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ナンザルト先生から指名されたグロース様とメイベル様が魔獣と対峙しています。出てきたのはシルバーウルフでした。群れでなければ、それほど強くはありません。詠唱が完成するまで、シルバーウルフを引き付けておけばよいのです。どうやら、グロース様がその役を引き受けたようです。メイベル様は詠唱をしてシルバーウルフに魔法を叩きつけていますが、一度でというのは難しいようです。何度目かの魔法攻撃のあと、グロース様が剣でとどめを刺しました。他の方たちも同じ感じで倒しています。

私が魔獣を見るのはこれが初めてではありません。我が公爵領にも魔獣は出没しますから、お父様やお兄様、そして我が家に滞在していたレオナルド様と魔獣狩りによく連れ出されました。貴族なら魔獣は狩れて当たり前なのです。初めて魔獣を目にしたときは、その凶悪な外見に大泣きしてしまいましたが、馴れとは怖いもので、今は美味しいお肉に見えるのです。

「レオ、シルバーウルフは、そんなに強くないですよね?」

「そうだね。私たちにとってはね?」

あら?レオナルド様の言い方ですと、他の方には強いということになります。私はなぜ、みなさんが苦戦しているのか不思議でしたが、ここでも私の普通が通用しないようです。みなさん倒したときには息があがって辛そうですし、魔法攻撃した方たちもぐったりとしています。怪我をしている方もいました。控えている救護の先生がすぐに治療してくれますから、大事にはなりませんが。

次は、第2王子とエルシア様です。第2王子はどのような戦い方をなさるのでしょうか。

「始め!」

合図と共に、第2王子は詠唱を始めました。エルシア様が引き付け役・・・・というわけではなさそうです。どうしていいかおろおろしていますし、短剣すら携えてはいません。

これにはビックリです。役割分担しなかったのでしょうか?隣でレオナルド様も呆れた顔をしていますし、ミリーやランスも溜め息を吐いています。他の方たちも、ええ~?!と戸惑った表情を浮かべています。そうなりますよね?私たち女性も剣を扱うことはできますが、男性の剣術とは違い、身を守るためという意味合いが強いのです。ですから、これまでのみなさんは、男性がその役を引き受けていたのですが・・・・。案の定、シルバーウルフは、おろおろとしているエルシア様に狙いを定め、走り出しました。エルシア様は、恐怖を顔に張り付けてカタカタと震えています。授業の一環ですから、私たちは手出しはできません。ナンザルト先生がいつでも対処できるように攻撃魔法を準備済みですから、大丈夫でしょう。シルバーウルフがエルシア様の腕に噛みつく寸前、第2王子の魔法がシルバーウルフの腹に直撃しました。

「キャウン!」

よかった。

一時の危機は回避しましたが、第2王子の放った魔法では威力が足りず、シルバーウルフは、少しふらつきながらも、自らの足で大地を踏みしめました。すぐに攻撃対象を第2王子に変え、怒りで見据えています。エルシア様は、震えながらも詠唱を始め、魔法攻撃の準備をしています。第2王子は、剣を構えました。

初めからそうすればよかったのに・・・・。

第2王子は、シルバーウルフの攻撃をなんとか剣で防いでいます。王子の剣の腕前は・・・・。だから、さっさと詠唱を始めたのだと思います。詠唱を終えたエルシア様の魔法が発動しました。ですが、威力が足りません。今度は、エルシア様がシルバーウルフの標的です。エルシア様も懸命に逃げています。第2王子の剣がシルバーウルフを攻撃できないのですから、おふたりの魔法で仕留めるしかありません。それから何発魔法で攻撃したでしょうか。第2王子とエルシア様の魔力が尽きかける寸前で漸くシルバーウルフが倒れて消えました。

第2王子もエルシア様もボロボロです。

「ふん!だから、こいつと、組むのは、嫌なんだ!」

うわー・・・・。
最低ですね。私はあなたと組むのが嫌ですよ?

「次!ランスロットとミリーナ」

さて、おふたりはどんな戦い方をなさるのでしょうか。あら、おふたりの相手はシルバーウルフではなく、オークです。何故でしょう?

「ミリー、行くぞ!」

「OK」

ふたりは同時に剣を構え、オークに向かっていきました。ミリーナ様は騎士団の団長がお父上なだけあって、剣の扱いも手慣れています。ランスロット様は言わずもがな。ふたりとも戦いながら詠唱をしています。あっという間にオークが消え、魔石に戻りました。最後は私とレオナルド様です。どんな魔獣が出てくるのでしょうか?わくわくします。

「最後!レオナルドとシャルロット!」

ナンザルト先生が用意したのは、ワイバーンでした。

「「・・・・」」

これには私もレオナルド様も唖然としてしまいました。みなさん、シルバーウルフでしたよね?そこかしこから、「えげつない」と聞こえてきます。確かに!えげつないですよね?

「ロッテ。剣使う?」

「うーん。・・・・魔法だけでいきます」

「了解。じゃあ、私もそうするね。行くよ?」

「はい!」

私とレオナルド様はそれぞれ空中にいるワイバーンめがけてお互いに反対側からジャンプし、足に風をまとわせ、ワイバーンの高さまで飛び上がります。ワイバーンは、尻尾に毒を持ち、空中を飛び回ること、竜種に近いことから表皮が固いため倒しにくい魔獣ですが、そのお肉はトリよりもジューシーで美味しいのです。私たちはまず羽根を狙い、火魔法を放ちました。火力は充分。羽根さえ燃やせば後は簡単。レオナルド様が風魔法で首を落とし、私が火魔法で尻尾だけを焼ききりました。

「ねえ、ランス。ワイバーンって、あんなに簡単に倒せたかしら?」

「いいや。うちの騎士たちでも隊長クラス数人が必要だな」

「あのふたり、おかしいですわよね?」

「まあ、普通じゃないな」

「よかったわ。わたくしがおかしいのかと思ってしまいました」

周りの皆さまも「うんうん」と頷いています。私はそんな反応をされているとは露知らず、レオナルド様ににっこりと笑いかけたのでした。
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