に古びた街を流して、携帯で写真を撮るのが日課のような高校生活に、自分を異化する場所を好奇心で選択したのは、きっと偶然の産物にしか過ぎない。
放課後に「白猫」でココアを飲み、窓の外を眺めていると、窓の外からもう一人の自分が、店内で呆けている本当の自分を見つめているような気分になったりする。

刹那は、それはどうしてなのかわからなかったが、自分の人生に色気を覚えはじめた。
そんなことは多分生まれ初めてだろう。
その衝動を具体化するのに、メイクという手段を選んだ。

地上波で観た「薄化粧」という映画が脳裏にあった。
昭和の昔に人を殺めて全国を逃避行した実在の犯罪者を故緒形拳が演じていて、出自を隠して通った女郎に悪戯で化粧をされて、警察から逃れる手段に使えると発見するシーンが、刹那は何故か印象に残った。

己を隠して、偽る。
ならば美しい方がいい。

心なんかどうでもいい。
それは私が感じれればよくて、人が私を感じる必要などないのだ。

サキは先天的に感情に鈍感だった。
刹那は、後天的にそれを選ぼうとした。
結局二人は、同じような親子かもしれないし、そうではないのかもしれない。

学校の休みの土曜日、刹那はサキから習得したメイクでもって、自分のものにしたコートを羽織り、サキに買ってもらった黒いピンヒールを履いて「白猫」に向かった。

水商売?そう見えるなら、私はそれだけの女ってことでしょ?
刹那はずっと昔から、守るべき自我など欲してはいなかったのだ。
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