愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

文字の大きさ
上 下
25 / 29

24

しおりを挟む
私の発言に信憑性を感じ取ったのか、宰相が間に入ってきた。

「どちらの申すことも誰も証明することなど不可能。愛し子の存在を知り後から名乗り出たシュシュ嬢の言うことなど信用できませぬな」

「確かに誰も証明はできないが、俺はシュシュ嬢に、今回の災厄の原因とやらを聞いてみたい。リルアイゼ嬢は女神様から教えられていないようだが、その辺りはどうなのだ?」

ハワード辺境伯閣下は、真実を見極めようとするかのように、私をじっと見ている。そこに私に対する親しさや私情はない。

「お答えします。それは、世界に漂う自然界の魔力の乱れに因るものです。魔獣の凶暴化も上位種への進化も全てそれが原因です。ですから、リルアイゼの言うようにいくら上位種を討伐しても魔力の乱れが正常化しない限り、新たな上位種が生まれます。闇落ちした竜が原因の前回の災厄とは異なるのです」

集まった大臣や第2王子殿下は「なるほど」と納得している。

「では、その魔力の乱れは如何様にして正常化されるのだ?」

「それが今回の愛し子の役目。・・・・フフ、歌うのでございますよ、閣下。愛し子の歌は魔力を含み、その魔力と旋律は常に正常な周波数を発します。その周波数に乱れた魔力を触れさせることで調律し、少しずつ正常化するのです」

「確かにシュシュ嬢はいつも歌っているな。歌ではならぬ理由は?」

「わたくしが女神様にお願いしたから、ですわね」

理由はそれしかない。目立たないこと、という条件をつけたら、そうなった。

「「「「はあああああ?!」」」」

これは、王太子殿下やお兄様、ガイウスにも言っていない。

「リルアイゼと違って魔獣の討伐とか無理ですし、目立ちたくなかったんですもの」

「いや、待て。愛し子の役割とは、そんなに融通が効くものなのか?」

「愛し子とは女神様との契約ですから♪」

「そんな、そんなわけないですわよ!そんなの違いますわ!愛し子とは女神様からお役目を戴いたとても崇敬な存在ですのよ!適当なこと言わないでくださいませ!」

「そうだ。兄上もそのような、平民に片足を突っ込んだような者の言うことを真に受けるなど、王太子としての資質を疑われても反論できませんよ?」

リルアイゼとその夫である第3王子殿下が反論してきた。それに勢いをつけられたのか他の仲間たち・・・・も口々に騒ぎ始めた。

「我々の使命を愚弄するなど、女神様を愚弄するも同然だ!」

「同感だ」

「だいたい、リルアイゼ嬢に」

「静かにしろ!騒ぎたきゃ別室へ行け!俺はシュシュ嬢の話が聞きたいんだ!」

ハワード辺境伯の一喝でその場はシーンと静まり返った。迫力のある一声でした。

「契約というのはどういうことだ?」

「あの、その前に今話している愛し子の情報は、今代の愛し子である私がこの世を去ると女神様によって回収されて、消えますよ?」

さすがにこの情報にはみんな呆気にとられている。

「そ、そうなのか。まあ、それでもいい。教えてくれ」

他の人も頷いているからいいんだろう。

「愛し子に選ばれた魂はその段階で女神様と邂逅し、希望を聞かれます。ここで愛し子を辞退することはできません」

「辞退したのか・・・・」と誰かの呆れた声が響いた。そうだよ。辞退したんだけど出来なかったんだよ。

「災厄に合わせた魂が選ばれるため、その望み自体、役割から大きく外れることはありませんけどね。大抵叶えてもらえますが、産まれ落ちるところだけは選べません」

「選べていたら、我が家は選ばないだろうね」

お兄様の言ったことは間違っていない。

「この時に能力や魔力量、属性、容姿なども決めることが出来ます」

「愛し子は産まれる前に自分で決めてくるのか?」

「そうなります。わたくしの場合は、魔力量、能力、属性、容姿の全てを目立たない普通程度にお願いしてきました」

「何故だ?」

「・・・・。リルアイゼを見てわかりませんか?わたくしはそれを望まなかったのですよ。ですから、リルアイゼが愛し子と名乗り出ようと別にどうでもよかった。率先して魔獣を討伐してくれるなら、願ったり叶ったりですし」

「では、何故今になって名乗り出た?」

「簡単なことですわ。リルアイゼがわたくしの平穏を乱したから。愛し子の命として、お兄様を陥れようと画策し、わたくしとガイウスを離縁させようとするから」

ハワード辺境伯だけでなく、大臣たちもビックリしている。驚いていないのは、国王夫妻、宰相、私の両親、リルアイゼとその仲間たち。

「おいたが過ぎたのですよ」

「それは、まあ。本当のことならキレるな」

「嘘です。出鱈目ばかり並べて。何処にも証拠などないではありませんか」

「そうだ。リルアイゼの言うとおりだ。アルベルトよ、その女の言うことが正しいと言う証拠を示せ」

ここに来て、国王陛下が慌て出した。これまで、証拠というものは見せていないから、そこを突いてうやむやにしたいのだろう。

「証拠、見たいですか?相当腹に据えかねているようですから、自衛してくださいね?」

「ちょっと待て。そんなになのか?」

王太子殿下はコマちゃんとキュウちゃんの怒りを知っているから慌てている。

「はい。リルアイゼとお仲間の皆様、宰相様、国王夫妻、わたくしの両親は一瞬で首が落ちそうですよ?」

「静めてからにしてくれ」

『だって。我慢できる?』

『フン!』

『嫌だよ!』

『でも、私、血溜まりは見たくないよ』

『なら、一瞬で消し炭にしてやろう』

『それがいいね』

『ダメダメ。私は結構満足してるから、ね?物騒なことは止めて。あの人たちにはね、まだ生きててもらわないといけないんだよ』

『仕方ないな』

『ブー』

「なんとか、大丈夫・・・・かな?」

「・・・・信じよう」

私は愛し子の証であるキュウちゃんとコマちゃんに姿を見せるようお願いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...