愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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その日以来私は、家族を信用しないことにした。だから、リルアイゼにぬいぐるみを奪われてすぐに、私はキュウちゃんに、私専用の誰にも見つからない空間は創れないかと相談した。そうして手に入れたのが、異空間箱。私だけの物入れ。入れたものは劣化しない優れものだ。キュウちゃんは回復や補助が得意で、コマちゃんは戦闘が得意。ふたりはいつもそれぞれのやり方で私の周りを警戒してくれている。

嫌がる私からぬいぐるみを取り上げたマリーはどうやらリルアイゼに気に入られたようだ。私の側から離れることが増えた。つまり、私の自由時間が増えたことになる。ヤッホイ!護衛のお兄さんは少し離れたところにいるけど、屋敷の敷地内にいれば何も言っては来ない。この人はハワード辺境伯家からやって来た人で、任務としてちゃんとお仕事してる。

私はコマちゃんとキュウちゃんを連れて、裏庭でお昼寝。ポカポカの日差しの中、コマちゃんに凭れ、キュウちゃんに寄り添われて至福の時を過ごす。時々見かける庭師のおじさんにハーブや薬草のことを教えてもらったり、一緒に花の植え替えをしたり。泥んこになってもキュウちゃんがいれば、綺麗にしてもらえる。料理長も友達だ。あの人は、料理のことにしか興味がない。前世の料理をそれとなく仄めかすと研究に研究を重ねてそれらしいものを作り出してくれる。ただし、気を付けないと私の素性が愛し子だとバレる可能性があるから注意が必要だ。この頃になるとお父様もお祖父様も何も言わないのをいいことに、マリーはリルアイゼにベッタリになった。きっと両方若しくは愛し子だと確信した方に気に入られろとでも言われているんだろう。

そうして私的に充実した日々を送っていたある日、王都の学園に通っているお兄様が長期休暇で領地に戻ってきた。馬車で1月かかる道程も、お兄様には2日の距離。領地に戻りたい一心で魔法を開発したとか。何その能力。おかしいよね?

「おかえりなさい、お兄様」

「おかえりなさい、お兄様ぁ」

「にぃにぃ」

「ただいま。シュシュ、リル、クルーガ」

お兄様は、私とリルアイゼを順番に抱き締めてくれた。人に抱き締められたのは、お兄様が学園に行くためここを離れた日以来だから、2年ぶり。

「戻ったか、ライナス」

「元気そうで、よかったわ」

「ただいま戻りました。父上、母上。お祖父様もお祖母様もご健勝のようですね」

「ははっ!お前が一人前になるまでは現役でおらねばな!」

「本当によく戻ってくれました」

お祖母様は、お兄様を抱き寄せて涙ぐんでいる。

「ライナスも疲れていることでしょうから、お茶に致しましょう」

お兄様が帰ってきたことが嬉しくて、私もみんなの後について家族の居間に久しぶりに足を踏み入れた。それが間違いだった。最後に部屋に入った私の座る場所は何処にもなく、誰もその事に気付かない。床に座るわけにもいかず、私はそっと誰にも気付かれないように踵を返し部屋を出たところで、図ったように居間の扉が閉められた。その様子をお兄様が横目で見ていたことなど気付きもしなかった。

部屋に戻った私は、異空間箱からお茶のセットを取り出し、一息いれることにした。お茶とお菓子は料理長がこっそり分けてくれる。ここ最近はご飯も調理場の隅に出してくれるから、育ち盛りの私には大変ありがたい。リクエストに答えてくれることもしばしばだ。

「ふう。お兄様、元気そうでよかったよ」

『あいつは、シュシュのことをよく見てるからな。ボロを出すなよ?』

「あ、うん。気を付けるね」

コマちゃんの注意はありがたいけど、いつも通りにしているとバレる気がする。お兄様がここにいる間は自重しよう。

『今日はここにいるの?きっと誰も来ないよ』

「そうだね。じゃあ、森で見つけたブルーベリーを摘みに行こうか?」

『行こう行こう!』

『いいな!』

「それじゃあ集まってね。キュウちゃん、よろしく♪」

私はお兄様が心配していることなど露知らず、初夏の森へとキュウちゃんに転移してもらった。

『よし!何もいないな。出てもいいぞ』

キュウちゃんと結界の中でコマちゃんの安全確認を待つ。私はまだ魔法は使えないし、戦闘能力も防衛能力も皆無だから、全ては2匹の能力にかかっている。コマちゃんの許可が出たところで、てくてくと森の中を歩いてブルーベリー摘みに勤しむことにした。帰ったら、料理長に頼んでタルトとジャムにしてもらうつもりだ。

「フンフンフン♪♪♪フンフン♪♪フフーンフンフン♪♪♪沢山採れたね♪」

鼻唄混じりにプチプチと摘まんで籠に入れた。私が歌うとコマちゃんもキュウちゃんも嬉しそうだ。空気も清々しくなった気がする。

『ねえ、1曲歌ってよ』

『そうだな。シュシュの歌は気持ちがいい』

では、リクエストにお答えして、有名なあの曲を。

「♪♪♪♭♭♯♪♪♪♪♪♯♯♭♪♪・・・・♪♪♪♪♪」

魔力を帯びた私の声が森に響き渡る。それは、どこまでも伝わり、音が消えてもその周波数は拡がっていく。そして、わずか数秒でこの世界を包み込んだ。これが、魔力を調律するということだ。歌が終わると調律された魔力は、徐々に元に戻ってしまう。ま、気長に行こう。

『いいな。力が迸ぎる』

『元気になったよ!』

「さあ、帰ろうか」

私は早速、料理長の元へブルーベリーを届けた。明日のデザートはタルトに決まりだ!
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