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せつなときずな 1
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「せつなときずな」 1
刹那は、自分の名前が嫌いだった。
それはそうだろう。名前に相応しい言葉でないものを、あのろくでなしは私につけたのだ。
きっと、読みが格好いいという理由でしかない。
キラキラネームと同じだ。漢字であるだけましとでも思っているのだろうか?
祖母が、不謹慎な名前だと言っていたのを耳にしたのは、小学校4年生の時だ。
言ってることを理解するには、充分すぎる歳だ。
刹那はその日、国語辞典でその意味を引いた。
大体、学校の授業で使う三省堂の国語辞典を買ってくれと言ったのに、嫌がる娘に化粧を施す母親は、化粧品と服には散財しても学資に回す気など毛頭ない。
与えられた、ブックオフのワゴンにあった角川の小さな辞典を引くと
①きわめて短い時間
②瞬間。とたん。「あわやの~」
と、あった。
刹那は、長生きしたらいかんのかと、暗澹たる気持ちになったし、空気読まないくそばばあにも、名付け親と同じ憤りを覚えた。
大人は、どいつもこいつもろくでなしだ。
父親は女癖が悪かったらしく、刹那が小学校3年の時に母親が三行半を突き付けた。
かと言って養育費を払うようなタマではない。
母親は刹那を連れて実家に転がりこんだはいいが、居心地のいい穴蔵みたいなその家で、小遣い程度のアルバイトを転々としては、稼いだ金を自分の虚栄につぎ込んだ。
もれなく男のオマケつきだ。それも見事にチャラ男ばかりで、小学生なのに母親に付き合わされる刹那はうんざりだった。
穴蔵は、くそばばばあとくそじじいの城だ。
一人娘に甘い訳ではなかったが、口でたしなめる程度で、結局自活を促すことも、経済的な支援をやめることもなかった。
大体、刹那の学資はすべて城の主が負担するありさまだ。
母親のサキは、いい歳をこいてもギャル風の姿に拘り、刹那はサキのお人形でしかなかった。
小学生でパーマをかけられメイクもされ、苛めは受けるは親は学校から呼び出しかけられるわで、どっちが娘なのかと子ども心に思わずにはいられない日々を送った。
一緒にプリクラを撮りたがるサキを見て、スガキヤのソフトクリームを交換条件にするのが、刹那の精一杯の抗議だった。
おかげでマスカラをつけるのは人より手際よくなったが、別にそれを欲した訳でもない。
私は普通の家庭が良かったのだ。
キラキラはいらん。
中学生になると、刹那はサキを無視して地味な路線に執着した。
するとろくでなしは、娘に興味を失って、ますますチャラチャラした生活を送るようになった。
何がろくでもないかって、元々地主の実家には離れがあるほど立派で、サキ母娘は離れに住まわされていたのだが、こいつは娘が一緒に住む離れに男を引き込んだりするのだ。
学校から帰ると、間男とよろしくやってる最中に出くわしたこともある。
よくグレなかったと思わないでもないが、グレる気も起きないぐらい、心が醒めてしまっただけだ。
名前と同じような人生になりたいわと、刹那は思うようになっていった。
刹那は、自分の名前が嫌いだった。
それはそうだろう。名前に相応しい言葉でないものを、あのろくでなしは私につけたのだ。
きっと、読みが格好いいという理由でしかない。
キラキラネームと同じだ。漢字であるだけましとでも思っているのだろうか?
祖母が、不謹慎な名前だと言っていたのを耳にしたのは、小学校4年生の時だ。
言ってることを理解するには、充分すぎる歳だ。
刹那はその日、国語辞典でその意味を引いた。
大体、学校の授業で使う三省堂の国語辞典を買ってくれと言ったのに、嫌がる娘に化粧を施す母親は、化粧品と服には散財しても学資に回す気など毛頭ない。
与えられた、ブックオフのワゴンにあった角川の小さな辞典を引くと
①きわめて短い時間
②瞬間。とたん。「あわやの~」
と、あった。
刹那は、長生きしたらいかんのかと、暗澹たる気持ちになったし、空気読まないくそばばあにも、名付け親と同じ憤りを覚えた。
大人は、どいつもこいつもろくでなしだ。
父親は女癖が悪かったらしく、刹那が小学校3年の時に母親が三行半を突き付けた。
かと言って養育費を払うようなタマではない。
母親は刹那を連れて実家に転がりこんだはいいが、居心地のいい穴蔵みたいなその家で、小遣い程度のアルバイトを転々としては、稼いだ金を自分の虚栄につぎ込んだ。
もれなく男のオマケつきだ。それも見事にチャラ男ばかりで、小学生なのに母親に付き合わされる刹那はうんざりだった。
穴蔵は、くそばばばあとくそじじいの城だ。
一人娘に甘い訳ではなかったが、口でたしなめる程度で、結局自活を促すことも、経済的な支援をやめることもなかった。
大体、刹那の学資はすべて城の主が負担するありさまだ。
母親のサキは、いい歳をこいてもギャル風の姿に拘り、刹那はサキのお人形でしかなかった。
小学生でパーマをかけられメイクもされ、苛めは受けるは親は学校から呼び出しかけられるわで、どっちが娘なのかと子ども心に思わずにはいられない日々を送った。
一緒にプリクラを撮りたがるサキを見て、スガキヤのソフトクリームを交換条件にするのが、刹那の精一杯の抗議だった。
おかげでマスカラをつけるのは人より手際よくなったが、別にそれを欲した訳でもない。
私は普通の家庭が良かったのだ。
キラキラはいらん。
中学生になると、刹那はサキを無視して地味な路線に執着した。
するとろくでなしは、娘に興味を失って、ますますチャラチャラした生活を送るようになった。
何がろくでもないかって、元々地主の実家には離れがあるほど立派で、サキ母娘は離れに住まわされていたのだが、こいつは娘が一緒に住む離れに男を引き込んだりするのだ。
学校から帰ると、間男とよろしくやってる最中に出くわしたこともある。
よくグレなかったと思わないでもないが、グレる気も起きないぐらい、心が醒めてしまっただけだ。
名前と同じような人生になりたいわと、刹那は思うようになっていった。
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